第34話 歌姫の誕生?
「おかえり、早かったね! おっ、汗だくのコトコくん、これまた素敵ですね!」
クラブ長がギンギンの眼でこちらを見ている。
「ちょっと、こっち見ないでもらえますか!」
「今のセリフいただき! アイドルの風格が出てきたね」
あたしはあちこち隠すように腕と体を使い小さくなった。ヒロト先輩はこちらに向けて親指を立てた。
「ヒロトくーん」ロンロさんは先輩を手招きし、部屋の隅っこへ移動した。
「ちょっと、話が違うんじゃない! ダンスどころか動きもめちゃくちゃよ!」
「言うの忘れてました。最初の女の子から変更になってるんです」
「なんですって! ヒロトくん、間に合うかどうかわからないわよ! ぐちゃぐちゃなんだから」
隅っこで話しているけど、聞こえちゃってますよ。しっかり聞こえちゃってますよ。
前世では筆頭運動できない子で名を馳せたんだから、仕方ないでしょ! 周りの皆も運動ダルイねって感じだったしね。無茶苦茶で悪かったわね。ちょっとムッときた。くそー、ダンス上手くなってやる!
「コトコちゃん、今日のところは帰るわ。ちょっと方針も考えてくるね。期待して待っててちょうだい」ロンロさんは若干ひきつった笑顔をあたしに向け、帰っていった。
あたしはその笑顔にマックで鍛えたスマイルで答えておいた。
また、衣装合わせがあるってことで、シャワーを浴びてくるように言われた。あたしはシャワーを浴びながら、自分のライブラリを検索した。
ダンス基礎編。ダンス中級編。ダンス上級編。
帰ったら一回動き確認しよう。いったいあたし何してるんだろう? こんな事してて、良いのかな?
シャワーを浴び、気分一心でクラブ室に戻ると。また衣装合わせが始まった。
手芸クラブの人も来ていてサイズを測ったり、詰めるところや出すところを確認したり、ピンで止めたりしていった。
衣装合わせが落ち着いてきたところで、ヒロト先輩から次の指示が飛んできた。
「コトコくん、スタジオ今日3時間とってるんだよ。音楽クラブの彼女とボイスレッスンやってきてくれる」
「ボイスレッスンですか? はい、行ってきます!」
まあ、歌うなら練習しといた方が身のためだ。自分の実力を知らず、収穫祭で酷い目にあってからでは、目も当てられない。
音楽クラブの先輩に連れられ、またスタジオに入る。この部屋でマイクを持つと、なんかデジャブ感。
「あて、あててててぇ」頭を抱えてしゃがみ込む。
だっ、大丈夫? 音楽クラブの彼女が、あたしを心配して覗きこむ。
「ちょいちょい頭痛がするんです。頭痛持ちなんです」
ニューロリンクが関係しているのかもしれない。
「ちょっと待ってくださいすぐ治りますから」
調子が戻ったので、彼女のピアノに合わせて音階をやる。
「いてて」また、頭痛が! 近づく彼女を右手で制す。
「大丈夫です」ふー、っと一息つく。
「大丈夫です。やりましょう」
彼女が、コンサートで歌う曲を軽く弾いてみた。
「どの曲にしようかなぁ。この曲分かりますか?」
有名な曲らしい。あれ、これ、知ってるぞ! そうか、あたしにはライブラリがあるから知ってるのかな?
「大丈夫です。歌えそうなのでお願いします」
「じゃあ、弾きますね」彼女が伴奏を始めた。
それに合わせて高らかに歌う。何か楽しくなってきて、身振り手ぶりをつけながら熱唱した。最高に気持ちいい! そういえば、久しぶりに歌ったよ。まあ、うまく歌えたと思う。
「先輩どうでしたか?」チラリと先輩の方を見た。
彼女はピアノの鍵盤につっぷして、号泣していた。
歌まで最悪でしたか? 我ながらこの新しい体でうたう歌は、前世の記憶と比べてもうまいと思ったんだけどなぁ。
彼女はがばっと起き上がると、あたしの手を取りもの凄い勢いで、企画研究クラブの方へ走って行った。先輩廊下は走らないでくださいよー! ぶらんぶらんと彼女に引きずられ、企画研究クラブのクラブ室に入った。
「ヒロト先輩! この子は凄いです!」
「なにー、歌まで酷いのか!」先輩はそう言うと頭を抱えた!
「何をいってるんですか! この子はエンジェルです! まるでエンジェルボイスです! この学院の歌姫、歌姫の誕生です!」
あたしを含め全員が、口をあんぐりと開けたままフリーズした。
「いやー、またまたー、大袈裟だなーー、とりあえず聴いてみようじゃないか」
みんなでスタジオに移動する。先程の歌を音楽クラブの彼女の伴奏で高らかに歌う。
「ふーー」っと一息つき、額の汗を右手で払った。キラキラとエフェクトが光った感じがした。皆が号泣していた。
「なんて歌声だ。確かにエンジェルボイスだ。アメリア学院の歌姫の誕生だーー!」
あたしは本日のお勤めをこなし、帰宅のため企画研究クラブを後にした。
廊下を歩きながら、いつもの様に小規模通信を利用し、茶々丸に語りかけた。
「茶々丸、まさかあたしがこんなに歌上手かったとはなぁ」
「ほんとだね、僕もびっくりだよ」
「やっぱり何でも挑戦してみるもんだね。これからは、やる前から諦めないで、何でも挑戦してみることにしよう」
などと話していると、帰路につくマリアちゃん、クリスティちゃんと、学院の出入り口付近で出会った。
「あっ、ちょうど良かった。コトコ、お務めどうだった?」
「いやーマリアちゃん大変だよ。本格的すぎてびっくりだよ」
「ヒロト先輩が企画したことだからな。けっこう凄いでしょ」
「どうしよう、かなり発明クラブ休むことになるんじゃないかな」
「うーん、それは困るなー、わかった僕がマネージングするようにするよ」




