034
クリスを守る最強の守護神シャドウ。
そんなシャドウの隙をビクトルは突いた。
ここしかないという完璧なタイミングの奇襲だ。
自らの野望の為であれば、自らの命すら危険にさらす。
そこまでしなくてはクリスを殺せない――ビクトルはそう思っていた。
しかし、それは間違いだった。
「クリスは命に代えても俺が守る!」
レイが割って入り、ビクトルの攻撃を防いだのだ。
自らの命を賭けてもなお、ビクトルの刃はクリスに届かない。
「何者だ、貴様!」
「見る目のないお前と違って見る目のある男だよ、俺はぁ!」
レイがビクトルの剣を払い、彼の体を押し飛ばす。
そして、体勢を崩したビクトルにすかさず詰め寄ろうとする。
だが、詰め切る前にビクトルが反応した。
懐に忍ばせていた短剣を投げて牽制したのだ。
レイは迫り来る短剣を剣で弾いた。
それによって動きが止まる。
「レイ!」
「大丈夫だクリス、こいつは俺が引き受けよう」
「ほう? 魔物の出ない国のカスがこの俺と戦おうと言うのか」
ビクトルが下卑た笑みを浮かべる。
その笑みは絶対的な自信に満ちていた。
世界征服を成就させる為、彼は幼少期から剣術を磨いていたのだ。
その腕前は王国随一とも言われている。
「レイ様が戦うまでもない」
「我々が始末しましょう」
シャドウの群れが動く。
「俺たちも加勢するぜ!」
シャロンの戦士たちも動く。
瞬く間にビクトルは包囲された。
「いいや、こいつは俺にやらせてくれ」
レイは全員に攻撃しないよう言う。
「いいのか? お前如きが俺に勝てる見込みなどないぞ」
「それはやってみないと分からん!」
「ならばかかってこい。身の程を教えてやる。そして、女の前で格好を付けようとしたことを後悔させてやる」
「お前と違って俺は後悔などしない!」
レイとビクトルが一騎打ちを始める。
その様を見守るシャロンの戦士たち。
そこへヒューゴラスの怒声が飛ぶ。
「何をしておるかお主ら! 自分たちの仕事を忘れるでない!」
「そ、そうだった」
「俺たちはクリスちゃんを守るんだ」
レイとビクトルを囲む輪が解けていく。
「貴様、クリスの恋人かなにかか?」
「婚約者だよ」
鍔迫り合いを繰り広げながら、レイとビクトルが言葉を交わす。
「婚約者だと? 婚約指輪は忘れてきたのか?」
「まだ用意できていないんだよ、ほっとけ」
「ふん、計画性のない凡愚か。この程度の腕で俺に挑むだけのことはある」
一騎打ちはビクトルに分があった。
レイも奮闘しているが、その差は歴然だ。
一方、全体的な戦況はクリスに傾いていた。
「待て、俺は味方だ――ぎゃああああああ!」
「ぶ、武官長ォオオオオオオオオオオ!」
案の定、魔女隊の使い魔が暴走を始めたのだ。
近くにいる自軍の兵士に向かって攻撃する。
待てと言っても待つことはなかった。
こうなると魔女隊の使い魔を守ることは難しい。
ドーア軍の足並みはバラバラになっていった。
ドーアの兵士にとって、もはや仲間の使い魔など存在しない。
対するクリスの使い魔軍団は統率がとれている。
クリスたちを守りながらも敵の数を減らしていく。
「このままだと我が軍は敗れるな」
「一騎打ちの最中に戦況の確認とは舐められたものだな」
「それだけ俺とお前の間に実力差があるということだ」
レイと剣を交えながら、ビクトルはこの後のことを考える。
撤退、立て直し、計画の修正……するべきことはたくさんあった。
「とりあえず撤退だな――者共、後退しろ! 立て直すぞ!」
「むざむざ逃がすと思っているのか、ビクトル!」
「人の名を呼ぶなら貴様の名を教えろ!」
「俺の名はレイだ!」
「クリスが叫んでいたからお前の名など知っている!」
「だったら聞くな!」
「聞かれる前に名乗るのが騎士道だろ!」
「貴様が騎士道を語るな!」
「ほざけ!」
二人の戦いがオーバーヒートする。
撤退を指示したビクトルが撤退を忘れていた。
「ど、どうすりゃいいんだ」
「ビクトル様をおいて下がるわけには……」
ドーアの兵に動揺が広がる。
そこへクリスの使い魔軍団が襲い掛かった。
「ダメだ、どうすりゃいいかわからねぇ」
「現状維持だ! 現状を維持するしかない!」
ドーアの兵士にもはや勝つ気はなかった。
一刻も早くビクトルの一騎打ちが終わって欲しい。
誰もがそう願っている。
勝つにしろ負けるにしろ、決着がつかねば撤退できない。
そんな浮き足だった兵たちに怒声が放たれる。
「何をしているのです!」
その声に全員が固まった。
ドーア軍、シャロン軍、それにビクトルとレイも声の主を見る。
魔女隊の傍に立っていたその声の主は――。
「どうして、どうしてお前がここにいるんだ!?」
ビクトルがその名を叫ぶ。
「サリー!」
ドーア王国の聖女サリーだった。
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