第13話 緊張してきた
「やっぱりここにいたのか、コトコ」ブルースもやってきた。
「なんか緊張してきて、緊張をほぐすために体を動かしてた」
あたしはフフフと笑った。どんどん人間に戻っている気がするよ。
「作戦開始まで、あと2時間ほどあるけど、ほどほどにね」ジャックはもう少し準備があるからといって、部屋から出て行った。
「一つ手合わせしようか」あたしとブルースは組み手を始めることにした。茶々丸を近くのシートの上に乗せ、広間の中央へ移動した。
「さあ、コトコ、いつでもいいぞ」
「じゃあ、行きますよ!」
あたしはブルースへ向けて探りのジャブを数回入れた。小さなあたしの攻撃を手のひらをうまく使って受け流す。見ためは幼児がお父さんと遊んでる様にしか見えない。うぅぅうん勝てる気がしない。
「小さな体を活かすんだ!」
何処からともなく声が聞こえる。あたしの気持ちを察したのか、それは茶々丸からのアドバイスだった。小さな体を活かす……。ブルースの攻撃に対処しながら、自分のライブラリを検索する。よし、これを使ってみよう。
あたしは大きめの右手のストレートにタイミングを合わせて、ブルースの懐に滑り込んだ。勢いのついた右手を自分の体に巻き込み、その力を利用して巨体を放り投げた。ブルースの体がグルんと宙を舞って床に叩きつけられた。すぐさま、体制を立て直し顔面に拳を振り下ろし、数センチのところで止めた。
「ま、参った、コトコの勝ちだな」あたしはにっこりほほ笑みながら、倒れたブルースの腕を両手で引っ張って起こした。
茶々丸がテケテケ走り寄ってきた。「うまくいったね。コトコ」
でも、あたしを元気づけるために、負けてくれたのかもしれないなとも思った。
「そろそろ時間だな、準備をしてエレベータルームへ向かおう!」
「うん!」とあたしは頭を縦に振った。
エレベータールームには観測者、ジャック、それと正規部隊の作業員が勢ぞろいしていた。
「来たね二人とも、準備はいいかな!」茶々丸はリュックの入り口から、ヒョイと出てきて肩の辺りで、あたしと目が合うと再びリュックに潜り込んだ。
「はい大丈夫です」正規部隊のメンバーがエレベーターの扉を開けてくれた。
「情報の伝達は手はず通りに、連絡には通信は使用せず、メカを使用して行うように! 無線での情報伝達は傍受される可能性が高いし、目をつけられたら何かと面倒なのでよろしくね。この作戦は簡単な目標ではないので、長い年月かかると考えている。焦る事はないのでじっくり取り組んでほしい、問題が発生したり、こちらに帰還する必要が出てきたときにはすぐ対応するので連絡して。では幸運を!」
あたしたちはエレベーターに乗り込んだ。
「それでは行ってきます!」
扉が徐々にしまっていき、みんなの姿がどんどん見えなくなり、シュッと音がし閉じられた。一瞬の間のあと、ガクンとエレベーターが動き出した。ヒューンという音と共にどんどん下がって行く。あたしの耳がキーンとなって痛くなった。
「いてててて、完全に人間だねこれは」
ブルースが声をかけてきた。
「大丈夫かい、コトコ。ヘルメットをつけたほうがいいんじゃないか?」
「エレベーターが下に着くまでは大丈夫だと思ってたんだけどなぁ」
「かぶっておくといい」
「ありがとうそうするよ」あたしは酸素供給と気圧調節機能が付いたヘルメットを装着した。
「あと数分で最深部に到着だな」
しばらくすると、エレベーターががくんと揺れて止まった。そして扉が開いた。エレベーターの明かりで、通路が少し照らされていた。しかし、その先は真っ暗闇だった。
「うへぇー、ココを進んでいくのか」
「おいおい、ココはまだ入り口だぞ、コトコ!」
「わかってるって。それはそうと、話にあった乗り物は?」
「これみたいだな」
「バイク? なっ、なんで? しかもレトロ感たっぷり、1960年代かぁぁあい!」あたしは叫んだ。
「まあ、ジャックの趣味だろ。さあ、乗った乗った」七つの傷のひとみたいなブルースがまたがると、似合いすぎて笑えてきた。
「なに、笑ってるんだ? 早く後ろに乗ってくれ」そういって後部座席をポンポンと叩いて見せた。バイクへ近づくと遠目で見てたより大きく、シートの位置も高かった。
「デカイ! 高い!」
どうやって乗ろうかと思案していると、ブルースがあたしをヒョイっと抱え上げて乗せてくれた。
「ごめん、ありがとう」
「じゃあ走るぞ! しっかりつかまってろ」あたしが返事をする間もなくバイクは走りだした。
「はっ! はぁぁぁいいい!」と妙な返事になってしまった。バイクのタイヤが、ギャギャギャと音をたてて走り出した。あたしは大声で話しかけた。
「時速100キロはださないとね! それでも、約5時間はかかるね!」
「そうだな!」ブルースも大声で答えた! キュッとタイヤが音をたてて、また、少し加速した。あたしは大きなブルースの後ろで先が見えなかった。体をグイっと横へ傾けて前を見た。ヘッドライトが通路の先を照らしていたが近くしか見えない。
「ヘッドライトだけだとあまり先が見えなくて不安だね!」あたしは怖くなって大声で話しかけた。
「大丈夫だ俺はもっと先まで見えている。心配するな。人間の体だと見えないんだな」
「そうなんだよ、不便だよね」
「コトコ本体のカメラを使えば、暗闇でもばっちり見えるはずだ!」ちょっと試してみた。
「だめ、これちょっと気持ち悪い!」
「ハハハ、肉体の方の視界を切断しないと、変な映像になるかもな!」
「しかも、ブルースの背中に遮られて何も見えないよ!」ブルースはハハハっと笑った。その後は坦々とバイクは先を目指し進んだ。




