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1_0_010 【古町由夏の場合】

「嘘つき!」


 由夏はオイルの匂いが染みついた自動車整備工場を飛び出した。

 ボンネットを開けたままの悲し気な乗用車の傍を全力で駆け出す。

 コンクリート打ちっぱなしの工場の中ではローファーの音が良く響く。


「……っ!」


 彼女のバレッタで止めただけの長い髪が彼女の激しい感情とは裏腹にぴょこぴょこと軽快に跳ねる。

 工場から一歩踏み出せば、オイルの匂いは薄れ、実に春らしい夕日の日差しと共に軽い草木の匂いが流れ込んできた。

 由夏はそれが嫌だった。本当はあのオイルの匂いに包まれていたかった。

 それでも、彼女は駆けた。そうする他ない若者の弱さである。


「父さんの、馬鹿……」


 行くあてなど考えない由夏の脳裏につい先ほどの父の顔がフラッシュバックする。

 泣き出しそうなのは由夏か、父か。

 彼女は走った。


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