第44話 誘拐
「えっ?! クリスティちゃんが? さっきまで一緒にいたのに……」
「身代金を要求されているが、それはフェイクだろう。十中八九、我々を行動させないのが目的だ」
あたしはブルースと情報交換しているため。クリスティちゃんがエドナ重工会長の孫娘であることは把握していた。
「コトコも狙われてる。気をつけるんだ!」
「わかった!」
「気を付けろと言っておいて何なのだが、クリスティーを助けて欲しい。いま動けるのはコトコだけだ」
「そりゃあたしだって助けたいけど、どうすれば……」
「今から位置情報を送る。そこへ行けば元老院の手のものに会える。君のアクセサリーの情報と交換に、クリスティーの居場所を教えてもらえる。エドナ重工の者はクリスティーの身に危険が及ぶといけないので、不用意に動けない。すまん、コトコ、クリスティーを頼んだぞ!」
「了解! やってみるよ」
楽屋の方へ移動しようとすると。そこにはすでに、怪しい男たちがいた。
「ひゃー! もう来てるよ」
あたしは舞台へ戻った。
そして、マイクを手にアンコールで歌う曲を歌い始めた。観客たちはアンコールに応えてくれたと大歓声だ。歌いながら、チラリと袖の方へ目をやる。男たちの姿が見える。何やら指示を出しあっている。やっ、ヤバイ気がする。あたしは唄いながら、舞台正面から観客席へ飛び降りた。
男たちは焦って強引に舞台へ入り込んだ。サプライズかと興奮する観客たち。あたしは叫んだ。
「後から来る男の人たちを抑えて!」
おーっと、ファンたちがざわめき立つ! あたしの、指示に観客たちが応えてくれる。男たちは観客の妨害に遭い身動きが取れない。その間に私はどんどん距離を広げていった。そこへ、とぼとぼと、戻って来るマリアちゃんが見えた。マリアちゃんもこちらに気がついた。マリアちゃんが、叫んだ!
「コトコ! 何処行くの!?」
「クリスティちゃんを、助けに行ってくる!」
「えっ!? 僕も行く!」
「あっ、危ないよ!」
マリアちゃんは置きっぱなしになっていた、もう一台のパワードスーツに乗り込んだ。操縦席から手招きし、右手を差し出した。
「コトコ、乗って!」
「わかった!」
あたしはその右手を取った。マリアちゃんはあたしを操縦席に引っ張り上げた。あたしは転がるように操縦席に入り込んだ。そして、シートの後ろあたりにスペースを見つけ身を置いた。
すでに、マリアちゃんはパワードスーツを走らせていた。パワードスーツは学院の外へ飛び出した。
「ブンブン丸の方が足が速いから丁度よかったよ」
「そうなの? まあ、そうか。早く着くってことだもんね」
ブンブン丸はアスファルトを駆けていく。
「ちょっと、マリアちゃん、アスファルトは大丈夫なの?」
「イベント用にソフトシューズ履いてたから大丈夫」
「なんだって! いつもこれ履いとけばいいのに」
「いや、すぐに摩耗するから、もったいないよ!」
「ちょっと、お嬢様、そこはケチるのやめましょうよ!」
「でっ、何処へ向かうの?」
「とりあえず、元老院って人たちに会う。その人たちから、クリスティちゃんの監禁場所を教えてもらう。行き先はあたしがナビするから」
「了解!」あたしの案内でパワードスーツを動かすマリアちゃん。
「次右、その次左、そのまま、真っすぐ行って」
テキパキとパワードスーツを操作する。マリアちゃん。
そこは大きな離宮のような場所だった。
「ここまで来てからで、なんだけど、パワードスーツで近づいて大丈夫なのかな?」
「たっ、確かに」
あたしたちは離宮に続く広い道路の真ん中で立ち尽くしていた。すると、一台のリムジンが近づいてきた。そして、その中から白装束の人物が降りてきた。
「こちらにお乗りください。あたしと、マリアちゃんはそのリムジンに乗り込んだ」
「マリアちゃん大丈夫?」
「ちょっと、ドキドキしてるけど大丈夫」それは大丈夫なんだろうか?
リムジンは離宮の正面入り口を入ると、裏手の方へ回り込んだ。
「ここ、とんでもなく広いねー。学院より広いよ!」
「そうかなぁ、まあ、確かに学院よりは広いかもね」
意外に驚いてないマリアちゃんだった。さらに車は林の中へ進んでいく。そこから結構走った。マリアちゃんは外の景色を見ている。落ち着いてるよ。凄い肝っ玉だよ! あたしはさっきから手汗が凄いんですけど……。
すると、前方に池が見えてきた。車は池へ向けてひた走った。このまま進むと池のなかだよ。
「おい! 運転手さん! 起きてますか? 池にハマりますよ! スピード落としてーーーー!」あたしは目をつむった。――あれ? なにごとも起こらない。恐る恐る目を開くと池が真ん中で割れ通路が現れていた。
「うわー! 凄い! アニメか映画みたいだ!」と喜ぶあたし。
「おおー! ホントだ、凄い!」
落ち着いていた、マリアちゃんもここは興奮気味だ。
そこからはトンネルの中を走っていく。いゃー、人間の国へ来たときを思いだすなぁ。
そんなことを思っていると、丸い部屋にリムジンが入った。そして、その中心にリムジンを停めた。
「皆さん、ここで降りてください。元老院の方々がお待ちです」
その言葉に従って、あたしたちは車を降りた。ただの白い丸い空間だったので、少し気を抜いて、うーんと伸びをしてしまった。マリアちゃんは左右に体を傾けて、準備体操をしている。白装束の人たちは覆面をしていて、表情ははっきりわからなかったが、にらまれたような気がした。うー、こっ、怖い。
しばらくすると、円柱の部屋の5メートルほど上方に、観覧席がせり出してきた。観覧席は一人席になっているようだった。そこに、人影が入ってきた。
あれが、元老院の人たち……。




