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「厄災戦に続き、キーアの奪還戦でも素晴らしい活躍じゃった。そなたのこれまでの功績を讃え、クリス、お主に勲功爵としてレジェンドナイトの称号を与えよう」


「ありがとうございます、陛下!」


 ニクス王国の王城にて、クリスは国王ブラムスから表彰されていた。

 これで二度目となる表彰だ。


 ニクス王国におけるクリスの扱いはますます神格化されていた。

 もはや史上最高の英雄と言っても過言ではないほどだ。

 過言ではないどころか、現に誰もがそう言っている。


 クリスの誕生日は「クリス誕生日」として祝日になり、

 クリスに食材を食い尽くされた飲食店は感謝のあまり泣き崩れ、

 子供のなりたい職業ランキング第1位が「クリス」となり、

 役所には「娘の名前をクリスに変えたい」という親が殺到し、

 王城のエントランスにはクリスの銅像が造られることとなった。


「こんな短期間で陛下から2度も表彰されるとは立派になりやがったもんだ」


「えへへ」


 表彰式を終えたクリスは、ダッドリーと王都を散策していた。

 今日は女性用のアパレル店を巡っている。

 同年代の女性に流行している服を手当たり次第に買う為だ。

 もちろん支払い方法は公爵印の無料券である。

 ダッドリーは彼女の荷物持ちだ。


「初めて会った時は酒場のポンコツ看板娘だったもんなぁ、お前さん」


「ポ、ポンコツは余計ですよ!」


「いやいや、酷いポンコツぶりだったろ。注文を間違うのは当たり前、酷い時は勝手に転んでメシや酒をばら撒いていたからな」


「ぐっ……言い返せない……!」


「そんなお前さんが魔物ハンターになりたいと言い出した時は驚いたもんだ」


「そのわりにはあっさりチームに入れてくれましたよね」


「どうせ数日で逃げ出すと思っていたからな」


 ダッドリーはニヤリと笑い、クリスの頭をクシャクシャする。


「思った通り戦闘のセンスはてんでダメだったが、根性は誰よりもあった。大したもんだよ、全く」


「褒めてくれているんですよね?」


「おうよ」


「えへへぇ」


 クリスが次のアパレル店に入る。

 そこも若い女性を対象とした店だ。

 マネキンは一様に露出度の高い服を着ている。


「もう少しババくさい店の方があってると思うぞ」


 店の外から声をかけるダッドリー。

 スキンヘッドの大男がこの手の店に入るのは憚られる。

 そう彼は判断していた。


「ババくさいってなんですか! 私、そんなに老けていますか!?」


 クリスが出入口の傍で言い返す。


「逆だ。老けてるんじゃなくて年齢より幼く見える。それにお前さんの胸はまな板みたいなもんだ。この手の胸を強調する服は似合わんだろ」


「ぶー! そんなことないもん!」


「なら店員に訊いてみろ」


「分かりましたよ! そこで見ていてくださいよ!」


「おうよ」


 クリスが店の奥に向かって「すみませーん」と右手を振る。

 すると奥のカウンターにいた女性店員が近づいてきた。

 クリスと同年代の女だが、この店の服がよく似合っている。

 つまり豊満な胸の持ち主で、ダッドリーが言うところの「ナイスバディ」だ。


「あのあの、こういう服、私でも似合いますよね!?」


 クリスがひときわ露出度の高い服を持ちながら尋ねる。


「えっとぉ……」


 お姉さんは一瞬言葉を詰まらせた。

 それから満点の営業スマイルを浮かべて言う。


「大丈夫です!」


 本音を言えば似合わない。

 しかし、似合わないといえば相手が悲しむ。

 かといって「似合います」と嘘をつくのは気が引ける。

 なにせ相手は国の英雄だから。

 そこまで考えて導き出した答えが「大丈夫」だった。


「だ、大丈夫ぅ!?」


 悲しいことにクリスは気づいた。

 お姉さんが回答を逸らしたことに。

 つまりは暗に「似合わない」と言っていることに。

 そして、ダッドリーもそれに気づいた。


「だーっはっは! ほれみぃ! 大丈夫なだけだ! 似合わねぇ! 悪いことは言わんからもっと大人しいのにしとけ! そのほうがお前さんには似合うからよぉ! なっはっはのはー!」


