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ピエロに扮した時限爆弾

作者: mmo

時計が止まる。

音の出ない爆弾。

灰の舞い。

人が一人消えた。





中学の終わりの頃。

彼は脅迫じみた告白をしてきた。

ブスだの不細工だの陰険だの、

容姿や性格をけなしながら。

私は、

悪口や陰口、

いじめにはずいぶん耐えてきたので、

彼の話を、

初めから終わりまでちゃんと聞き、

愛の告白だとわかりました。

怒りの形相で私を見つめる彼に、

私は短く答えました。

「はい」



彼はいつも、

身近なものを手にとっては、

投げつけたり叩き割ったりしていました。

私と一緒に歩く時でも、

石を見つければガラスに投げつけ、

棒を見つければ車を傷つけ、

何も無ければ足や手を叩きつけていました。

彼は、

『不良』

と呼ばれる人でした。



暴力を振るわれたことはありません。

私の顔が元々壊れているからでしょうか。

私に対してどんなに怒っても、

机や椅子を壊すだけで、

私には何もしてきません。



私に触れたことさえないのです。



投げかけるものは罵詈雑言。

そしてモノに当り散らすのです。

花瓶が割れました、

ビンが割れました、

お皿が割れました、

粉々になりました。



彼の行動を、

私は止めようとはしません。

見ているだけ。

私がソッポを向くと、

彼はさらに大きなものを壊して、

子供のように奇声を上げるのです。

自分の存在をアピールしたいのでしょうね。

淋しがり屋なんでしょうね。

自動販売機を叩き壊しながら、

「僕はここだよ」

なんてね・・・



私は怒った時はいつも、

彼のほうを見ないようにします、

大暴れする彼の破壊の音で、

彼が傷付くのが解るから。

嫌な女です。

不細工で太ってて性格も暗くて、

本当に嫌な女です。



彼は何かに怒り出し、

破壊します、

壊さずにはいられないのです。

彼はブロック塀を殴りました。

流石の彼にも壊せません。

手から血が出てきました。

私はその気もないのに、

救いの手を差し出そうとしてしまったのです。

彼は怯え逃げ出しました。

数日もの間、

私に姿を見せようとはしません。

そして姿を現したときには、

傷がすっかり癒えていました。

元気に垣根を蹴り倒します。



私がもう少しキレイだったら。

キレイだったら。

彼は私を殴ってくれるのでしょうか。

壊してくれるのでしょうか。

傷を見せてくれるのでしょうか。

甘えてきてくれるのでしょうか。

キレイだったら。

ちくしょう・・・

イラつきます。

腹が立ちます。

そんな時、

私は彼を見ません、

背中越しから壊れていく音が聞えます。

彼が傷ついていく音が聞えます。



彼はタバコを吸います。

私はにおいも嫌いだし、

身体にも悪いので、

私はソッポを向きます。

すると彼は怒りだし、

タバコを吸うことをやめるのです。

彼の嗜好品まで奪おうとする、

彼を傷つけて喜ぶ、

私は本当に嫌な女です。



他の人から虐められる事がなくなりました。

いつも暴力的な彼がそばにいるから。

だから・・・

私の為にいつも怒っているの?

・・・

へっ・・・

私は何様のつもりなのでしょう。

くだらない事を考えてしまいました。



似合わない。



鏡は真実を映し出しません。

見ているのは自分自身なのですから、

目は人間に都合のいいものしか見えないんです。

彼の罵詈雑言、

悪口の中で映し出された私。

それが本当に私の姿・・・

でも人間の耳は都合のいい言葉しか拾えないんです。



今は少し彼のことを愛しいと思います。

私の部屋に呼ぶことにしました。

今だったら・・・

抱かれてもいいと思います。

・・・

へっ・・・

へへへへへへへへへへへ・・・

似合わない! 似合わない! 似合わない! 似合わない!

ふざけんな!

うぜーよ!

最低だ畜生!

何様のつもりだ!

キモイんだよ!

頭おかしいんじゃないのかッ!

気狂い!

私なんか死んでしまえばいいんだ!



私がもう少し、

ほんの少しキレイだったら。



部屋は、

似合わないぐらいにキレイにしてあります。

テーブルに灰皿を置きました。

彼はタバコを吸い始めます。

しばらくは二人とも無言でした。

緊張?

そんなもの私には似合いません。

腹が立ちます。

怒りがこみ上げてきました。

私はソッポを向きます。

すると当然のように彼は暴れだしました。

タンスが壊れる音が聞えます。

本が引き裂かれる音が聞えます。

服が破られる音が聞えます。



私はずっと時計を見ていました。

後5分したら振り向こう。

どんな顔をしようか・・・

笑顔?

似合わない。

けど、

彼は驚くんじゃないかな。

気持ち悪いって言ってくれるかな。

へへへへへへへへ・・・

ざまーみろ。



後3分・・・2分・・・1分・・・



30秒



20秒



10秒



5秒



4秒



3秒




2秒



1秒



ばぁ



テーブルをひっくり返し。

灰皿が宙を移動し。

タバコの灰が部屋中に降り注ぎました。



灰皿が私の笑顔に当たりました。



彼は驚きました。

うろたえ、

悲しい目をして、

逃げ出しました。



人が一人消え、

もう二度と出会うことはありません。


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― 新着の感想 ―
[一言] 何かとても切ない作品ですね。今の自分の感情を上手く言葉で表現できない若者みたいでいろいろ考えます。 このような雰囲気の作品好きです。 でもちょっと改行がすこし多く、マウスのスクロール回数が多…
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