表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/36

035

「ビクトル様、助太刀にきました。私はもう聖女ではございません」


 サリーが右手の指を見せる。

 そこに神器は装着されていなかった。


「ディウス様の許可を得て、聖女の任を一時的に解いてもらいました。今はチートを使った方が代理の聖女を務めています」


 サリーは死んだ魔女隊の隊員から召喚の指輪を回収し、自らの指に嵌める。

 そして右手を高らかに掲げ、使い魔を召喚した。


「撤退する必要はございません。ビクトル様の野望は私が叶えます!」


 サリーの使い魔は魔女隊のものより弱い。

 なぜなら彼女の魔力は測定器を壊す程ではないからだ。

 それでもビクトルはこう言った。


「分かった、では共に戦おう」


 ビクトルは戦を熟知している。

 サリーの登場によって空気が変わったことを察知した。

 今ならば勝てるかもしれない、そう感じたのだ。


「新たな命令だ。皆の者、シャロンのゴミ共を蹴散らせ! ここまで来た聖女に恥じぬ戦いを見せろ!」


「「「うおおおおおおおおおおお!」」」


 一気にドーア軍の士気が高まる。

 全員の顔が引き締まり、動きにキレが戻った。


「行きなさい!」


 サリーが使い魔に突撃命令を出す。

 健康的な色をした使い魔軍団が戦いに加勢した。


「クリス、あなたにこれ以上の邪魔はさせない。あなたのせいで私の人生は滅茶苦茶になった。あなたさえ、あなたさえいなければ!」


「よく言う……!」


 クリスとサリーが使い魔越しに睨み合う。

 その間にも戦闘は継続している。


 刻一刻と時が流れていく。

 形勢は次第に傾いていった。


「これでも届かないのか……!」


 ビクトルが苦悶の表情を浮かべる。

 サリーの登場による士気の高揚があっても、形勢は変わらなかった。

 じわじわとクリスの使い魔軍団が押し始めているのだ。


 既に単純な戦力ではドーア軍の方が上だ。

 それでもクリスが勝っているのは連携力の差である。

 阿吽の呼吸で動く彼女の使い魔軍団に対し、ドーア軍はボロボロだ。

 流石のドーア軍も、使い魔と連携した戦いの訓練はしていなかった。


「クリス、ここでもあなたは……!」


 サリーが舌打ちする。


「潮時だな」


 ビクトルがため息をつく。

 その音は喧噪をすり抜けサリーの耳に入った。


「レイ、貴様を殺して今度こそ撤退――」


「ビクトル様、お待ちください!」


「なんだ?」


 ビクトルは振り返り、そして、気づいた。

 サリーが注射器を持っていることに。


「それは、まさか……」


 サリーがコクリと頷く。


「最後の最後くらい、私はあなたの役に立ちたい!」


 そう言って、彼女は〈チート〉を腕の静脈に刺した。

 後のことなど欠片も考えていない。

 クリスに勝つ可能性のある最初で最後の戦い。

 サリーにとってはこの戦いが全てなのだ。

 どれだけ罵詈雑言をぶつけられても、ひたすらに道具として見られていても、それでも彼女はビクトルを愛していた。

 最後まで愛し続けていたのだ。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 おぞましくすら感じるサリーの悲鳴が響く。

