よっしゃぁぁぁぁぁあ!!…と叫んだ公爵令嬢。
この国に住む私には好きな人がいる。でも結婚は出来ないと知ったのは物心のついてすぐのこと。
公爵令嬢という身分で生まれたからだ。
欲しがれば大体のものは手に入るのに…本当に欲しいものは、手に入らない。
「お前、綺麗だな。」
祖父に連れ街に降りた時、彼を偶然見つけた。狭い路地でボロボロになってる彼を私は綺麗だと思った。欲しいと思った。
祖父の計らいで彼を従者にすることが出来た。いつも私のそばにつかせたし、私の為に様々な知識、技術を身につけさせた。
「お前はずっと私のそばに居るんだぞ。」
私が彼だけに言う口癖…事ある毎に彼に言う。彼は微笑み"もちろん貴方と共にいます、永遠に。"と返す…毎回のやり取りに満足が出来なくなったのは婚約者が出来てからだ。
そして彼の様子も少し変わった。
「カオル様、私を決して手放さないでくださいね。」
「またその話をするのか、セト。手放すわけがない、お前は私のモノだ。」
「今回も同じ言葉を返して下さり安心しました。えぇ、私は貴女のモノです。」
私への執着が目に見えるようになった。それが嬉しくて嬉しくて……その事だけは婚約者に感謝した。
私の婚約者ロミオはこの国の王子。悪い奴では無いが少々ワガママで人の話を聞かない。努力家で様々な知識、技術を身につけている。見た目もザ・王子という感じで美麗……良物件ではある。
「私というモノがありながら…またあの野郎とデートですか。」
「こら、口が汚いぞ。あれはこの国の王子で将来の王だぞ?」
「…またデートですか。」
「拗ねた顔をするなよ、仕方ないだろう??ロミオと私は婚約者同士だ仲良くしないとな。」
ロミオの事を好きになる事は何年経ってもなかった。だが関係は良好…友達としてな。正直に言うとお互いに恋愛感情がない。
周りからはいつもそばにいてお似合いだ、とか色々言われるが……意外とくだらない話をしていたりする。
私には彼がいた、王子ロミオと出会う前から従者セトが、いた。
「カオル、お前は昔から何を考えているのかわからないな」
「あら、ロミオ様酷いことを言いますね。長い付き合いですのに」
「本当の事だからな。お前が笑うところ見たことない気がする。」
「私の笑顔が見たいんですか?はい、笑顔です。」
「うぇっ…作り笑いが丸分かりだもっと上手くしろ!」
周りが騒いでる間に実はこんな会話をしている。王子とその婚約者の会話がこれだ、色気もいの字もないな。
私にとってロミオは特別な存在の1人だ、私は私なりにロミオに愛着を感じている。幸せになって欲しい、心から願った。
婚約者だからと私を気にかけるロミオに罪悪感を感じることもあった、こんなにも素敵なのに私の心はロミオに向くことは無い、結婚したとしても絶対にないことだ。
そして私は王妃には向かない。愛想が無さすぎる。
「お前は王妃になるんだからもっと愛想をもて、笑え。」
「こうですか?」
「笑顔下手くそかっ!こうだ、笑顔はこういうものだ!」
「…他の令嬢が見たら失神する程の素敵な微笑みです」
「だろう?…民が失神するような美しい微笑みを練習しておけ!」
優秀で美しいが愛想がないのが欠点。言われ続けてきたがそれを治すつもりはなかった…本来の私は無愛想でもないお転婆で口の悪い小娘だ、そんな姿を晒して失望させるよりマシだろう??
