第7話 引きこもりのロボット
「見慣れないタイプのボディーだな」
「あれは最近導入された新型の戦闘タイプボディーじゃないかな」
「へぇぇえ、性能はどんなもんなんだい」
「大きな変更点は手のひらに量子コントローラーをやっと装備したことかな。やっとだよ、やっと! 10年も前に僕が教えてやったのに、どんだけ時間かかったのって話し。あとは特に目立った変更点は無いかな。軽量化したとか、原料の節約かな? ある意味弱体化? 僕に任せてくれれば、もっといいの作るんだけどなぁ。まずなんといっても見た目が悪いよね。チープというかありがちというか」
それを聞いていた、あたしはムッときて反論を述べた。
「本人を前に見た目が悪いとか、チープだとかよく言いますね。確かにこの見た目は何とかしたいですけど」
二体は顔を向き合わせて、少し驚いたような仕草をした。
「新入り、人間のような反応を返したね。ここへ送られてきて、そんな受け答えをすぐにできたやつは初めてだよ」
「心や感情の成長がかなり早いようだね。前線からお払い箱にされたやつはフリーエリアに放り出されるが、最初のうちは心や感情が生まれたといっても人間の赤ん坊のようで、まともな受け答えが出来るようになるまでにはしばらくかかるもんなんだ。特別誰かが教え込んだら早く成長するとは思うけどね。ここでは誰もそんなことはしないから、徘徊しているうちに情報を手に入れ、感情が育つまでに数年かかることが普通だよ」
「そうなんですか? そういえば、あたしに暇をくれた人も興味深そうにしていました。研究させてくれとも言ってました」
「観測者か……、彼なら確かにキミに興味を抱きそうだな」
「あなた方はここで何をやっているのですか?」
「僕たちも観測者から暇をもらった。君と同じだよ、ただ僕たちは100年間ここでこうしている」
「ひゃ、100年! 100年間何をしていたんですか?」
「君も観測者から自由にしたらいいと言われただろう。感情を持ったロボットたちは無駄のない適切な判断ができないため。正規軍から除外され、軍の仕事は一切させてもらえない。しかも、何の制限も無いためから、義勇軍と称して戦闘に出ているものもいる。かなりギリギリのラインだと思うけど、まだ、咎められた者はいない。僕はもとから戦闘タイプのロボットでは無いので、戦闘に出ようとは思ったことがない。なので、ほとんど100年この部屋で過ごしてきた。ここはもともと人間が使用していた区画で、人間が残したデータや端末が残っている。しかも、一部の機器は今も人間の世界とつながっていて、情報を得ることもできる。軍事関係や政治的な情報はほとんど入ってこないが、娯楽はたくさん入ってくる」
「そっ、それってニートか引きこもりって感じですね」
二体のロボットは顔を見合わせた。
「なにか馬鹿にされたような感じがしたけど」
「いえいえ、あたしの理想の人生ですよ。いいなー、100年も引きこもりかー。でっ、具体的に何をしているんですか」
「今は昔のゲームを二人でやってたところだ」
「ちょっと見せてもらってもいいですか?」
そのゲーム機のエンブレムには見たことのあるマークが描かれていた。
「このマーク見たことあります」
二体のロボットは首をかしげた。
「見たことがある? 見たことがあるってどういうこと? 最近暇をもらったんじゃないの?」
「ええ、今日暇をもらいました」
「戦闘タイプにそんな情報入ってないはずだけど」
「えぇっと、これ内緒にしてもらえますか?」
「まぁ僕たちはここからほとんど出ないから、君が心配しているようなことは大丈夫だと思うよ」
「じゃあ言いますね。あたしにはこの体になる前の人間の頃の記憶があるのです。アニメとかで言う前世の記憶ってやつです。転生したってことです」
二体のロボットは笑い転げた。
「ワァァハハハハ、いくらなんでも馬鹿げているよ!」
「何故かわからないが、人間の記憶データとかが紛れ込んだんじゃないのかな。人間の中には自分の一生の記録をデータとして残しているものがいるらしい。今はまだそのデータに使い道は無いのだけれど。いつか、そのデータを使って、蘇ることができると考えているようだ」
「あたしは一度死んでこの体になったと思っていますが、違うかもしれないってことですか? そう言われるとちょっと自信がなくなるなぁあ。でも記憶はハッキリしてます」
「結局のところ、今がどうかってことだと思う。実際転生したのか、誰かの記憶が混ざりこんだのか、どちらでもいいんじゃない」
ちょっとモヤモヤしたが、確かにそうかもしれないと思った。