011
クリスの登場で戦況は一変した。
押し寄せるプラチナランクの魔物が軽々と駆逐されていく。
敵を殲滅するまでに数分とかからなかった。
「信じられん……」
「なんだあの女は……」
誰もがクリスに驚いている。
ダッドリーやアルテも例外ではない。
「アルテ、俺は夢でも見ているのか?」
「いいえ、夢ではありません」
「本当にあれはクリスなのか……?」
「はい。ですが、我々の知っている彼女ではありません」
「というと?」
「今の彼女は魔物ハンターではなく、ドーア王国の前聖女です」
「なにぃ!?」
ダッドリーたちがガヤガヤしている頃、クリスは安堵の息を吐いた。
自分の力が通用しなかったらどうしよう、と不安になっていたのだ。
彼女は自分の使い魔がどれほどの強さかを把握していなかった。
「ふぅ」
ホッと胸を撫で下ろし、使い魔の召喚を終えるクリス。
一体のシャドウを残し、他の使い魔は全て異次元に消えた。
「クリス、お前、ドーアの聖女だったのか」
振り返ったクリスにダッドリーが尋ねる。
「実は……そうなんです」
クリスは自分が聖女だったことを隠してきた。
しかし、この期に及んでは隠し通すことはできない。
だから素直に認めた。
「すげぇじゃねぇか!」
ダッドリーが駆け寄ってきて、クリスの頭をクシャクシャする。
「そんなすげぇ力があるなら先に言えよ!」
「いやぁ、私自身、通用するかわからなかったものですから」
「てぇしたもんだ! たしかに今のおめぇはポンコツじゃねぇ!」
豪快に笑うダッドリー。
(私が聖女だったと分かっても態度を変えないんだ……)
クリスはすごく嬉しかった。
ダッドリーがこれまでと同じように接してくれることが。
「クリス、使い魔の召喚はこの後も可能ですか?」
アルテが尋ねる。
「は、はい、大丈夫です!」
「ならキーアの防衛を頼んでもいいですか?」
「えっ?」
「大丈夫だとは思いますが、もしかすると新手が現れるかもしれません。そうなった時には率先して町を守ってほしい」
「それはかまいませんが……アルテさんやダッドリーさんはどうするのですか?」
「私たちは腕の立つハンターを率いて他所の救援に向かいます。キーアですらこれだけの猛攻を受けたのですから、他はもっと酷いはず。戦力は少しでも多い方がいいでしょう」
「それなら私が救援に向かいましょうか? 転移の指輪があるので場所さえ分かればサクッと行けますよ」
「いえ、救援には私たちが向かいます。あれだけの数の使い魔を主体とする戦い方は混乱を招く。だから貴方はこの町を守ってください」
「分かりました!」
「聞いたか野郎共! この町はクリスに任せて、俺たちは他所へ救援に行くぞ!」
ダッドリーが右手で大斧を突き上げる。
それに呼応して、周辺のハンターたちが「おー!」と武器を掲げた。
◇
ニクス王国の王城――。
謁見の間では、国王をはじめとする重鎮たちが集まっていた。
「厄災の被害状況はどうなっている? それと聖女の容態は?」
国王ブラムスが険しい表情で尋ねる。
それに対して、ふくよかな体型のバロン公爵が答えた。
「厄災の規模に反して被害状況は極めて軽微です。兵の報告によると、早々に魔物の撃退を完了させたキーアのハンターたちが各地へ救援に駆けつけたことで戦況が好転したとのこと。また、聖女の容態につきましては芳しくありません。おそらくそう長くないと思いますので、ただいま次の聖女を選定しております」
「そうか」
ブラムスの顔に安堵の色が広がる。
「それにしても、近年の聖女は安定感に欠けるようですな?」
ブラムスの隣に立つ青髪の王子ロイドが言う。
彼の鋭い眼光がバロンを貫いた。
「そ、そのようですな」
バロンは脂ぎった顔をハンカチで拭きながら答える。
「聖女の選定や世話は公爵に一任されている。こうも不安定な聖女が続くようでは公爵の威信に関わりますよ」
「もちろん分かっておりますとも。ロ、ロイド様は、私の目が節穴とでも仰りたいのですか?」
「いや、そうは言わない。ただ、公爵の手腕にかつての頼もしさを感じないのは事実です。既に御年80歳を超えるわけですから、何かと気がかりなだけです」
「そこまでにしておけ、ロイド」
ブラムスがロイドを睨む。
「出すぎた発言、失礼いたしました」
ロイドはすまし顔で公爵に頭を下げる。
公爵は不快そうに眉をひそめながらも「いえいえ」と流した。
「バロン、聖女に関しては引き続きそなたに一任する」
「承知いたしました」
「それでは解散――」
「お待ちください、父上」
「どうした、ロイド」
「公爵にお尋ねしたいことがございます」
ロイドの視線がバロンに向かう。
バロンは肩をビクッと震わせた。
「公爵、〈揺り戻しの厄災〉の被害は極めて軽微とのことだったが」
心の中でホッとするバロン。
「はい。キーアで活動するハンターの貢献度が高くて――」
「それについて詳しく訊かせてくれないか?」
「詳しく?」
「過去の資料によると、厄災におけるキーアの戦果はいつも芳しくない。平時は高位の魔物が殆ど出ない上に人口も少ないのだから仕方なかろう。ところが今回はどこよりも早く魔物を殲滅したという。これは一体どういうことだ?」
「あぁ、そのことですか」
同様の疑問をバロンも抱いていた。
だから彼は、伝令に対して同じ質問をしていたのだ。
「キーアにはクリスという女のハンターがいるようで、この者の功績が大きいようです」
「クリス……聞いたことがないな」
「無理もありません。調べたところブロンズランクでしたので」
「なに? ブロンズなのに大活躍なのか!?」
「元々は他所の国でハンター業をしていて、最近になって我が国に来たのでしょう。おそらく引き抜きです」
「引き抜き?」
「彼女の仲間はキーアでも屈指の実力を持つ二人組です。そこらのブロンズランクと組むようなタイプではございません。なので、彼らがクリスを引き抜いてきたと考えるのが自然かと」
「それならば合点がいくな」
バロンは「はい」と頷き、それからこう続けた。
「まだ最終的な判断を下せる段階ではありませんが、既に報告されている内容が事実なのであれば、このクリスなる女性、我が国に引き留める為にも表彰して祝宴に招待するべきでしょう」
「たしかにその通りだ」
ロイドはそこで話を切り上げた。
それを確認したブラムスが文武官たちに解散を宣言。
謁見の間から続々と文武官が出て行く。
「謎の女ハンタークリスか」
そう呟くと、ロイドもその場をあとにした。
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