第37話 ドール
「ふぅーー。今日も授業おわったーー!」
マリアちゃんは手を上方へ突き上げ、大きく伸びをした。
「よっし! クラブへいこう! ヒメ先輩を誘いに行こう!」
教室の出入り口がザワザワした。
「わー! 生徒会長のヒメ先輩よ! ロースクールの教室に何の用かしら?」
クラス中の視線が、入り口に佇むヒメ先輩に集中していた。
「マリア・グランデはいるかしら?」
「えっ! マリア」今度はマリアちゃんにクラス中の視線が集中する。
周囲の視線に気がついたマリアちゃんは、ヒメ先輩に駆け寄り抱きついた。
これはマーキングだな、ヒメ先輩はマリアのですってことだな。
「お姉様! わざわざ来てくれたんですか?」
「もー、マリアったら」
マリアちゃんとヒメ先輩の胸に、同じバッジが輝いていた。あのバッジは……。
あたしはマリアちゃんに近づくと話しかけた。
「二人は学院内兄弟だったんだね」
そしてあたしはビシッと人差し指をマリアちゃんに向け、呆れた顔で言った。
「ヒメ先輩。なぜこんなのを妹にしたんですか?!」
「コトコ、こんなのとはなんだ、こんなのとは」マリアちゃんはプンプン怒っている。
「コトコちゃん。マリアは素敵な妹よ」
そう言うと美しいほほ笑みを浮かべた。
「そりゃ、綺麗な顔をしてますし、スタイルもいいです。そして、周囲まで明るくする性格がいい」
横にいるマリアちゃんが、顔を赤らめ、まじもじしていた。あっ、うっかり褒めすぎた。気がついて、あたしまで赤くなる。
「でっ、でもですね。結構な問題児ですよ! 生徒会長の学院内妹として、相応しいかどうかは怪しいです」もう一度、ビシッと人差し指をマリアちゃんに向けた。
ヒメ先輩は人差し指を頬にあてて考えだした。
「おっ、お姉様!」わーん、と抱きつくマリアちゃん。
「冗談よ、冗談」
マリアちゃんは、ぷぅーっと、ほっぺたを膨らませた。
「いやー、ヒメ先輩がお姉様とは、マリアちゃんが羨ましいよ」
マリアちゃんはお得意の素敵な笑みを浮かべた。
クリスティちゃんが、教材を片付け終わり、駆け寄ってきた。
「じゃあ発明クラブに行きましょう」とヒメ先輩が言った。
発明クラブへ向かいながら、あたしは話し出した。
「グレン先輩のときもだったけど。ヒメ先輩が、なんで発明クラブに所属しているのかがわからないよ」
「言っておくが、コトコ、僕が発明クラブに入っているのはヒメ先輩に誘われたからだよ」
「えっ? そうなの?」
「でっ、ヒメ先輩は発明クラブでいったい何をしているんですか? どんな活動をしているんですか?」そんな話をしていると旧校舎の前まできた。
教室に入るとヒメ先輩は、引きずっていたキャリーバッグをポンポンと叩いた。
「私の活動目的はこれよ」
パカリっと、キャリーバッグを開ける。真紅のフリルが目に飛び込んできた。それはゴシックロリータの衣装に身を包んだ可愛らしいドールだった。
「かっ、可愛らしい……。何これ?」
「コトコちゃんはまだ見てなかったのかしら?」
「そういえば、コトコにはまだ見せてなかったなぁ」
「あたし、実際発明クラブの活動ほとんどしてないし。どちらかと言うと、企画研究クラブ員のようになってるし!」
「グレンくんがやってるメカ格闘戦の小クラスがこれよ。でも内容はずいぶんと違って、格闘もするけど、ビジュアルや動きなどの芸術点も評価の対象になってるの」
「なるほどー、だからこんなに可愛いんですね」
ヒメ先輩は同じトランクからベレー帽を取り出した。学校指定のベレー帽を脱ぐと、そのベレー帽を被った。ヒメ先輩は椅子に優雅に腰掛け目を瞑った。しばらくすると、トランク内のドールが瞳を開き、外へ飛びだした。そして、喋りだした。
「マリアも準備して、久しぶりにバトルしましょう」
マリアちゃんは隣の部屋に駆けて行き、トランクを手に戻ってきた。
マリアちゃんがトランクを開くと、純白の衣装に身を包んだ、まるで聖女のようなドールが現れた。頭にはベールをかぶり、ふんだんにフリルがあしらってあった。
「なっ、なんかマリアちゃんのキャラじゃなーーい!」
「コトコはいったい、僕をなんだと思っているのかな?」
引きつった笑みを浮かべこちらに向かってきた。
「だっ、だっていつも男装じゃないか!」
あたしはクリスティちゃんに助けを求めた。サッっと目をそらす、クリスティちゃん。
「マリアはスカートもすごく似合うのよ」ヒメ先輩のドールが言った。
「えっ、そうなんですかあたしまだ一度も見たことないです」
「まあ似合うとは思うんですけど、スカートとかフリフリが嫌いなのかと思ってました」っとあたしはマリアちゃんの方を向いて言った。
「今度あたしにスカート姿見せてよ」
「いや、その、恥ずかしいじゃないかぁぁぁあ!」
ニタニタと笑うあたし。
「その話はまた今度」
そう言うとマリアちゃんはベレー帽をかぶりなおし、手近な椅子に座って目を瞑った。
純白のドールが目を開いた。トランクから飛び出すと、部屋の中央まで移動し、ヒメ先輩のドールと向かい合った。
「じゃあ始めましょうか」
二体のドールは両手の拳を体の中心で合わせ深々とお辞儀をした。
二体のドールがゆったりと大きく体を動かし、互いの技を繰り出した。
「あっ! カンフーだ!」
戦うというよりは申し合わせた技を交互に繰り出している感じだった。綺麗な動きに見とれる。「なるほどそして芸術性を判定してもらうのかな?」
ひと通りの技を出し終わった。二体は綺麗に向き直り拳を体の正面で合わせると、深々とお辞儀をした。
「いやー、素敵でした」あたしとクリスティちゃんはパチパチと手を叩いた。
「あたしもそのドール動かしてみたいです。あたしにもできるんですか?」
「うーん、どうかしら? このドールはニューロリンカーの人じゃないと使えないの。コトコさんはニューロリンカーかしら?」
「そうです。そうだと思います」
ヒメ先輩のドールは「ちょっと待ってね」っと言って、トランクへ戻った。
ヒメ先輩の目が開いた。椅子から立ち上がり、あたしの方へ近づくとベレー帽をあたしに被せた。そしてあたしを椅子の方へ連れて行き座らせた。あたしの耳元でコードを囁いた。「そのコードで接続してみて」あれ? うまく接続できない。やり方がよく分からない。
「コトコはそれ使えないよ」茶々丸が気付いて、話しかけてきた。
「えっ?」
「肉体のニューロリンクはコトコと接続するのに使用しているからね。接続するとしてもコトコ本体から接続することになる。すると肉体のコントロールができなくなる。だから今ここでやるのは無理だよ」茶々丸はくすくす笑った。
「もー、あたしがそんなこと知ってるわけないでしょ!」
そして、あたしはヒメ先輩に言った。
「うまく接続できませんでした」
「うーん、何でかしら?」
「ありがとうございました。ドールはまた今度にします」
そう言うとあたしはヒメ先輩にベレー帽を返した。
あっさりと諦めたあたしに、二人は怪訝な目を向けていた。




