025 第三章
これまでの集大成となる最終章スタート!
週1更新の予定でしたが、毎日更新に切り替えました!
クリスがニクス王国を発ってから1年。
サリーがドーア王国の聖女になってから2年が経過した。
「思ったより早く完成しそうだな」
ドーア王国の国王ビクトルは、研究所でにんまりとしていた。
彼の視線は強化ガラスの向こう――被験者の女に向けられている。
「ぜぇ……ぜぇ……」
女は顔を赤くし、全身の血管を浮き上がらせている。
口の端からは唾液が垂れ続けており、目は血走っていた。
暴れても大丈夫なよう四肢はそれぞれ鎖で繋がれている。
「公爵、あの女は何日目だ?」
ビクトルは隣に立つディウス公爵に尋ねる。
ディウスは斜め後ろにいる研究所の所長に同じ質問をした。
所長の男は嬉しそうな顔で「1週間です」と答える。
「1週間だと? すごいじゃないか!」
声を弾ませるビクトル。
「まだ実用化にはほど遠いですが……」と所長。
「いやいや、1週間ももつなら使い捨ての駒として十分だ。それに今後はもっと長生きできるようになるのだろ?」
「その予定でございます」
「実に素晴らしい。よし、あの被検体が死ぬ前に魔力を測定しろ」
「かしこまりました! ――おい、被験者1902号に魔力測定器を」
「は、はい!」
所員はビクビクしながら女の傍に向かう。
そして、握力計に似た形の魔力測定器を女に渡す。
女はうーうーと呻きながら測定器を握った。
測定器の針が左端から右端に向かって一気に進んだ。
針は上限値を示す右端に当たってもなお動こうとする。
その結果、数秒後に小さな爆発を起こした。
測定器の盤面が真っ黒に焦げ、針は粉々になった。
「おお! クリス以来となる測定器の破壊者じゃないか! 見事だ! 流石は公爵、実に素晴らしい研究に目を付けたものだ!」
歓声を上げるビクトル。
「ありがたきお言葉。私としましても、〈チート〉が形になっていくことを嬉しく思っています。聖女の選定に苦労しない時代もあと少しですな」
「うむ!」
ドーア王国では以前より悪魔の研究が行われていた。
それが、後天的に魔力量を押し上げる特殊強化薬〈チート〉だ。
この強化薬は腕の静脈に注射すると直ちに効果が現れる。
魔力量が急激に上昇するのだ。
その魔力量は注射前の数万・数十万倍に達する。
ただし、〈チート〉の完成には避けられるぬ課題が残っていた。
効果が強烈な反面、副作用も人間に耐えうるレベルではないのだ。
初めて作った試験薬では、注射後10秒足らずで被験者が死んだ。
改良に改良を重ねた今でさえ、もって1週間が関の山である。
「ウッ、ウウウウッ……」
1902番目の被験者が苦しみだした。
かと思いきや、次の瞬間には死んでいた。
「タイムは?」
所長が尋ねると、所員の一人が素早く資料を確認する。
「1週間と約8時間です」
「新記録更新だ」
誇らしげに微笑む所長。
ビクトルも満足気に頷いた。
「よし、今後もガンガン研究を続けろ!」
所長は元気よく「はい」と答えた後、眉間に皺を寄せた。
「ですが、そろそろ被験者の確保が難しくなっておりまして……」
「さすがに孤児の女を使い潰していくのも限界があるか」
「どうすればよろしいでしょうか?」
「莫大な報酬を付けて希望者を募ればいいだろう」
「よろしいのですか? そうすることで被験者は確保できると思いますが、あまりに推し進め過ぎると少子化の恐れが……」
「それもそうだな。ならまずは貧困層だけを対象にしよう。それなら問題ないだろう。貧乏人はえてして頭が悪いし、払うものさえ払えばリスクなど考えずにほいほい協力してくれるさ。死んだところで大して困らん」
「かしこまりました」
研究速度を維持できることに満足な所長。
ビクトルも日進月歩な研究結果に満足している。
だが、公爵だけは悩んでいた。
(儂が発案したこととはいえ、何も知らない娘っ子を研究で使い潰し続けてよいものなのか……)
そんなことを考えていると、ビクトルが話しかけてきた。
「公爵、たしか〈チート〉は女にしか使えないんだよな?」
「さようでございます。男は元々の魔力量が低すぎる故、チートの使用による負担が大きすぎるようですぐに息絶えます。それに、チート後の魔力量もそれほど高くありません」
「やれやれ、最先端科学でも魔力量の男女差は覆せぬか」
魔力量には明確な性差が存在する。
男性に比べて女性の方が遙かに高いのだ。
よほど魔力の高い男ですら、魔力測定器の針を半分すら進められない。
それに対して女は大半が半分以上、30人に1人は上限近い魔力量だ。
「まぁいい。この調子なら来年か再来年にはサリーも用済みになるだろう。今はまだ副作用が安定しないので保険として残しているが、いずれはあいつにも〈チート〉を打ち込める。クリスにこそ劣るものの、サリーの魔力も常軌を逸しているわけだから、そんな奴に〈チート〉を使えばどうなるか……今から楽しみだな」
「もっとも、その前に世界征服を完了しているかもしれませんな」
「公爵の言う通りだ! 〈チート〉で強化した魔女隊がいれば、他国を蹂躙することなど容易いだろう。今やあのデサイア王国すら衰退の一途を辿っているからな。天は我に味方していると言っても過言ではない!」
ビクトルは「ひゃっはっは」と不気味な笑い声を響かせる。
ドーア王国の植民地計画が、今、再始動しようとしていた――。
お読みくださりありがとうございます。
評価・ブックマーク等の応援、いつも励みになっております。
よろしければお気に入りユーザ登録も是非……!




