其の四 浪士、遊戯
「おじちゃん、おじちゃん」
八木家の娘、たえが話しかけてきた。
「たえ殿。芹沢先生ですよ」
「よいよい。たえ、どうした?」
たえが顔いっぱいに笑った。
「また、絵描いて」
「いいぞ」
初めてたえがここへ来たとき、物珍しそうな目で俺たちを見ていた。平間が声をかけると、驚いて戻って行った。
だが、その次の日。紙や筆など持って来て、遊ぼと言ってきた。
それから時々、こうして遊びに来るようになった。
子供と遊んでいる時は、病の恐怖も、新選組でいる退屈さえも、全て忘れられる。
……こんな時が、いつまでも続けばいいなぁ。
「たえ、出来たぞ」
たえはその絵を見て、驚いている。
「これ、たえ?」
「そうだ」
「わあ! ありがとう!」
たえは部屋を出るなり、見て見て! と大声をあげて走っていった。
俺たちは人数が増えて、組織を作れるようになった。その組織、新選組の一番上、筆頭局長に俺が居る。初めて聞いた時は驚いたが、異議はなかった。新見も局長、副長助勤に平山と平間が就いた。
「芹沢先生」
新見がきた。
「また菱屋の番頭か?」
「いえ、それが……美人のおなごでして……」
「何?」
「えっ、あっ、いえっ、一応、連れて参りました」
縁側の障子を開けると、女が一人立っていた。
「誰だ」
「菱屋のお梅どす」
確かに美人だが……。
「もう少し後にしてくれ」
「そないなこと言われてもなぁ。わてらも困っとります」
……こいつは俺が怖くないのか?
「芹沢はんが何考えとるか、わてには分かりまへんが、物を貰うならそれなりの物払うてくれまへんと、こっちも困りますぅ」
「分かった分かった! この次までに、なんとか致す」
意外な答えにお梅は驚いたような、嬉しいような顔をした。
「ほんまどすか!? おおきに」
お梅は大人しく帰って行った。
「芹沢先生。大丈夫なんですか?」
「ん? ひと月くらい来ないだろ」
俺は気楽に構えていた。
だが、あろうことか、その次の日にお梅は来た。
「……」
「……」
「用意してはりますよな?」
まさかの事態に、俺も平間も声が出ない。
「どないしました?」
「さすがに一日では、用意出来ぬ」
「昨日と言うてることが違いますぅ」
散々口論になったが、なんとかお梅を追い返した。
「あのお梅というおなご、なかなかの人ですね」
「俺もそう思う」
意外な人間の登場に、俺は、呆気にとられた。