第16話 荷台の中(コトコ気絶中)
弁当屋のキクノは軍の仕事を終えた後、劇場裏に車を止めた。ここもキクノの店の常連様だ。
「キクノちゃぁあん、今日もありがとうね」
この劇場の俳優のロンロさんが声をかけてきた。彼は物腰もしゃべり方も女性のようだ。役も女性役が多いと、ともだちから聞いたことがある。
「劇団員呼ぶからちょっとまっててね」
トラックの荷台を開け荷物の降ろしを始めた。最後の荷物を劇団員に渡して、荷台の扉を閉めているとき、奥の荷物が不自然に崩れた。閉じる途中だったのでそのままの勢いでバタンと扉をとじてしまった。気になったが車を走らせることにした。次の降ろし場は1時間はする場所だ。
走行中荷台の中が気になってしかたなかった。何度も荷台に神経を向け、耳を澄ませた。だれか中にいるのかもしれない。しかし、物音一つしなかった。気にしないようにとも思ったが、やはり荷物の崩れ方が不自然だった。
降ろし場に到着した。どうしたものかと少し考え、野球好きの旦那が助手席に積んでいたバットを手に車から降りた。勢いよく荷台の扉を開き、バットを上段で構え、大きな声で叫んだ。
「だっ! 誰かいるんでしょ!」
少し間があって、物陰から倒れるように出てきたのは10歳ほどの可憐な少女だったのだ。思わず、振り上げていたバットをすて、彼女に駆け寄っていた。
「ちょ、ちょっと大丈夫?」
ペチペチと顔を叩いた! 起きない。胸に耳を当てた。鼓動はする。息もしている。四つん這いから倒れていたから、頭も大丈夫だろう。そばにあった毛布を広げその上に寝かせた。そこへ、孤児院の先生たちが荷物を取りにやってきた。
「キクノさん、ありがとうございます」
そういって、手慣れた様子で荷物を運んで行く。
「いつも、子供たちが喜んでおりますわ」
人影が先生の視界に入ったのか、チラリと荷台の奥をみた。
「あら、可愛いお嬢さん。荷台の中とはまた大変なところで寝ておられるんですね」
キクノはとっさに嘘をついてしまった。
「娘が手伝いたいって言うもんで、連れてきたら気を失ってしまって」
「えっ! よくあるんですか?」
いや、ハアといい加減な返事をしていると、先生はすぐに主治医の先生を呼んできた。
「これは大変だ、とりあえず、保健室に運びましょう」
「えっ、あっ、はい!」
彼女をお姫様だっこし保健室まで運び込んだ。主治医の先生が診察を行ってくれた。
「外傷は無いし、心拍も正常、特に問題はなさそうです。しかし、後日また大きな病院で、精密検査をしたほうが良いかもしれません。今日のところは意識が戻るまでここで待たれても良いですし。気付け薬を使用しても良いですよ」と言ってくれた。
「待ちます、仕事も終わったし急ぐことも無いので」
キクノは待たせてもらうことにした。




