第36話 行くなら今だよ
そして次の日、アメリア学院では。
マリアちゃんは机にドン! と手をつき前のめりで、クリスティちゃんに質問を始めた。
「クリスティ、昨日の式典どうだった?」
「うーん、どうだったかなぁ。軍人が大勢いたよ」
「そりゃそうでしょ!」とマリアちゃん。
「軍楽隊の演奏はかっこよかったなぁ。他はあんまり印象に残ってないなぁ」
といつものおっとりした調子で言う。
そして、大きな碧い瞳で、マリアちゃんを見つめた。
さらに、質問をするマリアちゃん。
「立食パーティーは? おいしいものとかなかったの?」
「そんなのないよぅ。偉い人のつまらない話ばっかりだよぅ」
即答するクリスティちゃん。
重ねて、質問をする。
「なんかほら商品とか賞金が貰えるって、カイト先輩が言ってたよね? それで、帰りにおごってもらったり、プチ打ち上げしてもらったりしたんじゃないの?」
「目録はもらったよ。内容はよく知らないなぁ」
クリスティちゃんを見つめるマリアちゃんは瞳を瞬かせた。
加えて、質問をする。
こんどはクリスティちゃんからちょっと目を逸らしながら質問をした。
「じゃあ、カイト先輩に褒めてもらったり、頭撫でてもらったりしたんじゃないの?」
「……私はお祖父様と一緒に帰ったから……」
「なんだ、なんにも無しか」
マリアちゃんはひと通り質問を終えると、あたしの方を向いて言った。
「コトコ、今日は発明クラブの方に参加してもらうぞ」
ぼんやりと、二人の話を聞いていたあたしは姿勢を正して言った。
「えっ! なに? マリアちゃん、また何か企んでるんじゃあ?」
こんどはあたしの方にドン! と手をつき前のめりで言った。
「今日こそ、ヒメ先輩に、コネクトしに行こう!」
「えっ! ヒメ先輩って生徒会長でしょ? 今収穫祭の準備で無茶苦茶忙しいんじゃないのかな? って言うかむちゃくちゃ忙しいでしょ!」
あたしはマリアちゃんの方へ体を乗り出していた。
「行くだけ行ってみようよ。本当にもう発明クラブの活動期限ギリギリなんだよ!」
マリアちゃんは力強い目でこちらを見ている。
「…………」
「わかったよ。やるだけやってみましょ!」
そして、放課後。
あたしたちは生徒会室の前にいた。扉を少し開けて隙間から中を見た。室内は戦々恐々としていた。
「だめだよこれ、駄目なパターンだよ! 話しかけることすら難しいよ!」
一応話し合いに区切りがついたのか、生徒会メンバーが生徒会室から飛び出し各自の持ち場へ散っていった。
ヒメ先輩が一人になった。
「行くなら今だよ!」
「今日はマリアちゃん、先行ってよ!」
「いやいや、コトコは得意じゃないかーー!」
生徒会室の出入り口で、すったもんだしていると。それに気付いたヒメ先輩がこちらに目を向けた。
「あれ、マリア?! それにあなたは編入生の……。コトコさん……。 だったかしら」
この人は優秀だなぁ。もうあたしの名前まで覚えているよ。
「あのー、マリアちゃんがヒメ先輩に発明クラブに出て欲しいそうです」
「そっかー、そうだったわね。そろそろ期限切れかぁ。うーん」
ヒメ先輩は随分と考え込んでいた。たまりかねたマリアちゃんが言葉を発した。
「ヒメ先輩辞めないですよね?」
「辞めたくはないけど、今忙しいからなぁ。いったん期限が切れてしまうかもしれない」
マリアちゃんが暗い表情になった。
あたしは一つの考えを思いついた。
「あたしたちが何か手伝います。時間を作りますから、発明クラブの方へ出てくれませんか?」
「私もその意見に賛同します!」
あたしとマリアちゃんは声の方へ振り返った。一人の生徒会役員が戻ってきていた。
その生徒会役員の顔に見覚えがあった。
「あっ、あなたは通路と敷石の人!」
「通路と敷石の人って言うなーー! 私にはちゃんと名前があります」
「エイリアス先輩」マリアちゃんが言った。
「先輩がなんで……」
「私も以前から、ことあるごとに言ってたのよ。ちょっと休んでくださいと。すこしは息抜きしてくださいと。ヒメ先輩は働きすぎなんですよ。なんでも一人で抱え込みすぎなんですよ。もうちょっと生徒会役員に仕事を振ってください」
ヒメ先輩は「あっ!」っと声を出しかけたが、その後黙り込んだ。そしてしばらく沈黙が続いた。
「そうね私の悪い癖ね。じゃあ、あなたたちのお言葉に甘えて、少し休もうかしら」
パアアアっと、エイリアス先輩の表情が明るくなった。
「では役員を集めてもう一度役割を決め直しましょう」
「ありがとうエイリアス先輩」マリアちゃんは言いにくそうに小さく言った。
「この件についてはあなたと同意見だっただけよ」エイリアス先輩はツンとした感じで応えた。そして、早速スマホで役員に招集をかけているようだった。
エイリアス先輩は発明クラブに反感を持っているって訳じゃないみたいだなぁ。マリアちゃんを敵視しているのかな? 何かのライバル関係にあるのかな? あたしの頭脳に久しぶりの恋愛スイッチが入った。これは三角関係の予感……。どことどこが三角なんだ? ノーマルタイプか? ユリタイプか? ううーん。
考え込んでいると、マリアちゃんが声をかけてきた。ドキリとした。
「コトコ、どうしたんだ? 何考えてるんだ?」
「いや、たいしたことじゃないよ」と誤魔化した。
「役員が集まったら会議をするから、また、明日にでも来てくれるかしら」とエイリアス先輩が言った。
「わかりました」
「ヒメ先輩。明日また誘いにきます。発明クラブに来てくださいね」
ヒメ先輩はマリアちゃんの言葉に、手を挙げて応えた。




