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013

「あわわわ! ダッドリーさん、アルテさん、どうしましょ? どうしましょ!?」


 クリスは慌てふためき、意味なく左右に走り回る。


「どうしましょって言われてもなぁ」


「王子殿下が来られたのならお会いするしかないでしょう」


「ですよね? ですよね!? どうしましょ!」


「いや、だから殿下と会ってこいって!」


 ダッドリーがクリスの背中を掌で叩く。

 クリスは一瞬ビクッとしてから落ち着いた。


「ついてきてくださいよ、ダッドリーさん」


「お断りだ。俺は敬語ってのが苦手なんでな」


「じゃあじゃあ、アルテさん!」


「私もご遠慮願いたいですね」


「そんなぁ!」


「それではクリス、頑張って下さい」


「うぅぅぅ……」


 クリスは単独で町へ戻るのだった。


 ◇


 衛兵に案内されてクリスがやってきたのは高級料理店だった。

 普段は夜しか開いていない店だ。

 今は昼だが、王子が使うということで特別に開いていた。


 この場にはクリスとロイドしかいない。

 二人は純白のテーブルクロスがかけられた大きな円卓で向き合うように座っている。

 簡単な挨拶が終わったあと、クリスは恐る恐る尋ねた。


「ええっと、その、ロイド様、私になんの御用でしょうか……?」


「単刀直入に言おう」


 ゴクリと唾を飲み込むクリス。


「我が国の聖女になってもらえないだろうか?」


「えっ? 聖女?」


「そうだ。〈揺り戻しの厄災〉が起きたので知っていると思うが、我が国の聖女は今、生死の境を彷徨っている。この状態が長引けば、じきに第二・第三の厄災が起きるだろう。その為、今は一刻も早く次の聖女を(たてまつ)りたいと考えている」


「それで……私が聖女に?」


「先日のそなたの活躍については王国政府も把握している。魔具を使って魔物の大軍を撃退したというではないか。是非ともその力を国の平和の為に貸して頂きたい」


「ですが私は――」


「聖女になって行動が制限されることを危惧しているのだな?」


 クリスは「違います」と言おうとした。

 言いたかったのは、「私はドーア王国の元聖女です」だったのだ。

 なのでこの国の聖女になると両国の関係に亀裂が生じかねない、と。


 アルテの判断により、彼女が元聖女ということは伏せられていた。

 その為、現状でそのことを知っているのはダッドリーとアルテだけだ。


「安心してくれていい。そなたが望むのであれば可能な限りの自由を保障しよう。さらに王国随一の衣食住を提供する。だからどうだろうか?」


(そういうことじゃないんだけど……)


 と思いつつも、クリスは指摘せずに話を進めることにした。

 どのみち聖女になるつもりがないからだ。

 ならば、自分がドーア王国の元聖女であると話す必要はない。

 話せばややこしくなる可能性が高まるだけだ。


「申し訳ございません、ロイド様。私、聖女になるつもりはございません」


「そうか」


 ロイドの返事はそれだけだった。

 ビクトルのように固執してはいない。


(えっ? ここから「どうしても……」と食い下らなくていいの!?)


 あっさりすぎて驚くクリス。

 そんな彼女を気にも留めず、ロイドは指を鳴らした。

 するとこの店のスタッフが豪華な料理を運んできた。


「話は終わったが、せっかくだし一緒に食事しよう。それもダメかな?」


「い、いえ、ダメじゃありません!」


「それはよかった」


 ロイドは微笑むと静かに食事を始めた。

 クリスもビクビクしながらそれに続く。


「あの、ロイド様」


「どうした?」


「私が言うのもおかしな話ですが、聖女の件、あっさり引き下がっていいのですか? ロイド様が直々にここまで来られるほどのことなのに」


 ロイドは口元に笑みを浮かべた。


「食い下がっても意味ないだろう? 仮に俺が土下座したり更なる好条件を提示したりして食い下がれば考えを変えたか?」


「それは……」


「だろ? ならば食い下がるだけ無駄というものだ」


「なるほど」


「それに、我が国は聖女に対する依存度が低い。君のような明らかに魔力の高い者が聖女になってくれればそれにこしたことはないが、別にそうでなくてもかまわない。だから本人の意思を尊重するよ。なにより聖女の選定は別の者が担当しているからね。聖女にならないかと頼んだのはオマケみたいなものだ」


「すると……本当の目的は?」


「突如として現れた最強の魔具使いクリスという女性を一目見たくてね」


「最強の魔具使い……」


 クリスは恥ずかしくてニヤけた。


「天は二物を与えずと言うが、あれはウソだな。君は強いだけでなく美しい。魔力と並んで美貌も王国一と言えるだろう」


「それはさすがに言い過ぎでは」


「俺は本気だよ」


 ロイドの表情は真剣そのものだった。

 クリスは驚きから肩をビクつかせたあと、頬を赤らめて俯く。

 そして、「あ、ありがとうございます」と小さな声で言った。


 その後、二人は食事をしながら雑談を楽しんだ。

 話題は主に魔物ハンターという職の詳細について。

 ロイドが質問してクリスが答えるという流れで進んだ。


「今日はありがとう、クリス。おかげで有意義な時間を過ごせた」


「こちらこそありがとうございました」


 食事が終わると二人は席を立つ。


「近いうちに兵士が知らせに来ると思うが、君の厄災戦における功績を王城で表彰させてもらうつもりだ。その後は君を主賓とする祝宴も計画している。よほどの事情がない限り参加してほしい」


「分かりました! チームメンバーの二人も同行させてください!」


「もちろん。そうそう、おそらく表彰の場で聖女にならないか打診されると思うが、今回と同様に断ってくれてかまわない」


「はい! しっかり断らせていただきます! お任せください!」


「あ、ああ、任せたよ」


 元気よく返事するクリスに、ロイドは思わず笑ってしまう。

 かつて見たことのない不思議なタイプの女性だと思った。

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