0010
「またこれか」
「ゲロそうよ! 当たり前だのクラッカーよ!」
と聞いた事があるがよくわからないギャグをいいつつ。俺の右腕を抱え体を密着ささせる提灯。
「古いわ! よく知らねーけど」
「萌ちゃんの言う通りさ! 本当は僕が上になりたかったけど負けちゃたからしかたない」
もう片方の左腕には黒木、強めに俺の腕をつかむ。
「えへへ……へへ……勝者……の……特権……です」
『やっぱり轟の上に乗るなら上にだな心臓の鼓動が心地いいぜ!』
そして天上院の奴がうつぶせで俺の上に乗っている。
俺たちは一つのベットでそうなっていた。
これも慣れたもんで。ずいぶん昔から俺の家に泊まると、こいつらはこのありさま。
熱い熱帯夜の夏でも、雪の降る冬でも関係なし,
そのため程よい温度の空調は必須だ。
普段空調は使わない派だ、がこいつらが来るときはいつもつけている。
風邪でも引かないようにな。
紳士のたしなみってやつだ。
『むふふふふ、轟くん腕暖かい! 幸せ』
『ダーリンの体温暖かい。でも冷たくなっても腐っても僕は君を愛せるのさ! 愛の力は偉大だね』
『何時お前とベタベタしてもドキドキしやがる! 流石は俺の嫁だ!』
可愛らしい心の声を上げる提灯。
と初々しい天上院。
相変わらず心の声に黒木に闇が垣間見られるが、黒木が俺を傷つけるとは思えないので、スルー愛が深いと思う事にした。
「じゃあ寝るか」
『『『今日こそ既成事実!』』』
全く、いつもそんなこと考えてんのか最後の魔力を使うか。
『『『今日こそ既成事実が作れると思ったのに!』』』という感じに悲痛な心の声を聴いてよし寝たな俺も寝よう。
いつ嗅いでも女の子の匂いってのは甘くていい香りだな。
なんだか母さんの膝枕で微睡んでいた子供時代を彷彿としてとても落ち着く。
そんな鼻孔をくすぐる芳香が俺をゆっくり眠りの闇に俺の意識を引っ張って落ちていく。
いい夢が見られればいいのだが。
◇
「さーてイチャコラしちゃいうぞ! ダーリン!」
「黑木どうした急に」
今俺たちは学校。あれから着替えて朝食を取って学校に向かったわけだが。教室に到着した途端、黒木がそんなことを言い出した。
「僕は今、ダーリンエキスが足りないのさ! 直接口から飲ませてくれたまえ! むーーー!」
「何でキスしようとしくるんだよ」
黒木が唇を尖らせ俺にキスを強請る。
「好きな人とのキッスのスキンシップの王様なのさ!」
『あうううう、轟君の唇可愛い、切り取っていつまでも眺めたい』
「面白……そうな……事……になって……ますね!」
と天上院が現れた提灯とトイレにいっていたが戻ってきたようだ。
あっこの後の展開が読めた。
『俺も入れろ! 光! 俺の轟とベロチューしたいぜ!』
「なんでお前も参加するんだよ!」
分かっていてもツッコまざる負えない俺も重症だな。
まぁそうでもしないとぐいぐいくるこいつらから、貞操は守れないけど。
「それは……轟君……の……唇が……そこに……ある……から……です!」
「登山みたいなこと言っても説得力はないからな!」
「ゲロ! 何しているの糞虫!」
「いい所に萌ちゃん! 今からだダーリンとキスするのさ! もちろん君も参加するだろ?」
「ゲロ!?」
『そんないきなり言われても……当然参加する!』
やっぱりか。わかってたけどさ。
「ふふふふ! 覚悟するんだよダーリン! 今度は逃がさないから!」
「そう……です……逃がし……ません!」
「ゲロ!」
『むふふふ光ちゃんと果実ちゃんの言う通りだよ!』
「ちょっと待ってって」
「待たないよダーリン! ダーリンと初めてキスするは僕さ!」
「いえ……私……です」
「ゲロ! ゲロ!」
『私がいいな、ダメかな轟君?』
「ダーもうやめろって」
唇を尖らせキスを要求する3人を無理やり引きはがす。
つーか凄いクラスメイトに見られてるから。
流石にこんな公衆の面前でキスをする度胸は俺にはない。
「僕が嫌いなの轟君?」
『僕は大好きだよ! 文字通り轟君の血液の一滴から、骨の一本に至るまでじっくり味わいたいぐらい』
「私……に……何か……不満……でも……あるの……ですか?」
『何が不満だ! キスぐれいで! もっと過激な事をお前は俺たちとするのは決まってんだぜ! やはり家の若いもんに用意してもらった薬でも、盛っとくか! 昨日作れなかった既成事実ってやつだ!』
「ゲロ!!」
『むうう、私だって轟君とキスしたいの!』
「グロロロロロロォオオオオッ!!」
俺が3人の熱い好意をどうした物かと思案していた時だった。
例えるなら大型の獣、いや映画の恐竜の鳴き声のようなものが響いた。
全ての視線は声の方向へ、その流れは教室の人々の体にも伝播して、窓際に人が集まった
。
「なんだ校庭になんかいるぞ」
「映画の撮影?」
「それにしてはリアルだな」
「恐竜? 作り物だよねやっぱり?」
「まさか、この鳴き声……悪い行ってくる」
俺はその鳴き声を聞いて姿も見ずに走り出した。
この鳴き声は魔獣の鳴き声によく似ていた。
むしろ先日のライオスの話を聞いて、特撮などと考えるほど俺はお気楽な頭をしてはいない。
これは確実に魔族が絡んでいる。
まさか魔獣を連れ込むとはどうやって、あんな目立つ大食漢をこっちに……魔獣とは魔族の使役する魔術で歪めた巨大な獣。
石から植物、金属までなんでも食べる雑食性だが好物は生きた人間、放置すればここは地獄へ変わる。
それにしても何で魔族は魔王なんてあんな野郎を復活させようとするんだ。
どうせ復活させても食われるだけだろうに。
魔王は魔族の頂点であり支配者であり始祖、魔王にとって魔族とは奴隷であり、体力と魔力を回復させる食料でしかない。
魔王からすれば魔族とはただ使いただ喰らうだけの存在なのだ。
伝承によれば、そのような魔王の性質に危機感を覚えた太古の魔族たちが、当時の人間と結託して罠にはめ封印したらしい。
その封印が永い時をへて効果が切れたことで、人間と魔族は戦う事になったのだ。
それを俺たちが倒したわけだが。
「ちょっと糞虫!」
「ダーリンどこいくの?」
「轟君……どこ……に」
「悪い行って来る! お前らはここで待ってろ危険だからな!」