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ほろほろ鳥も夢をみる  作者: Miki Kukiri
36/68

小品:葉書 




 見知らぬ星により 一枚の葉書がわたしに届けられた 


 本文はなにも書かれておらず白いままで 宛先や差出人を記した文字も わたしがひと目見たとたんに 溶けて消え去った 


 ちらりと見えた差出人の名字は かつて恋人であったことのある男のものだった 


 莫迦なひと いまだにわたしを強く憎むことができないのかしら 


 わたしは白い葉書をながめながら考える 


 きっと 恨み言がくだくだと書かれてあったのに ここまでたどり着くことすらできずに消えてしまったのだわ あのひとは いまでも気が弱いままなのね 


 テーブルの上に葉書を放りだしたものの 視界に入るたびに苛々とした気分が高じてくる 


 ああ もう! 


 葉書をさっと取りあげて引き裂いてしまう 


 細かく 細かく 裂くうちに わたしの常に冷たい指先が切れて 血がしたたった 


 テーブルの表面に 葉書の切れ端は小さな白い花びらとなって積み重なり わたしの血は小さな赤い花びらとなって重なった 


 さらに目を移すと わたしの足もとにも テーブルのまわりにも 白と赤の小さな花びらが 取り巻いて積もっているのだった 


 はっとしたそのわずかな空気の動きに敏感に反応して たくさんの花びらが いっせいに舞いあがった 


 空中で それらは ふわふわ くるくると留まりつづけ なかなか落ちてこない 


 まるでスノードームのなかで雪が漂うような光景を目にして ああ 自分はいま 夢のなかにいるのだな と気がついた 


 それも 自身の見ている夢ではなく おそらくあのひとの夢でもない 


 ゆっくりと混ざりつつ舞う花びらを見ながら わたしは これはあのひとに押しつけた娘が見ている夢なのではないか……と思った 


 では あのひとがわたしを思い出してくれたわけではなかったのか 小さな女の子がわたしのことを知って 星を見あげながら ためらいがちに心のなかで想ってみただけだったのか と少しさびしい気分になった 


 どこで生きて死んだのかわからない わたしの母親も むかしわたしが見た夢のなかで こんな気分を味わったことがあるのだろうか 


 かすかに耳に届いた声は むかし自分が発したものか それとも遠くで娘が発したものか 


 おかあさん とその声は聞こえたのだが わたしは しつこく入り乱れる花びらがはやく静まることを願って その場にじっと立つばかりだった 





            了 





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