 笑い転げるダッドリー。

 クリスは頬をパンパンに膨らまし、顔を真っ赤にする。

 目には微かに涙が浮かんでいた。


「あの、その、クリス様、そこまで、その、気になさるほど、似合わないというわけでは、なくてですね、えと」


 お姉さんの顔が真っ青になる。

 国の英雄を怒らせてしまったと思ってヒヤヒヤしていた。


「似合うやつ!」


 唐突に声を上げるクリス。


「えっ」


 固まるお姉さん。


「私に似合う服、全部お願いします! これで買いますから!」


 クリスは無料券をお姉さんに押し付けた。


「は、はい! ただいまお持ちいたします!」


 店の奥に駆け込んでいくお姉さん。

 その間も笑い転げるダッドリー。


「もう服屋さんなんか嫌いだ!」


 クリスはこの店で控え目な服を爆買いすると、服屋巡りをやめた。


 ◇


 夕方になると祝宴が開かれた。

 前回と同様、今回も主賓はクリスである。

 主賓が同じなら開催場所も同じで、王城の大食堂だ。


(またしても浮いちゃってるぅ!)


 祝宴が始まってすぐに一人になるクリス。

 ダッドリーとアルテは前回と同じように楽しんでいる。

 つまりダッドリーは美女を侍らし、アルテは貴族と商談しているのだ。


「私ももっとこういう場を楽しめたらなぁ」


 クリスは逃げるようにバルコニーへ向かう。

 暗闇に浮かぶ綺麗な月を眺めながらシャンパンを飲む。

 今日は嗜む程度の飲酒が許可されていた。


(前はこうしているとロイド様が来てくれたけれど……)


 クリスは振り返り、大食堂の中を眺める。

 そこにロイドの姿は見当たらなかった。

 彼は今、公務の為に王都を離れているのだ。

 帰還は明日だという。


(今日は完全にひとりぼっちだなぁ)


 大きなため息をつくクリス。

 するとそこへ、一人の男がやってきた。

 公爵のバロンだ。


「クリス殿、宴はお気に召しませんでしたか?」


「いやぁ、そういうわけではないのですが、どうも馴染めなくて」


「分かります。実は私もこういう場はあまり得意ではないのです」


「そうなのですか?」


「ええ。こういう場に参加するようになって50年以上が経っていますが、いつも馴染めなくて早々に退散しております」


「私も退散しちゃっていいのでしょうか?」


「問題ありませんよ」


「じゃあ、もう少ししたら退散しようかなぁ」


 バロンは「はい」と笑顔で頷き、それから尋ねた。


「前に差し上げた無料券はお使いいただけていますか?」


「おかげさまで王都を満喫させていただいています! バロン様、本当にありがとうございます!」


「いえいえ、このくらいしかお礼ができなくて申し訳ございません」


「そんなことありませんよ! すごく助かっています! むしろなにもかも無料で大丈夫なのだろうかと心配になるほどです!」


「それはよかった」


 バロンは嬉しそうに笑ったあと、声を潜めた。


「クリス殿、よろしければ明日、私の家に来ていただけませんか?」


「えっ? バロン様の邸宅にですか?」


「実は私、王都にいる時は孤児院の子らを対象にしたパーティーを開くようにしているんです」


「おお、それは素晴らしい!」


「それでですね、クリス殿に来ていただければ、子供たちもいつも以上に喜んでくれるかと思いまして」


「是非とも参加させてください!」


「ありがとうございます。ですが、このことはダッドリー殿やアルテ殿、それに他の方々にはご内密にしていただけませんか?」


「どういうことですか?」


 クリスの眉間に皺が寄る。


「個人主催のパーティーにクリス殿を招いたとなれば、他の貴族から睨まれてしまいます。私は孤児たちのことを思って開くわけですし、クリス殿が来てくれたと喧伝するつもりはございませんが、貴族というのはそういうことにめざとくて……」


「あー、なるほど」


 理解できる言い分だった。

 聖女だった頃、衛兵たちから似たような話を聞いたことがあったのだ。


「ですからどうかご内密に」


「かしこまりました! では、明日の昼にお伺いいたします! 誰にも内緒で!」


「ありがとうございます、クリス殿」


「こちらこそありがとうございます! バロン様のやっていることは大変素晴らしいと思います! 私、応援しています!」


「そう言っていただけてなによりです。それでは私はこれで。あまり話していると、それはそれで他の貴族から睨まれますので」


「はい!」


 スタスタとその場から離れるバロン。

 クリスに背を向けた瞬間、老獪な公爵は下卑た笑みを浮かべていた。

お読みくださりありがとうございます。

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楽しんで頂けた方は是非……!

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