014
クリスはニクス王国の王城に来ていた。
厄災戦に関する表彰式と祝宴に参加する為だ。
「そなたがクリスか。想像していたよりも遥かに可憐じゃのう」
「め、滅相もございません!」
謁見の間で、クリスは国王ブラムスと言葉を交わす。
ダッドリーとアルテは客間で待機している為、ここにはいない。
「公爵の報告によると、そなたは殆ど単独でキーアを守ったとのことじゃが、本当にそれほどの力があるのか? その華奢な体つきからはとても想像できぬが」
「私は魔法や魔具を使って戦うので体つきは関係ありません」
「なるほどのう。しかし、魔具の効果は戦闘に使える程ではないと聞くが?」
「どうやら私の魔力は人よりも多いようです」
「ふむ」
国王はとってつけたような会話を終えると、微笑みながら本題に入った。
「クリス、我が国の聖女にならんか?」
クリスは「ようやく来たか」と思った。
そして、彼女が断ろうとしたその時――。
「陛下、それはいけません」
バロン公爵が割って入ってきた。
これにはクリスとブラムス、それに玉座の横に立つロイドも驚く。
「いけない?」
「はい、いけません」
「どうしてだ? 公爵」
「たしかにクリス殿の魔力は強力です。聖女として極めて高い質を期待できるでしょう。しかし、それ以上に我が国は失うものが多いかと思われます」
「失うもの? なんじゃそれは?」
「戦力です。先の厄災戦でも分かる通り、クリス殿の魔物に対する力はプラチナ級のハンター100人をも優に凌駕しています。これだけの力があれば、厄災戦のみならず通常の魔物狩りでも活躍することは間違いなく、治安の安定化が望めます」
「たしかに」
「また、クリス殿が聖女になったとして、万が一にでも急病に陥ったらおしまいです。〈揺り戻しの厄災〉は聖女の質に比例して効果を高める傾向にあるので、クリス殿を起因とする厄災はこの国を滅ぼしかねません。現聖女の厄災ですら相当な規模だったわけですから」
「なるほど」「一理ある」
ブラムスとロイドが呟く。
その頃、クリスは俯いた状態でニヤけていた。
バロンのおかげで断る手間が省けそうだからだ。
「そう考えた場合、クリス殿には今後もハンターとして活動していただくのが一番かと思われます。我々は国を挙げてその支援をすればいいかと」
バロンが話を締めくくった。
ブラムスは「流石は公爵、素晴らしき慧眼」と感心している。
しかし、ロイドは違っていた。
「公爵の言い分は筋が通っているが、だからといって目に見えて魔力が高い者を聖女に据えないという考え方はいかがなものか。聖女の質は国力に直結する。それは魔物だけに限らない。民の健康や天候、一説によれば天然資源にも影響を及ぼすという。民のことを考えた場合、より質の高い聖女を据えるのが道理だろう」
ロイドの意見はもっともだ。
バロンも内心ではロイドと同じ意見である。
それでも、バロンは意見を曲げることができなかった。
「しかしですね王子――」
「あのー、よろしいでしょうか?」
バロンが適当な反論をしようとした時、クリスが手を挙げた。
ブラムスが「なんじゃ?」とクリスに発言権を与える。
「私の為に色々と話してくださっている中で恐縮なのですが、私、聖女になるつもりはありませんので……」
「そうじゃったか」
「ですから、その、申し訳ございません!」
深々と頭を下げるクリス。
バロンはホッと安堵した。
「ク、クリス殿もその気がないようですし、聖女の件はこれでおしまいということで、よろしいですかな!?」
バロンの言葉に「うむ」と頷いた後、ブラムスは表彰式の終了を宣言した。
◇
「ロイド王子め、儂のことを疑っておるのか? いつもいつもいいところで噛み付いてきおってからに。誰がおしめを交換してやったと思っておる? 儂が自分の為に雇っておいたメイドだぞ……!」
バロンはブツブツ呟きながら王都にある邸宅へ戻った。
家に入ると執事が近づいてきて、客が来ていることを告げる。
客は応接間で待っているとのことで、彼は足早にそこへ向かった。
「お待たせして申し訳ございません、使者殿」
応接間に入るなりペコペコするバロン。
ソファに座っていた若い男は無表情で頷いた。
「それで、いかがでしたかな?」
使者の男が話を切り出す。
バロンは男の向かいに腰を下ろして答えた。
「案の定、国王陛下は聖女にならないかとクリスに打診しました。ですがご安心ください。私が上手く言いくるめて流しておきました。万事問題ありません」
「それはよかった。流石はニクス王国の次期国王様だ」
小さく「へへ」と笑うバロン。
「このあとは予定通りクリスを主賓とする祝宴が控えています。そこではどのように動けばよろしいでしょうか?」
「可能な限りクリスを王都に引き留めてください。ただ、下手に動いて勘ぐられても困りますので、無理はしなくて結構です」
「お任せください」
話が終わると、使者の男は足早にその場をあとにする。
バロンはその場に残り、天井を見上げてニヤリと笑った。
「もうすぐだ。もうすぐ儂がこの国の王になる。そうすればこの国を更に発展させることができるぞ……!」
ニクス王国で長らく辣腕を振るってきたバロン公爵は、しばらく前からドーア王国と内通していた。
先の〈揺り戻しの厄災〉もビクトルの指示によって彼が引き起こしたものだ。
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