表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

1_0_030 【西衣山愛生の場合】

「クソ……」


 カタカタと暗い部屋で鳴り響くキーボード。

 毛布にくるまってPCに対峙する愛生の耳にはそれしか聞こえない……はずだった。

 コンコン、と木を軽く叩く音。

 薄暗い部屋ではそれもこもって聞こえるような気がした愛生だったが、むしろそれが愛生の神経をとがらせる。


「…………」

「ご飯、置いておくよ?」


 優しい声だ。

 だが、その優しさが、実に愛生には不快だった。

 引きこもりの自分など、放っておけばいい。

 非情に怒鳴り散らしてくれたっていい。


「…………チッ」

「愛生……?」


 だから、その声を止めろ! と叫べればどれだけ爽快なことだろう。

 だが、自分にその度胸は無かったし、何より、ここ三日声らしい声を出してない。

 だんだんと惨めな気持ちが愛生の中に広がっていく。

 私は何をしているのだろうという疑問だけがグルグルと視界の奥の方で渦巻いていく。


「ああああああ!」


 バンッ、と感情が高ぶるままに机を叩く。

 そのまま、毛布を頬り捨てようとしたが、刹那、片付けのことが頭をよぎり、ベッドに優しく投げた。

 そして、少し弱まった勢いのまま、部屋のドアを開けた。


「……愛生ちゃん?」


 母のいつも優し気な瞳が困惑の色に染まっているが分かる。

 それはそれなりに愉快なことでそれに味を占めた愛生は家の中を走り始めた。

 運動不足がたたって階段でよろめいても、雑に括った髪が暴れても、気にしない。

 むしろ、ここでよろめいた方がリアルだとも思った。

 動画枚数24枚、フル動画の神作画だ。


「ふぅふぅ……!」


 愛生には二つの特技があって、それは手を使わずに靴下を脱ぐことと手を使わずに靴を履くことだった。

 その特技を使って勢いを殺さず、家の外に飛び出す。

 ここからは2コマ打ち。後ろに重心を乗っけたまま足が体を乗せて走り出すのだ。


「はあ、はあ……っ」


 しかし、運動不足の引きこもりにそんな走りをいつまでもできるわけがない。

 口元が苦痛に歪み、肩は大きく上下する。

 いつの間にか、足は止まってしまった。

 家からそう遠くまで来られたわけでも無いのに私は一体何をしているのだろうかという疑問を抱かざるを得なかったが、それ以上に体が辛い。


「ふぅー……はぁぁ……」


 深くなる息のまま、顔を上げる。

 ぼんやりとする視界に徐々に見えてきたのは緩やかに流れる小川……家の傍を流れる天狗川だ。

 その水面の反射は60FPSで安定していて波打ち際のパーティクルもとても綺麗だった。


「あ……?」


 しかし、見えてきたのはそれだけではない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