其の一 浪士、募る
尊皇攘夷は衰えが見えてきた幕府を討ち、天皇を敬い、外敵を排除しようとする思想である。この俺、下村嗣司も尊皇攘夷派の一人。
しかし俺は、水戸藩の出。幕府と結びつきが強い水戸藩士だが、幕府の手先になんぞなりたくない。俺は尊皇攘夷の思想を強く持った。
そのために今は牢獄の中だ。処刑する人数が多くてなかなか順番が回って来ない。
……ここに入ってから、どのくらい過ぎたかな。
ふと、腕を見た。梅毒の症状である赤い点々がたくさん浮いている。それと同時に、体のあちこちも痛みだす。
「うぅ……」
酒さえあれば、こんな痛み……。
くそっ……!!
「俺を殺せぇ! 殺しやがれぇっ!」
自棄になり怒鳴り、叫ぶ。しかし、殺してくれる者も居らず……。
「ぐっ……」
痛い……。
……俺はもう時期、死ぬんだな。
筆はなく、小指を噛みきる。その鮮血で辞世の句なるものを歌った。
雪霜に 色よく花の 魁けて 散りても後に 匂ふ梅が香
……我ながらいい歌じゃねぇか。
笑みがこぼれる。
「井伊が斬られたらしいぞ!」
獄中の者がそう言っているのを耳にした。
……井伊直弼が殺されただと!?
それが真実かどうかは俺には分からない。だが、その噂を聞いてからか聞く前からか……最近、外が騒がしい。
そんな風にのん気に構えていた数日後。
牢獄に居た者たちが全て、外に出された。
……俺は、どこに行けばいい?
「芹沢先生」
平間重助が俺に話しかけてきた。
俺は牢から出たのを機に、名前を芹沢鴨に変えた。
ちなみに、平間重助は我が下村家の家臣である。
「ん?」
「将軍 徳川家茂様が上洛されるそうです。しかしながら京では、不逞浪士たちが横領や強請りをし、非常に治安が乱れております。その警護をするために、浪士組というものを結成するために、隊士を募っていることを耳にしました」
「将軍の警護だと?」
「はい。あと、京の不逞浪士を取り締まる任もあるらしいです」
……刀が振れるのか。
牢から出て何日、何ヶ月と経っていたが、俺たちは何もすることがなく過ごしていた。
「面白そうじゃねぇか! 平間、俺は浪士組に入る!」
「先生にお供致します」
俺は同じ神道無念流の新見錦と平山五郎も同行させることにした。