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 それはまさかの一撃だった。


「流石だな、クリス!」


「お見事です」


 精鋭部隊から少し離れたところで、ダッドリーとアルテが握りこぶしを作る。

 クリスは振り返って笑顔で頷き、ロイドに向かって言った。


「ロイド様、このままキーアの奪還を!」


 ダッドリーの隣に立つロイドが「そうだな」と頷く。


「クリス、使い魔軍団の進軍を頼む。者共、クリスに続け!」


「「おおー!」」


 魔女隊を蹴散らしたことで勢いづいたニクス軍がキーアに向かう。

 その時、クリスを守る精鋭部隊の兵士の一人が裏切った。

 おもむろに剣を抜き、クリスに突っ込んだのだ。

 咄嗟のことだったので誰も反応することができなかった。


「えっ」


 驚いている間にクリスは刺された。

 左から右に向かって、彼女の脇腹を剣が貫く。


 クリスの使い魔軍団が忽然と消える。

 彼女の容態が急変したことで維持できなくなったのだ。

 使い魔が倒されたわけではないから魔力の消耗はない。


「こいつ!」


 他の部隊員が瞬時に裏切り者の兵を斬り捨てる。

 裏切り者はクリスに追撃の一手を加える直前で息絶えた。


「「クリス!」」


 ダッドリーとアルテが駆け寄った。

 クリスは真っ青な顔で地面に向かって大量の血を吐く。

 脇腹からドバドバと血が溢れ出ている。

 彼女はそのまま意識を失い、地面に倒れ込んだ。


「今が好機だ! ニクス軍を滅ぼせ!」


 ビクトルの声が響く。

 ドーアの軍勢が迫ってきていた。


「衛生兵、早く来い!」


 血相を変えて叫ぶロイド。

 それを「待ってください」とアルテが止める。


「間に合わなかったのか!?」


 尋ねたのはダッドリーだ。

 アルテは「いえ」とクリスの脇腹に目を向ける。


「出血が止まっています」


「「なんだと!?」」


 ダッドリーとロイドが確認する。

 たしかにクリスの脇腹の出血が止まっていた。

 既に流れた血で衣類は血まみれだが、新たな血は出ていない。

 脇腹には剣の刺さった痕跡すら残っていなかった。


「おいおい、こいつはどういうことだ?」


「おそらく魔具の効果かと」


 アルテがクリスの装着している指輪を指す。

 治癒能力を高める〈治癒の指輪〉が光っていた。


「魔具を装備しているからといってこれだけの回復力を発揮するか?」


 ロイドが尋ねる。

 アルテは「いえ」と首を振った。


「常人の場合は回復速度や毒に対する耐性が微かに高まる程度です。この指輪を装着したからといって、傷が瞬間に治ったり毒が無効化されたりすることはないでしょう」


「それだけクリスの魔力が常軌を逸しているってことか」


「そういうことです」


「そんなことよりクリスは無事なのかよ!?」


 ダッドリーが割って入る。


「この程度の出血なら問題ないでしょう。おそらく1時間もしない内に目を覚ますはずです」


 そうアルテが言った瞬間、クリスが目を覚ました。


「わわわっ、ダッドリーさん、アルテさん、それにロイド様まで、みんなして怖い顔になってどうしたんですか!?」


 目を開けるなりいつもの調子で驚くクリス。

 ダッドリーたちは思わず頬を緩めた。


「クリス、脇腹は大丈夫ですか?」


「ほぇ? 脇腹ですか?」


 クリスは上半身を起こし、自身の脇腹に目を見やる。


「なな、なんですかこの血は!?」


「さっき刺されただろうが!」


 ダッドリーがクリスの頭にゲンコツをおみまいした。


「あ、そっか、そうだった!」


 ようやく思い出すクリス。


「クリス、こんな時に悪いが戦えるか? 無理そうなら今すぐに撤退したい」


 ロイドが迫り来る敵を睨みながら言う。


「だ、大丈夫です! お任せ下さい!」


 クリスは立ち上がると、再び使い魔を召喚した。

 出血によって体調が万全ではない為、使い魔の数が減っている。

 先ほどの半分にも満たない3000体ほどだが、それでも問題なかった。


「ま、魔物だ!」


「ひぃぃぃぃ」


 使い魔軍団が復活したことでピタリと動きが止まるドーア軍。


「へ、陛下、またしても魔物が!」


 武官長が慌ててビクトルに報告する。


「どうしてだ! どうしてあの女は生きている!?」


 ビクトルは発狂した。


「しかし陛下ならこんな事態も想定しておられ――」


「そんなわけあるか阿呆が!」


 ビクトルは武官長に八つ当たりすると全軍に命じた。


「撤退だ! キーアはひとまず捨てる!」


「よ、よろしいのですか!? キーアを失うことは即ちニクスを攻める為の足がかりを失うことになります。今後は警戒されて今回ほど易々とは奪えませんぞ!?」


「分かっておる。しかしここは撤退だ。使い魔との戦闘でいたずらに兵を失うわけにはいかん」


「かしこまりました!」


 一転して退却するドーア軍。

 ビクトルのこの判断は正しいと言えるだろう。


 使い魔は倒しても時間が経てば復活する。

 そんなものの為に鍛え上げた兵士を費やすのは愚かである。

 とはいえ、ビクトルにとっては辛酸を舐める結果となった。


「クソッ、かくなる上は……!」


 逃げながら最後の切り札を使う決意を固めるビクトルだった。


 ◇


「追うな! 追わなくていい! キーアの確保を優先しろ!」


 ロイドの声が響く。

 ニクス軍は逃げ帰るドーア軍を追わなかった。

 追うと手痛いしっぺ返しが待っているからだ。

 キーアを奪還できればそれでかまわなかった。


「思ったよりあっさり引き上げっていったな、拍子抜けだぜ」


 兵たちと共に無人のキーアへ足を踏み入れるダッドリー。


「クリスの使い魔と戦うのは得策ではないと考えたのでしょう。使い魔対決で負けるなり内通者を使ってクリスの殺害を試みるなど、ビクトルはなかなか優秀なようです」


 アルテは顔をクリスに向け、近くの酒場を指した。


「傷が癒えたとはいえ、それなりに血液を失ったので疲れているでしょう。何か食べていきませんか?」


「やったー! 実はお腹ペコペコだったんです! あっ、でも、今って店には誰もいないんじゃ……?」


「その点はご安心ください。私が作りますよ。食材が残っていればですが」


「アルテさん料理できるんですか!?」


「ええ、まぁ、嗜む程度ですが」


「すごいすごい! 私、アルテさんの料理が食べたいです!」


「では腕によりをかけて作るとしましょう」


「わーい!」


 あとのことはロイドに任せ、クリスたちは酒場に向かう。

 こうして、キーアの奪還戦は幕を閉じた。


 この戦いにおける戦死者の数は両軍合わせても一人のみ。

 裏切り者の兵士だけだ。

 クリスの望んだ通り、両軍ともに最小限の犠牲で済むのだった。


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