幻のキノコ探し?!
「ありまさん寒いです」
「日向見ろー、あんな所に家があるぞ」
「そこ崖ですよ、正気に戻ってください」
僕達は山で絶賛遭難中なのである。何故こうなったと言うと………
「日向ー、いい依頼が来たぞ。山でキノコを取ってきて欲しいだって」
「もうそれ探偵の仕事じゃないですよね、なんでそんな仕事引き受けたんですか?」
「そこに依頼があったからに決まっているだろう」
ありまは親指を立てて登山家の如く言った。しかし日向はめんどくさいのでそれを無視した。
「無視か日向! 構ってくれないと寂しくて死んじゃうんだぞ、いいのか?」
「ありまさんは丈夫ですからそんな簡単に死にませんよ」
日向は適当に流し書類の整理を始めた。だがありまも諦めない。
「グッ、構ってくれなかったから寂死しそう」
「はいはい、そんな訳ないだろ」
日向が折れ、適当にツッコんだ適当ながらもツッコミを入れてもらえありまは喜んだ。
「よし! それじゃあ本題に戻ろう」
「本当に山に行くんですね」
「当たり前だ。言っておくけど山に行くの明日な、山は寒いらしいからちゃんと防寒具を持ってくるように、それとバナナはおやつには入らないからな」
「明日ですか……行ってらっしゃい」
その言葉を聞いたありまは引いたという感じに日向に視線を向ける。
「お前の心は山よりも冷たいぞ!」
「そうですか、行ってらっしゃい」
日向は笑顔で返した。
「マジなのか、マジで言ってるのか日向よ」
「じょ、冗談ですよやだな〜」
「そうなのか」
ありまの顔が晴れた。日向は「やれやれ」といった感じだった。
「そうと決まれば準備だ準備、日向もちゃんと荷物準備しておけよ」
「分かりました…」
そして次の日になった。
「はいじゃあ日向、荷物を車に積んで」
「ありまさんこれは持っていきますか?」
日向が持っていたのは『シークレット』とシールが貼られたカバンだった。
「持っていくぞ、でも絶対に中は見るなよ」
「そんなことしませんよ」
荷物を一通り車に積み終わり、事務所の戸締りをしているときだった。
ありまがものすごい勢いで事務所の中に入ってきた。
「ど、どうしたんですか? 」
「悪魔が外に」
日向がドアを開けて外を見てみると居たのは香苗さんだった。
「どうしたんですか? 香苗さん」
「樋山が依頼で山に行くと聞いたのでなこれを持っていけ」
「ありがとうございます」
渡されたものを見ると非常食だった。
「ありまさん香苗さんいい人じゃないですか悪魔なんて」
「そんなことより出発しようぜ」
ありまは何事も無かったかのように言った。そして車に乗り約3時間たち山についた。
「でどんなキノコ探すんですか?」
「特別な条件が揃うと光る月光茸だ!」
日向は何処と無く違和感を感じたが気にしない事にした。
「キノコは山奥にあるらしいからドンドン先進むぞ」
「ありまさん足元には気をつけてくださいね」
「そんなヘマするわけないだろ。って、え?」
簡単に言うとありまさんは落ちた。幸いあまり高くないところから落ちたので怪我はないようだ。
「ありまさんこっちに戻ってこれそうですか?」
「何とか行けそうだ」
と言いありまさんは登ってきた。案外簡単に登ってきたのでびっくりした。
「よーし気持ち切り替えて進むぞー、日向足元には気をつけるんだぞ」
「分かってますよ」
そのあと何回かありまさんが落ちたがその度登ってあっという間に山奥に着いた。
「月光茸どこだ」
「月光茸はどんな特徴なんですか?」
「光る」
「それは知ってますよ、もしかしてありまさん知らないってことは無いですよね?」
ありまは日向と目を合わせない、どうやら月光茸のことを知らないようだ。
「よし、諦めて帰るか」
「依頼者にはありまさん本人から謝罪してくださいよ」
「ありまさんにまっかせなっさーい!」
と言いありまは歩き出した。しかし歩いても歩いても山から出れない。
