004
「完成! これでどこから攻められても大丈夫ですね!」
「おー、流石はクリス様!」
クリスは使い魔に命じて、村の防衛力を強化していた。
周囲を木の防壁で囲み、防壁の上には巨大弩砲〈バリスタ〉を設置する。
魔物の勢いは日を追うごとに増していた。
もはやクリスだけで全ての村を守り切るのは不可能だ。
だから村人にも戦ってもらうことにした。
「クリス様、我が村の誇りである大浴場で癒やされてください!」
「ありがとうございますー!」
全ての作業を終えたクリスは大浴場に移動する。
大浴場の脱衣所に着くと、ホッと一息ついてから服を脱ぐ。
同世代の間で流行している露出度の高い服だ。
脱衣の度に彼女は思い出す。
かつて宮殿で耳にした衛兵たちの下品な会話を。
『クリス様って顔は最高なのに体はなんというかアレだよなぁ』
『やっぱり男たるものもう少しボインだと嬉しいよなぁ』
クリスは自分の胸を見つめた。
自分でも「たしかに貧相かも」と思ってしまう。
「早く違う服が流行ってくれないかなぁ。胸の谷間を見せる今の服は私が着ても微妙なんだよー」
ブツブツと独り言の愚痴をこぼしながら湯船に浸かる。
天然の温泉が彼女の肌をすべすべにした。
「温泉サイコー!」
大きな木の浴槽を惜しみなく利用するクリス。
はしたないことを承知で、泳いだり歌ったりと好き放題。
さらには犬型の使い魔を召喚して、牛乳瓶を持ってこさせた。
「ぷはー!」
グビグビと牛乳を飲み干すと、空になった瓶を使い魔に渡す。
使い魔はそれを咥えて外へ出て行った。
「使い魔がもっと自由に行動できたら楽なのになぁ」
使い魔の行動範囲は術者を中心に半径1キロメートル程しかない。
これは魔力量に関係なく一定だ。
行動範囲に制限がなければ、クリスは全ての村に使い魔を配置しただろう。
「でも、魔具って本当に便利だなー」
右手を見つめるクリス。
その時、召喚の指輪がきらりと光った。
牛乳瓶を返すという命令を遂行して、使い魔が消えたのだ。
「今後は私がいなくても大丈夫だろうし、明日から何しようかなぁ」
明日からの予定をのんびり考えるクリスだった。
◇
「お前は本当にテレサ様の孫なのか? 嘘をついているんじゃないのか?」
この日もビクトルはサリーを責めていた。
ネチネチ、ネチネチ、同じベッドで寝るサリーに嫌味を言う。
「ごめんなさい、ビクトル様……」
サリーはビクトルに背を向けて謝るのみ。
しかし、謝ったところで事態が良くなることはない。
魔力量は先天的に決まるからだ。
泣こうが、喚こうが、滝に打たれようが、魔力量は増えない。
「本当に使えない奴だな、お前は。クリスとは大違いだ」
「うぅ……」
サリーにとって最も傷つくのがクリスとの比較だ。
ビクトルは事ある毎にクリスの名を出していた。
クリスの方が美人だった、クリスの方が優秀だった、クリスの方が……。
クリスと比較してくるのはビクトルだけに留まらなかった。
宮殿で働く衛兵やメイドなども、しばしば同様の話をしていたのだ。
もっとも、これはサリーの自業自得とも言える。
聖女になった当初、衛兵やメイドに対して酷い振る舞いをしていたのだ。
ある時は、挨拶が遅れたという理由で衛兵を百叩きの刑に処した。
そしてまたある時は、服のチョイスが悪いという理由でメイドを殴った。
対するクリスは聖女だった頃、衛兵やメイドたちに優しくしていた。
理不尽に振る舞ったことはただの一度たりともない。
上下関係はあるものの、時には友達のように話せる程の仲だった。
衛兵たちがクリスの胸に関する会話をしていたのも気の緩みからだ。
だから彼女は、そんな会話をしていた衛兵たちを叱りはしなかった。
笑顔で「巨乳じゃなくて悪かったわねぇ」と睨み付けただけだ。
「ま、もうじきクリスが聖女に戻る。そうなったらお前は用済みだ。王妃として自由に暮らすがいい」
「はい……」
夢にまで見ていた王太子妃や王妃の座。
それを手にしたというのに、サリーの気持ちは暗かった。
(早く聖女に戻ってきてよ、クリス)
目をギュッと閉じて祈るサリー。
その時だった。
「ビクトル様ー!」
衛兵が寝室のドアを激しく叩いたのだ。
「なんだ騒々しい」
ビクトルはうんざりした様子で応える。
するとドアの向こうから、衛兵が大きな声で言った。
「クリス様の所在が掴めました!」
「本当か!」
日をまたぐ直前で、ビクトルはこの日初めての笑みを浮かべた。
◇
「いっただっきまーす!」
クリスの朝はご馳走のフルコースから始まった。
村の外に用意された巨大なテーブルに、所狭しと皿が並んでいる。
行き過ぎた感謝の気持ちから、村人たちはとんでもない量の料理を用意した。
しかし、クリスには何の問題もない。
「これ美味しい! こっちのチキンレッグもサイコー!」
まるで少年漫画の主人公みたいにガツガツ食べるクリス。
テーブルの上の料理をペロリと平らげていく。
瞬く間に空の皿が積み上がっていった。
実に気持ちのいい食べっぷりだ。
「クリス様ー、どうしてそんなに食べられるのー?」
クリスが自身の体重を上回る50キロ近い料理を平らげた時のことだ。
村の小さな男の子が不思議そうに尋ねた。
「特異体質でねー、どれだけ食べても大丈夫なの!」
「すっげぇ! クリス様すっげぇ!」
「ふっふーん!」
クリスは数時間かけて村の食材を食べ尽くした。
お腹は軽く膨らんでいるものの、食べた量には比例していない。
「たくさん食べちゃったし、今日は畑作業を手伝いましょう!」
「いいんですかい!?」
村長のお爺さんが驚いたように言う。
「もちろんです! 手伝わせてください! 頑張りますので!」
クリスが腕まくりをする。
と、そこへ、村の外から馬車がやってきた。
「クリス様、クリス様!」
馬車の御者を務める男がクリスを見て声を弾ませる。
クリスより少しだけ年上の若い男だ。
「わお! 貴方は宮殿の……トムさん!」
「フランクリンですよ! トムなんて男、宮殿にはいないですよ!」
「あはははは」
フランクリンは馬から下りると、クリスの前で跪いた。
「国王陛下の命を受けて来ました。クリス様、どうか馬車にお乗りください。今すぐに宮殿までご足労いただきますようお願いいたします」
クリスは悩まずに答えた。
「えー、やだ!」
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