セトといる時間が減り、ロミオといる時間が増えた……ロミオとは相も変わらずお友達。セトとは……最近は危うい雰囲気になる。
「イライラします。あの野郎、カオル様にベタベタと。」
「だから口が悪いぞ。あと…近い」
「嫌なのですか??あの野郎は良くて、私が近くにいるのは。」
「そんな事は言っていないだろ。意地の悪い事を言うなよ…最近は、よく触れてくれるな」
「…無礼をお許しください。ですが貴女様との時間が減り、触れたいという欲求が溢れてしまうのです。」
甘い言葉を囁き、指先や足先に口付けをする……恥ずかしいが嬉しくもある。
セトはそれ以上触れては来ない、私達の関係は主従……この関係でこれ以上を望むのはいけないことだ。
私もセトもそれは理解していた。
でも……焦りが出てきた。あと数年でロミオと私は結婚するからだ。
そんな時だ、彼女が現れたのは。
「ジュリエット・ダントン嬢…平民も同然の男爵…優れた頭脳の持ち主で特別入学した…と」
「可愛らしい方ですよね、あちらの方でしょう?」
「あぁ…そうだな、可愛らしい……」
私は人が恋に落ちる瞬間を目にした。その相手が婚約者のロミオというのは、なかなかおかしな話だ。
セトと出会った時の私もこんな顔をしていたのだろうか…人は恋に落ちるとこんな顔をするのか……今まで見た顔で1番魅力的だと思った。
そして……チャンスだとも思った。
「ロミオ様、彼女は最近入学したので不慣れなことがあると思うんです、気にかけてあげては?」
「は?珍しい事を言うな、お前が他人のことを気にするなんて」
「だって、心細いとは思いませんか?特別入学、だなんて。しかもあの容姿です。先輩として、ね」
「……そうだな、未来の民だ親しみを持ってもらうのも王に必要なことだしな!」
単純なその性格、将来足をすくわれないようにな…と心の底から心配したよ。
私の一言でロミオはジュリエットに近付き親しい関係になった。
それをよく思わないものが現れるのは分かっていた、平民も同然の男爵令嬢と国の王子が親しくしているのだから……だから私は何もしなかった。ジュリエットがいじめられていることを知っていた、何もしなかった。
ロミオといる時間が減りセトといる時間がまた増えた、嬉しくもあるが最近ロミオの態度が悪くなっている事もありセトの機嫌は悪い。
「あの野郎…カオル様の蔑ろにしやがって…」
「まてまて本当に口が汚い。」
「ぶっ殺してしまいたい……」
「セト!…私といる時に他の人のことを考えているのは面白くないぞ」
「!…申し訳ございません。カオル様のそばにいれる時間が増えたのに私としたことが……」
「その事はロミオに感謝するんだぞ?青春を楽しんでいるよ、あいつ」
「…だからと言って、カオル様を放置し過ぎでは?一応婚約者という関係であるのに」
殺意しかない……などとブツブツいうセトが少し怖い。最近物騒な気がするぞ…??だが、それを嬉しく思う私がいる。
ロミオとジュリエットの関係は傍から見ると恋仲だ、そりゃあもうラブラブの。あんなに堂々として見ているこっちが恥ずかしい。
が、羨ましいと思うこともある、好きな人と堂々とイチャイチャしたいラブな雰囲気出したい。
だから待ってるよ"婚約破棄"をしてくれるのを。そしたら、思いっきり喜んで叫んでやるよ。
「よっしゃぁぁぁぁぁあ!!」
最高の気分だ!!ありがとうロミオ!ありがとうジュリエット!ありがとう取り巻き達!
コウ、お前もジュリエットの事好きだったんだなお姉ちゃん知らなかった!私はロミジュリを応援するつもりだから他に可愛い子探せ!
あぁ、生きてて1番嬉しい瞬間だったよ、婚約を破棄された哀れな令嬢!自由に生きる事にするよ!
ロミオ、私は何も言わずにいくがお前の幸せを願っているよ、1番の友達だからな。
ジュリエット、君は良い王妃になるよ私が残したものを参考にしてくれ!
コウ、家の事よろしく!
「ずっと一緒にいてくれよ?出会った瞬間からお前は私のモノだからな」
「はい。未来永劫貴女様のお傍に。」
自分達がこの世で1番の幸せ者だと錯覚してしまう。だって好きな人と一緒に入れるんだぞ??これからずっと!嬉しい!
祖父の計らいで国を出て他国で冒険者を始めた。その為に剣術などにも力を入れてきたからな!隣にはセトがいる、主従の関係ではなく恋人として!
みんなからどんな風に思われてたのか知ってる、寡黙で無愛想な令嬢だろう?でもそんなの性にあわない、私は好きな人と結ばれるために婚約破棄を望んだお転婆娘!
落ち着いた頃に帰国するのもいいかもしれないな、きっとロミジュリは良い王、良い王妃になっているだろうし…もしかしたら私とセトの関係も進んでいるかもしれないな……未来の事を考えるのは楽しいな!…私の話はこのくらいにしておくか。
カオル・キキョウ・ラヴハタール
とある国の公爵令嬢。
幼少期祖父に連れられお忍びで街へ降りた時にセトと出会い一目惚れした。
素がお転婆で口が悪いのは小さい時から。
ハイスペックだが恋愛初心者。
セト・ワムール
カオルに拾われた過去を持ち、彼女に一目惚れをしてる。
カオルの結婚が近づくにつれて焦り、王子ロミオを本当に暗殺しようか悩んでた。
カオルとともに育ったのでハイスペックだが恋愛初心者。