018
キーアが陥落したとの情報は瞬く間に広まった。
王都も戦火に見舞われるのだろうか、と誰もが不安がっている。
「おせぇぞクリス!」
「道に迷っちゃって……」
「とりあえずこれで揃いましたね」
クリス、ダッドリー、アルテは広場で合流した。
キーアが陥落したと聞き、慌てて戻ってきたのだ。
「それでアルテ、どうすりゃいいんだ?」
ダッドリーがアルテに意見を求める。
チームの最年長はダッドリーだが、司令塔はアルテだ。
頭を使うことはアルテに任せるのがこのチームである。
「決まっているじゃないですか!」
アルテではなくクリスが言う。
「奪還ですよ! 私たちでキーアを取り返しましょう!」
「おっ、クリス、お前さん人間相手に使い魔で襲い掛かるつもりか」
「そっか、相手は魔物じゃないんだった……」
怯むクリス。
できれば人を傷つけることは避けたい。
それが敵国の人間でも。
「気持ちは分かりますが、そんな悠長なことは言ってられないでしょう。ドーア王国の国王ビクトルは世界征服を本気で企てている。遅かれ早かれ戦いに参加するか逃げるかの二択を迫られるでしょう。逃げるつもりがないのであれば、国の為にも戦いに参加する必要があります」
「ならクリス、サクッとキーアに行って敵を蹴散らしてこい!」
「えええええ、私が一人で行くんですか!?」
「仕方ないだろ、俺とアルテは魔具を持っていないんだ。お前さんは〈転移の指輪〉でキーアにサクッと行けるだろ?」
「行こうと思えば行けますけど……」
「なら決まりだ! ドーアの奴等にお前の力を思い知らせてやれ!」
「わ、分かりました……」
「待ちなさい」
アルテが話を止める。
「なんだよアルテ、反対なのか?」
「いえ、クリスが大丈夫なのであれば、サクッとキーアを取り返して欲しいとは思いますよ。ですが、まずは国王陛下にお伺いを立てる必要があります。私やダッドリーが勝手に挑んで玉砕する分には問題ないですが、クリスの場合は一人で国家レベルの戦力になるわけですから」
「なるほどなぁ」
「それに、問題は他にもあります」
アルテが視線をクリスに向ける。
「クリス、あなたはドーアの兵士と戦うことができますか? 向こうから攻めてきたとはいえ、相手はあなたがかつて住んでいた国の人間です。戦いになれば少なからず死傷者が出る可能性が高い」
「それは……」
「気乗りしないのであれば無理に戦うことはありません。ハンターは国に仕えているわけではありませんから」
「アルテさん……」
クリスは目を瞑って考え込む。
アルテはもとよりダッドリーも静かに見守る。
しばらくして、彼女は「決めました」と目を開いた。
「私、必要があれば戦争に参加します。私にとって、ドーア王国とニクス王国の人間は等しく大切な存在です。なのでドーア王国の人たちと戦うことは胸が苦しいです。ですが、だからといって目を背けていては、今後もこういった争いに巻き込まれ続けます。そうならない為にも、私はビクトル様の野望を止めたい。それに、私の使い魔であれば、多くの人が怪我をしないで済むはず」
「なるほど、分かりました」
アルテは頷き、「では」と遠くに見える王城を指す。
「陛下のもとへ行きましょう。キーアを奪還するために」
「おー!」
◇
その頃、ニクス王国の王城は喧噪に包まれていた。
謁見の間で、綺麗に分かれた二つの勢力が論争を繰り広げている。
「相手はドーア王国、大国ですよ大国! 勝てるわけがありません! 国民のことを考えたらここは降伏するのが正しい判断です!」
一つはバロン公爵を中心とする反戦派。
「いかに相手が大国といえど、戦わずして勧告を受け入れるなど愚の骨頂! 我が国には兵のみならず大勢の魔物ハンターがいる。協力すれば大国にだろうと引けをとらぬ!」
もう一つはロイド王子を中心とする主戦派だ。
「どうしたものか……」
国王ブラムスは一枚の書状を握りながら頭を抱える。
その書状は、ビクトルの使者が朝イチで送ってきたもの。
降伏して我が国に従属すれば国の存続を認めてやる、という内容だ。
「国の存続が認められるのですぞ! ならば争う必要はありますまい! 従属するといっても、いくらかの上納品を要求されるだけのことでしょう! それで血を流さずに済むのだからいいじゃないですか!」
バロンの声が響く。
すかさずロイドが言い返した。
「そんな保証はどこにもない! 公爵、お主もあの書状を読んだであろう! ただの降伏勧告ではなく、ビクトルが指定した者に王位を禅譲すると書いてあった! この国は絶対王政なのだから、事実上、国を丸々ビクトルに明け渡すも同義だ! 受け入れたが最後、我が国は滅びるに違いない! それが分からぬほど貴公も耄碌してはおらんだろ!」
そう、ビクトルはただ降伏勧告をしたのではない。
国の存続を認める代わりに王位を渡すよう要求しているのだ。
ロイドの言う通り、要求を呑めばニクス王国は事実上の消滅となる。
「しかしこのままでは――」
バロンが反論しようとしたその時、伝令がやってきた。
兵士は赤い絨毯を走り抜け、ブラムスの前で跪く。
「クリス様、ダッドリー様、アルテ様が、ドーア王国との戦争に関することで陛下に謁見を要求されております。いかがいたしましょうか?」
この発言によって、謁見の間に束の間の静寂が訪れる。
「ちょうどいい、ここに通せ」
「かしこまりました!」
兵士が謁見の間から出て行く。
それと入れ替わりで、クリスたちが入ってきた。
三人はブラムスの前で跪くと、代表してアルテが言う。
「陛下、拝謁を認めていただき――」
「前置きは抜きで本題を話せ」
ブラムスがアルテの挨拶を省略させる。
アルテは「かしこまりました」と言って顔を上げた。
「ドーアの軍からキーアを取り返す戦いに我々も参加いたします」
「なんじゃと?」
「まだ戦うと決まったわけでは――」
口を開くバロン。
すかさずロイドが「控えぬか公爵」と制止する。
「我々といっても、私とダッドリーは大した戦力にはなりませんが……。しかし、クリスは違います。彼女は先の厄災でも一人でキーアを守りました。私の見立てですと、クリスの戦力はこの国の全兵士と全ハンターの合計以上になります」
「それほどなのか!?」
「はい。ですから、まずはクリスの使い魔軍団を敵軍にぶつけさせてください。そうすれば、自軍の被害を最小限に抑えることが可能です。それに、使い魔はやられたところで魔力を一時的に消費するだけですから、その後の展開に悪影響を及ぼす恐れもありません」
「一理ある」
ブラムスが顎をさすりながら理解を示す。
「クリス、お主はどうなんじゃ? アルテの案に納得しておるのか?」
「納得しております。というより、私がアルテさんに進言いたしました。私はドーア王国で生まれ育った人間ですので、できればドーアの兵を殺したくないと考えています。だからこそ、私の使い魔によって、殺すのではなく無力化する方向で戦いたいのです。人間対人間の戦いであれば、そういうことは無理だと思いますが、私の使い魔であれば可能です」
「なるほど」
ブラムスは大きく頷き、玉座から立ち上がった。
「皆の者、儂は決心した――戦争じゃ、キーアを取り戻すぞ」
ロイドたちが歓声を上げる。
バロンは眉間に皺を寄せ、悔しそうに舌打ちした。
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