0002
「だーから全く約一年ぶりっていうのに……」
「一年? 何っているのよ! 糞虫! 脳に虫でも沸いたの昨日もあったじゃない!」
「どうしたの萌ちゃん? 僕のダーリンと何かあったのかな?」
「ゲロ! 糞虫がさっきから私たちに久しぶりに会ったとかいうのよ!」
「どう……ゆう……こと……です……轟君?」
「何でもねーよ! それよりくっつくな熱いだろ!」
俺に抱き付いた3人を振り払おうとするが、どうせ効力はないので、怪我でもしないようやや力を籠めるイメージ。
「だーめ! 君は僕のダーリン君なんだから!」
「そう……です……駄目……です!」
「私は違うけど糞虫の監視役だからね! 近くで見張ってないと駄目なのよ!」
なんだそりゃいつも思うが、提灯が俺が嫌いなのか好きなのかよくわからん。
いつもくっついてくるから後者に分類しているが。
残り2人は言わずもがなッてやつだ。
「よう空! 相変わらずハレームってるな! 感心感心!」
「何が感心なんだよ。斎藤」
と今時男子って感じの斎藤に声をかけられた。
学校にたまにいる隙あらば茶髪にしようとするが、教師やら校則やらで度胸がなくて、結局できない斎藤という男はそういう男だ。
「何ってお前らのイチャコラっぷりは学校名物だろ! 血の涙を流しかなない程にな!」
「なんで苦虫を噛み潰したみたいなしかめっ面なんだよ!」
何故か顔をわざとらしく顰める斎藤。
「そりゃ仕方ないじゃないか! 毒舌女神提灯さん! お前以外の男に全くデレないクルービューティーティ黒木さん! 背は小さいながらスタイル抜群! 前髪のしたの素顔は、美少女と噂される癒しの天上院さん! その3人の超美少女といつもべったりって羨ましすぎるぜ!」
「あーでも俺たちはそういう仲じゃないから」
あれなんか空気が変わった気がする。
何かしゅんと落ち込むような空気だ。
勇者として鍛えたせいで感覚が研ぎ澄まされているから、勘違いではないだろう。
「なにそれまるで機械探偵プリプリベルみたいなこと言って」
「斬新なネタ振りだなおい……ちなみにどんな内容だ。まぁ当然探偵ものなのはわかっているが……」
唐突に提灯がネタをぶち込んできた。
すると場の空気が少し明るめに変わった気がする、これはなんなんだ一体?
しかし、今は提灯のネタに突っ込む必要が、こいつほっとくとネタを相手にされるまで続けるからな。
「何言ってるの糞虫! 探偵ものじゃないわよ?」
「はぁ?」じゃあなんで機械探偵なんだよ。
「仕方ないわね教えてあげる! これはガチムチの男たちの戦いなのよ! 事の始まりは土木作業中に発見された杖、別名ガチムチステッキこの杖は持っているだけで、誰しもが筋肉ムキムキになれるアイテムなの!
」
「なるほど魔法少女の男版かたまに聞く奴だな」
「何言ってるの? この作品は基本的にアクションシーンなしよ」
「はぁ?」じゃあ戦いって下りなんだよ……どんな内容なんだよ……予想外過ぎるネタに思わず出た、さっきより招けな声が妙に気に障る、自分の声なのに。
「これはふらりと現れたガチムチステッキが、全く使われることなく物語が進行して、いつ使われるか期待感を煽りに煽って、ついに使わないで一話が終わるそんな作品よ!」
「なんだよそれ探偵一ミリの関係ないし! ガチムチの男たちの戦いどこいった!」
「知らないわよキャッチコピーなんだから! だからわたしファンは待っているのよ! 今三期が終わろうとしている中、いつ初めてガチムチステッキが使われるかを刮目しているの!」
「どんだけ引き伸ばしてんだよ! 製作者大丈夫か!」
「大丈夫よ! 映画だって二作作られているし! ただ、その特典の赤ら顔おっさんのビニール人形は意味不明だけどね」
「マジで何考えてんだよ! そして誰だよそのおっさん!」
「なにってOP曲がかかる時、必ず登場する赤ら顔のおっさんよ! 作中に一切登場しないのに、OPで意味深な行動をとり続ける作中のキーパーソンよ多分!」
「結局分からないだけだろ! どんなアニメだ! 批判されるぞ!」
「それも初っ端から覚悟の上よ! だって作品のテーマが【大炎上】だもの! まさにその通りになったわね!」
「確実に確信犯じゃねーか! 少しは自重しろ!」
「別にいいのよ! 私たちファンは面白ければ!」
「だからってな……つーかさっきの俺のセリフとこれは一体何の関係があったんだよ!」
「そんな物ないわよ! ゲロ!」
相変わらず無茶苦茶だな。
ネタを言いたいだけでぶち込んでくるとは。
凄い久しぶりだが疲れるなこれ。
これを一年前は連日していたか思うと、自分をほめてやりたい。
「自由すぎんだろ! それに付き合う俺の身にもなれ!」
「ダーリン萌ちゃん遅れちゃうよ!」
「そうです……時間……的に……です!」
「ホントだやべぇいつの間にか斎藤の野郎の姿もねぇし急ぐか」




