其の二 浪士、業火
文久三年二月五日。
そこには大勢の男が集まっていた。数は二百ほどだという。
「芹沢先生、署名して来ました」
「ご苦労」
冬と言えども熱気がすごく、暑苦しい。俺は鉄扇で顔を仰ぐ。
「諸君!」
声のする方を見ると、浪士取扱役の鵜殿が立っていた。
「一組三十名ほどで七組作った。各組に三人の小頭を置き、残りの者は並隊士とする」
三番隊の小頭に俺と新見。平山と平間は六番隊の並隊士。そこには天然理心流の近藤勇、土方歳三、沖田総司なども居た。
そんな感じで隊の編成発表、道中の諸注意が終わった。
「では、弁当を肴に一杯やって下され」
酒や弁当が運ばれてくると、平山と平間が戻ってきた。
「芹沢先生、お酌しますよ」
「おう! おめぇらも呑め呑め」
がははははと豪快に笑い、大声で話した。酒もあるだけ呑んだ。
……また痛み始めた。
赤い点々は出ないようになったが、体中が痛む。どんなに酒を呑んでも、豪快に笑ったり大声で話していても、痛みが紛れない。
「芹沢先生? 大丈夫ですか?」
新見の一言で平間も平山も静かになった。
「痛みますか?」
三人の心配を振り払うように、歯を見せて笑い大声で言った。
「俺を誰だと思ってる!? 芹沢鴨だぞ! こんなとこで死んでたまるか!? 酒を注げ!」
その言葉に三人が反応し、同時に三人で杯に酒を注ぎ、酒が溢れ出した。三人は驚き互いの顔を見合わせ、笑った。
俺もつられるように、大声で笑った。
二月八日。
浪士組は江戸を出て、京へ向かった。
二月十日。
「ふざけるなぁ! 貴様、俺を侮辱しているのか!?」
「いえ、決してそのようなことは……」
「では何故、我らの宿がないのだ!?」
宿割りの近藤が、俺たちの宿をとっていないだと?
……ふざけるな!
「すぐに手配致します故、お待ち下さい」
「よいよい。野宿をしろと近藤先生がおっしゃっているのならば、我らは野宿致す。しかしこの寒さのうえ、暖をとらせて頂く!」
俺は新見たちに薪を持ってこさせ、火をつけさせた。
消すように頼む近藤を差し置き暖にあたる。
……暖かい。
寒さのせいか今日は朝から節々が痛み、今夜は早めに床につこうと思っていた。だが宿がないため、床につくことすら出来ない。
「近藤さん!」
土方や沖田たちが騒ぎを聞き、駆けつけてきた。刀の柄に手を掛けている。
「みんな、止せ!」
「貴様ら何をしている!」
声の主は鵜殿であった。
「こんな所で問題を起こすような者は、江戸に帰れ!」
「!」
俺は急いで火を消すように指示した。