019
ニクス王国はドーア王国との全面戦争を決定した。
ただ、それに伴う増税や徴兵は予定していない。
現存の最大戦力で戦って駄目なら降伏という考え方だ。
「やはりそうなったか」
それが報告を受けた際にビクトルが発した言葉だ。
彼は今、キーアでも屈指の高級宿で過ごしている。
奇しくも酔い潰れたクリスの寝ていた部屋だ。
キーアは今、ドーア王国軍の兵舎として使われている。
元々の住民は全て町を追われることとなった。
「全て陛下の思惑通りですな」
ドーア王国軍の最高責任者である武官長の男が言う。
ベッドサイドに座るビクトルと違い、扉の傍に立っている。
「あとのことはそれがしが引き受けますので、陛下はどうぞ煌びやかな王城にお戻りください。このような田舎町、陛下には似合いますまい」
「はっはっは、頼もしいことを言うじゃないか。普段ならそうするところだが、今回は相手にクリスがいるからな。国に戻るのはあいつの死を見届けてからにするさ」
今回のキーア侵攻にあたって、ビクトルは色々な展開を想定していた。
素直にニクスが降伏する展開から今のように徹底抗戦に打って出る展開まで。
その中にはクリスを前面に立てて反撃してくるケースも含まれていた。
「武官長、俺はしばらく休ませてもらう。敵軍が攻めてきたら起こしてくれ」
「かしこまりました」
武官長は一礼してから部屋を出る。
ビクトルは仰向けでベッドに寝そべると、天井に向かって呟いた。
「クリスめ、大人しく俺の物になっていれば長生きできたものを。馬鹿な女だ」
◇
徹底抗戦を決めた数日後、ニクス王国軍が目的地に到着した。
キーアから数キロメートル東北に位置する大草原。
そこに500人のハンターを含む約3500人のニクス軍が駐留する。
これがニクス王国軍の現時点で投下できる全戦力だ。
対するドーア王国軍は1万5000人。
しかも、これはキーアに駐在している兵の数だ。
本国にはこの数倍に及ぶ規模の兵が待機している。
兵力差は圧倒的だ。
加えて、兵の練度もドーアのほうが遥かに高い。
常識的に考えるとニクス王国軍の勝ち目はないだろう。
バロンが内通者と化したのも無理はない。
だが、今回の戦争に関して言えば、結果がどう転ぶかは分からなかった。
「クリス、頼めるか」
鎧を纏ったロイドが言う。
クリスは「はい」と頷き、召喚の指輪を発動した。
「「「グォオオオオオオオオオオ!」」」
どこからともなく1万体の使い魔が現れる。
これで数の差は殆どなくなった。
「予定通りクリスの使い魔軍団を頭にして攻撃を仕掛ける。精鋭部隊はクリスを囲んで死守するように。他の者は一定の距離を維持しながら続け」
ロイドは鞘から剣を抜き、剣先をキーアに向ける。
「全軍突撃!」
ニクス軍が一斉に進軍を開始した。
◇
「ついにきたか」
ニクスの軍勢が迫っているとの知らせがビクトルに入る。
ドーア王国軍は既にキーアを出たところで待機していた。
ビクトルは鎧を纏い、宿を出て、陣頭に立った。
「トップを魔女隊にして迎え撃つぞ! 魔女隊、戦闘準備!」
魔女隊――それはビクトルが考案した女の部隊だ。
全員が魔力測定器の上限に近い魔力をもっていることに由来する。
数は1000人で、その全てがクリスと同じ召喚の指輪を装着していた。
「「「ヴォオオオオオオオ!」」」
魔女隊が使い魔を召喚する。
召喚された使い魔の数は約3000体。
強さはプラチナ相当の難敵ばかり。
「おお……」
「凄い……」
大量の使い魔に感嘆する兵たち。
ビクトルも「素晴らしい」とニッコリ。
「陛下、相手の使い魔の数は約1万。これだと厳しいのでは?」
武官長が不安そうに尋ねる。
ビクトルは「問題ない」と一蹴した。
「クリスはニクスの兵力が低いから数を重視したのだろう。対するこちらは質を重視しただけのこと。数の差など問題なかろう」
「そうなのですか? 恥ずかしながら自分、魔具については門外漢なもので」
「分かりやすい考え方を教えてやろう。使い魔同士の戦いで勝敗を決定する要因は『どちらの魔力が高いか』の一点のみだ。たしかにクリスは魔力測定器を壊す程の魔力をもっているが、所詮は1人。こちらは魔力測定器の上限に近い女が1000人だ。どちらの魔力量が高いかなんてことは考えるまでもないだろう」
「たしかにその通りですな! 流石は陛下、そこまで考えておられるとは!」
「ふっふっふ」
ビクトルは嬉しそうに笑う。
そして、魔女隊に命令する。
「使い魔軍団を突撃させろ! 相手の使い魔をねじ伏せるのだ!」
「はい! ビクトル様!」
ドーア王国軍の使い魔軍団も進軍を開始する。
数分後、両軍の使い魔たちは大草原の上でぶつかった。
――が、一瞬で勝負が終わった。
「陛下、魔女隊の使い魔たちが……壊滅です!」
「なん……だと……」
魔女隊の誇る使い魔軍団は瞬殺だったのだ。
数の差だけでなく、質の差でも完敗だった。
「うぅっ……」
使い魔がやられたことにより、魔女隊の魔力が底を突く。
魔力の枯渇による疲労感に襲われ、魔女隊の女性陣はその場に倒れた。
「魔女隊を回収して町へ運べ!」
ビクトルが兵に指示を出す。
一瞬の決着で呆気にとられていた兵たちが慌てて動く。
「へ、陛下、どうすれば……!」
「やむを得ん。突撃だ! 魔物を駆逐して敵軍を根絶やしにするぞ!」
「「「おおー!」」」
使い魔がやられてもドーア軍は怯まない。
迷うことなく使い魔たちに向かって突っ込む。
兵たちの後ろ姿を眺めながらビクトルは微笑んだ。
「武官長、何事も万が一を想定するに限るな」
「万が一?」
「魔女隊がクリスに負ける可能性も考えていたのだよ、俺は」
「なんと……! それがこの突撃ですか?」
「そうさ。だが、これはただの突撃ではない」
「と言いますと?」
「見ておれ。もうじき分かる」
そうビクトルが言った時だった。
突如としてクリスの使い魔軍団が消えたのだ。
「ど、どういうことですかこれは!?」
「アレが答えだ」
ビクトルが遥か前方にいるクリスを指す。
使い魔たちが消えたことで彼女の姿が見えていた。
その姿を見た武官長は愕然とする。
それから、「流石です陛下!」と叫んだ。
ニクス軍の兵士がクリスの脇腹を剣で貫いていたのだ。
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