「日向、ひとつお前に行っておこう」
「何ですか? 迷子になったとか言ったら怒りますからね」
「道に迷った。だが1つ聞いてほしい俺たちは大人つまり迷子ではない」
日向は呆れたように溜息を吐いた。
「まあ起きてしまったことは仕方ないですし、あの『シークレット』て書いてあるカバン開けてもいいですか?」
「待て! 日向。それは開けない方がいい」
「まあ開けますけどね」
日向はカバンを開け中を見て固まった。中に入っていたのは女性物の下着だった。
「そう言えば最近下着泥棒がでたって…ありまさん……正直に警察に自首しに行きましょう」
「日向、話を聞いてくれ」
ありまの話によるとネットで下着を買おうとしたところまず初めに男性物と女性物を間違え、次に5個注文するはずが間違えて50個注文してしまったこと、それを隠すためにこっそり山に捨てようたしたこと洗いざらい話してくれた。
「ありまさん、そんなことよりどうにかしてこの山から出ましょう」
「そうだなそうと決まれば行く道を決めよう」
「確かこっちから来ましたよね」
日向が来た道を指さして言った。しかしありまは逆の道を指さし「こっちから」と言った。
「完璧な迷子ですね」
「だから大人だから迷子じゃ」
「そうでしたね」
結局進む道も決まらないまま日が暮れて行った。
「ありまさん寒いです」
「日向見ろー、あんな所に家があるぞ」
「そこ崖ですよ。正気に戻ってください!」
夜になるまで歩いていたが森を抜けれる様子はひとつもなかった。
「このまま俺らは死ぬんだな」
「ちょっと、ありまさん変な事言わないで下さいよ」
「ならお前を食ってやる」
「ふざけれる余裕があるならまだ大丈夫そうですね、ほらこれを」
日向は香苗さんから貰った非常食をありまに渡し食べ始めた。
「日向このままだと寝てしまうかもしれない何か話を」
「じゃあありまさんと香苗さんてどうやって付き合ったんですか?」
「絶対に言わないし思い出したくもない」
「教えてくれたっていいじゃないですか」
日向はしつこくありまと香苗が付き合った経緯を聞き続けたがありまは一切答えなかった。
「よし日向、教えて欲しいならまずこの山から出よう」
「男に二言はありませんよね」
「多分ない」
と言った感じの会話をし歩き始めようとした時何処からか声が聞こえた。
「樋山と確か美吉くんこんなところで何をしているのだ?」
「この声は!」
声のするほうを向くと香苗さんがいた。
「香苗さんなんでこんなとこに?」
「それはこっちのセリフだ君たちは何故ここにいるのだ」
「依頼だよ」
「はて? この山は我が会社が所有するもの。こちらからはそんな依頼はしてないのだが。まあいいか、着いてこい」
香苗さんに言われるまま着いていき無事山から出ることが出来た。
「ありがとうございました」
「別にいいそれにしても樋山はものすごい勢いで走って行ったな」
「みたいですね、そういえば気になってたんですけどありまさんと香苗さんはどう言った感じで付き合ったんですか?」
「確かあれは樋山の方から『絶対に幸せにするから付き合ってください』と言われたな」
「ありまさん大胆」
そんな話をしているとありまが乗った車が来て、日向を無理やり車に乗せ走り出した。
「ちょっとありまさん香苗さんにお礼言わないと」
「後で言うからいいんだよそれよりあいつのなんの話をしてたんだ?」
「いや〜、何の話もしてませんよ」
その日は事務所に帰り、別の依頼の書類に目を通して終わった。
そして後日
「ありまさんこれ見てください」
「なんだよめんどくさいな」
日向が見せてきたのはなんかのサイトだった。
「なんかおかしいと思ってたんですよ」
「何がだよ」
「月光茸はこの世に存在しない架空のキノコだったんですよ」
「つまり俺らはイタズラの依頼を受けてたことなのか」
その日から樋山探偵事務所はインターネットによる依頼を一切受けなくなったのであった。