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017

 祝宴の翌日。

 朝食を済ませたクリス、ダッドリー、アルテは王都を歩いていた。


「ここからは自由行動ですね」


 広場についたところでアルテが言う。


「よっしゃー! 大人の遊び場に行くぜぇ! アルテ、公爵から貰ったタダ券は使えるんだよな!?」


「書類上は飲食店扱いなので問題ないかと。ただ、使えない可能性もあるので現金も用意しておいたほうがいいでしょう」


「ダッドリーさん、大人の遊び場ってなんですか?」


 興味深そうに尋ねるクリス。

 ダッドリーはニヤリと笑い、クリスの髪をくしゃくしゃする。


「お子ちゃまなお前さんには関係ない場所だ」


「私だってもう21か22か23歳なので大人ですよ! 大人! 大人の遊び場だって無関係とは言えないはず!」


「ほーう? なら一緒に行くか?」


「行くー!」


 アルテが苦笑いで「待ちなさい」と制止する。


「クリス、大人の遊び場というのは〈娼館〉のことです。つまりダッドリーは娼婦を買おうとしているのですよ」


「なんですってぇ!? ダッドリーさん、貴方って人は! サイテー! 変態! 性欲まみれのクソ野郎!」


「なんとでも言うがいい! 俺は自分に素直なだけだ!」


 発狂するクリス。

 周辺を歩く人々が何事かと一瞥した。


「あれ!? でもでも、娼館ってこの国の法律では禁止されているんじゃ?」


「建前はそうなっています。ただ、実際のところは少し違っていて、普通に存在しています。もちろん店に娼館とは書いておらず、表向きは個室でコンパニオンと食事ができる飲食店、という形になっていますが」


「そんなことが……!」


「で、どうする? 一緒に大人の遊び場に行くか?」


 ダッドリーがニヤニヤしながら再確認。

 クリスは真っ赤な顔を振りながら「結構です」と断った。


「それではまた後ほど」


「はい!」「おう!」


 クリスたちは解散し、三方に散っていく。

 ダッドリーは娼館に向かい、アルテは商談をするべく貴族の家へ。


「たくさん食べるぞー!」


 クリスは王都の食を制覇するべく飲食店の集まる通りへ。


「まずはここからだー!」


 目的の通りについたクリスは、すぐ近くにあった店へ入る。

 そこは彼女と同年代の若いカップル客が多いカフェだった。


(うっ……カップルばかりの中で一人というのはなんだか……)


 何食わぬ顔で店から出ようとするクリス。

 そこへ「いらっしゃいませー!」と女性店員が寄ってくる。

 クリス、見事に逃げ損ねてしまう。


「お一人様ですかー!?」


「は、はい、お一人様です……トホホ」


「一名様はいりまーす!」


「「「らっしゃっせー!」」」


 店員の元気な声が店内に響く。

 カップル客が「おっ」と言いたげな顔でクリスを一瞥。

 尚更に気まずくなるクリス。


「お席の希望はございますかー? この時間は空いているのでどこでも問題ありませんよ!」


 クリスは店員の発言に驚いた。

 今の状況で「空いている」と表現したことに。


 決して閑古鳥が鳴くほどの閑散ぶりではない。

 座席の5~6割は埋まっていると言えるだろう。

 キーアで一番人気の飲食店でも、朝からこれほど埋まることはない。


(やっぱり王都は凄いなぁ)


 感心しながら店内を見渡すクリス。

 そして彼女は、「あの席でお願いします」とテラス席を指定した。

 他の客は一様に店内で過ごしている為、テラス席なら離れられる。

 壁を挟むので声が聞こえなくなるし、何か言われても気づかずに済む。

 つまり、遠慮なく食べられるというものだ。


「かっしこまりましたー!」


 店員がクリスをテラス席に案内する。

 クリスが席に着くとメニューを渡した。

 可愛らしい手書きの絵と商品名が書いている。


「絵があると分かりやすい! これは画期的だー!」


 頼む前から感心するクリス。

 キーアの飲食店におけるメニューは文字ばかりだった。

 だから、しばしばイメージと違う物を頼むことがあったのだ。

 絵があればそうはならない。


「この絵、私が描いたんですよー!」


 店員がフレンドリーに接してきた。

 クリスは「そうなんですか!」と声を弾ませる。

 入店当初に抱いていた緊張感が薄れていく。


「私のオススメはこのフワフワパンケーキです! 絶品ですよー!」


「おー!」


「こちらのチーズケーキもオススメです! 原材料となっているのが、なんとあのペトラ牧場から仕入れた魔牛のミルクなんですよ!」


 なんとあの、と言われてもクリスには分からなかった。

 しかし彼女は「それは凄い!」と興奮気味に言う。


「それではお姉さん、どちらのメニューにしましょ!?」


 ひとしきりの説明を終えた店員が注文を伺う。

 クリスは満面の笑みで答えた。


「じゃあ全部で!」


「えっ」真顔になる店員。


「メニューの食べ物、全部でお願いします! サイズは一番大きなXLサイズで! 全部食べたいので、全部食べちゃいます!」


「ほ、本当に全部ですか!?」


「はいー! 本当に全部です!」


「しかもXLサイズを……?」


「そうです!」


「い、一応、言っておきますと、当店のサイズ表記はカップル客を想定したものですから、Mサイズでも二人前、XLサイズですと十人前になりますが……」


「それならおかわりをしなくて済みそう! ちょうどいいですね!」


「ちょうどいい……!?」


「はい! 私たくさん食べるので! 安心してください! 絶対に残しませんから!」


 クリスは無料券を一枚千切り、店員に「お願いします!」と渡す。

 店員は震えた手でそれを受け取り、青ざめた顔でクリスを見つめる。

 全てのメニューを最大サイズで頼むなど狂気の沙汰に思えた。


「しょ、少々お待ちを……」


 厨房に駆け込んで行く店員。

 そして、店員が厨房に消えた次の瞬間。


「「「な、なんだってえええええ!?」」」


 厨房の料理人たちが絶叫した。


 ◇


 1時間後、クリスの周辺には人だかりができていた。


「し、信じられん……」


「本当に食べきった……」


「どうなってるんだ、あの子の胃袋……」


 誰もが驚愕している。

 キーアではもはやお馴染みとなるクリスの大食いが炸裂したのだ。

 彼女の隣の席には空の皿が積み上げられていた。


「全部美味しかったー!」


 クリスは大して膨らんでいないお腹を撫でながら上機嫌。

 唇の端についた生クリームを舌でペロリと舐めて満足気だ。


「さーて、次はどこのお店で食べようかなぁ!」


 声を弾ませるクリス。


「まだ食べるというのか……」


「いかれてやがる……」


 周囲の人間がざわつく。

 そんな時だった。


「大変だ! 大変だー!」


 血相を変えた男がこの通りに駆け込んできた。

 とにかく大勢に情報を伝えたい男は、クリスを囲う人だかりに飛び込む。


「なにが大変なんだ?」


「この子の大食いより大変なことなんてあるのか?」


 誰もが軽い調子で言う。

 男はそれらの声を無視して叫んだ。


「キーアが落ちた!」


「へっ?」


 固まる一同。

 言葉の意味がよく理解できなかった。

 クリスも「ほへ?」と固まっている。


「キーアが陥落したんだよ!」


 男はもう一度言うと、今度は詳細も言った。


「ドーア王国が攻めてきたんだ! 国境を越えてキーアを奪いやがった!」


「そんな……」


 クリスの顔から笑みが消えた。

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