 チートを使用した者が例外なくあげる声だ。

 そしてその後、使用者は自我を喪失する。

 ――はずだった。


「これで……クリスに……勝てる……」


 サリーは耐え抜いたのだ。


「サリー、お前、自我を保っているのか……?」


「はい……ビクトル……様……」


 サリーが召喚していた使い魔を消し、新たな使い魔を召喚する。

 目だけが赤く光る漆黒の群れが姿を現した。


「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 サリーの使い魔軍団が突撃する。

 魔女隊の使い魔を蹴散らし、クリスの使い魔と激突。


「あなたたち……さがり……なさい……」


 サリーがドーアの兵に言う。

 だが、兵たちは何が何やら分かっていない。


「お前たち、撤退しろ! サリーの使い魔に巻き込まれるぞ!」


 事態を把握しているビクトルが言った。


「し、しかし、陛下」


「俺のことはいい! コイツは一騎打ち以外で俺を()る気はない! コイツを殺したら俺も下がる! だからお前たちは先に下がれ!」


「は、はい! 撤退だ! 撤退ィイイイイイ!」


 ドーアの兵たちが慌てて下がっていく。

 レイ対ビクトル、クリス対サリーの構図ができあがった。


「一騎打ち以外で()る気はない、か。なかなか評価してくれるじゃないか。俺をそこまでの真人間と思うなんてさ!」


「お前がその気なら俺はクリスのシャドウに殺されていたからな」


「ふっ。しかしどの道、貴様はここで死ぬ。俺の剣によってな」


「調子に乗るなよ、レイ!」


 ビクトルとレイの一騎打ちが再び激化する。

 クリスとサリーの使い魔対決も始まっていた。


「クリス……あなたは……私が……許さ……ない……」


「ぐぐぐっ……まずい……!」


 形勢は――クリスの劣勢だ。

 数は同じだが、質は完全に劣っていた。

 防戦するだけでいっぱいいっぱいだ。

 しかし、この均衡もじきに崩れるだろう。

 ドーア軍の魔女隊のように。


(このままだと負ける……! 隙を見つけなければ……!)


 クリスには逆転の秘策があるけれど、実行するのは難しい。

 秘策とはえてして奇襲であり、奇襲は隙を突く必要がある。

 だが、現状ではそんな隙はない。

 サリーがクリスを直視しているからだ。

 彼女は瞬きすらせずにクリスを睨み続けている。

 不審な挙動は即座に感知されるだろう。


「もうじき……あなたを……殺せる……」


 サリーが小さく微笑む。

 口の端から唾液を垂らしながら。


「じきにサリーがクリスを殺す」


 ビクトルが笑みを浮かべる。


「そうはならん。俺がお前を殺し、クリスがサリーを倒す」


「どちらも無理な話だ」


「無理でも可能にするんだよ、俺は」


「何を言っている……?」


「俺はクリスと約束したんだ」


「約束だと?」


「この戦いが終わったら結婚しようってな」


 ビクトルは「ふはは」と笑い、そして、吠えた。


「そのセリフを言った者は死ぬ! それが昔から決まった必然、運命だ!」


 トドメを刺そうと振りかぶるビクトル。

 早く決着をつけたいと焦る気持ちがあったのだろう。

 大きく踏み込んだ際にできたその隙を、レイは見逃さなかった。


「ならばその必然を俺が変える! 運命を決めるのは俺だ!」


 レイの剣がビクトルの右肩を貫く。


「グッ、貴様ァ!」


 ビクトルが剣を左手で持ち替えて振るう。

 レイは「甘い!」とそれを弾いた。


「おしまいだ、ビクトル!」


 レイの剣がビクトルの心臓を貫く。


「へ、平和ボケした国のボンクラにこの俺ガァ……」


「これでも戦闘は得意なほうでね。悪いな、ビクトル」


 ビクトルに突き刺さった剣を抜き、刀身に付着した血を払い落とすレイ。

 彼が背を向けると同時に、ドーア王国の国王は死に絶え、崩落した。


「ビクトル様ァ!」


 これまでクリスを睨んでいたサリーの視線が逸れる。


「今!」


 クリスは転移の指輪を発動した。

 サリーの目の前に瞬間移動し、両手を彼女の胸に伸ばす。

 その手にはレイから渡された護身用のナイフが握られていた。


「グハッ……!」


 サリーの小さな心臓をクリスのナイフが的確に貫く。


「クリス……あなた……!」


「サリー、一つだけ言わせてもらっていい?」


「なに……を……?」


 口から血を吐くサリー。

 その血を全身に浴びながら、クリスは微笑んだ。


「私とレイの為の踏み台になってくれてありがとうございました」


「クリス……クリ……ス……クリィイイイイイイイイイイイイイイス!」


 クリスの名を叫びながら、サリーは息絶えた。

 それによって彼女の召喚していた使い魔が姿を消す。


 最後の戦いが、終わった。

お読みくださりありがとうございます。

評価・ブックマーク等の応援、いつも励みになっております。

よろしければお気に入りユーザ登録も是非……!


「036」は本日15時に投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