第28話 反則でしょ
「異世界転生しちゃった。ウフフ」
だめだ、落ち着けあたし、今後のことは家に帰ってゆっくり考えよう。今のところ特に問題ないのだから。
「それはそうと、クラブ員は三人なの? で、あたしを入れたとして四人? すっ、少ないね」
「だからコトコに入って欲しいんだよ。ワーーーン!」
とマリアちゃんが泣きながらあたしの手を取った。
「マリアちゃん、嘘泣きバレバレ」
マリアちゃんはペロリと舌を出した。
「クラブ員はもっといるんだよ。でも、入って欲しいのはほんとだよ」
「それはもう伝わってるよ」
あたしは顎を人差し指で抑えながら、うーんと考えた。
「入ります。よろしくね」
あたしはマリアちゃんに向かって右手を差し出した。マリアちゃんはそのあたしの手を取った。黒い大きな瞳がうるうるしていた。涙目を隠す様に体をくるりとひるがえした。
「じゃあ、発明クラブの施設を案内するね」
「施設案内と言えば、マリアみたいになってきたね」
フフフと、笑う。
「ここがドックね。昔のクラブ員が自分たちで建てたらしい。大きなものはここで開発してる。主にクリスティが使ってるぞ。しかも、機械制御だけでロボットを動かしている。二本足で歩かせる技術者は世界でも数少ないんだ」
「クリスティちゃんって凄いんだね」
相変わらず、向こう側で、ヨッチーを黙々と整備している。凄い集中力だ。
「隣の建物が旧校舎だぞ」
「木造建築? 珍しいね。画像では見たことあるけど、本物は初めて見たよ」
「確かに、今では貴重な建物らしいよ」
「マリアちゃん、壊さないでね」
マリアちゃんは苦笑いした。
「旧校舎では小さな物を開発したり、実験したりしてる」
キョロキョロしていると、後ろから声がした。
「マリア! さっき掘り返した道を直してきなさい!」
「いまクリスティがヨッチー調整してるので、終わったらすぐに直します」
「それでなくとも生徒会からの風当たりが強いのだから頼むぞ」
「はいっ!」と良い返事でマリアちゃんは応えた。
マリアちゃんが尊敬する人なのか、はたまた怒ると怖いのか。少し、あたしの発明クラブライフが不安になった。
あたしたちが旧校舎から出てドックへ向かおうとすると、生徒会と書かれた腕章を付けた二人に声をかけられた。
「ゲッ!」マリアちゃんが苦虫を噛み潰した様な、酷い顔になっている。マリアちゃん綺麗な顔が台無しだよ。
「発明クラブ! あの通路を掘り返したのは君らだな!」
汚物を見るような目でマリアちゃんを見ている。
「なんだよ! そもそも、こっちへ来る用事ある? 監視カメラでも付けてるんじゃないのか?」
「この旧校舎は文化財として保護対象の候補に選ばれている。何かあってからでは困るんだよ! それに、発明クラブは承認の最低人数にも達していないのだからな。そろそろ、解散したほうがいいんじゃないのか?」
「クラブ員は大丈夫だよ、今日だって一人入ってくれたのだから」
マリアちゃんは歯を食いしばっている。鋭い視線があたしに刺さる。いやー、まだ申請書も出してないのにそんな目で見られてもなー。
「ご苦労だね」
あたしたちはビックっとなって、振り返った。
「クラブ長!」彼は眼鏡の真ん中を人差し指でクイッと上げて話した。
「通路は後でしっかり直しておくから、クラブメンバーの件も期限はまだだよね」
女性の生徒会役員は顔を赤らめて応えた。
「そうでしたね。カイトさんが、そう言うなら通路はよろしくお願いします」
そう言うと、そそくさと立ち去っていった。
「マリアちゃん、発明クラブ人数足りないの?」
あたしはマリアちゃんの顔を見つめた。マリアちゃんは視線をそらして答えた。
「じっ、実はそうなんです」そして、丁寧な言葉になっていた。
「人数は大丈夫になったんだよ! コトコが入ってくれたから!」
焦ってるマリアちゃん、かっ、可愛い! あたしの好奇心が、悪戯心がくすぐられてしまった。
「あたしまだ申請書出してないよ。クラブ員少ないのかー、どうしようかなー」
あたしの期待は裏切られてしまった。マリアちゃんの瞳から涙が流れ、顎の先端からポタポタと地面に落ちた。
あたしは手足をバタつかせて、マリアちゃんの周りをウロウロした。
「はっ、入るから! 絶対辞めないから!」
「約束だよ!」
泣きはらして目元は赤くなっているが、パァーと明るい表情になった。マリアちゃんの背景に向日葵畑の映像が見えた気がした。いやーその笑顔は反則でしょ!




