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天の川に花束を ~Lost Love Song~  作者: RUIDO
第四次空襲警報 第三次世界大戦
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第八話 声よ、届け 前編

 ロシアは一機の未確認飛行物体を確認した。途切れ途切れにレーダーに反応している。

 それを見逃すほどロシアの空軍は優しくはない。アメリカの偵察機と見たロシア空軍は、即座に戦闘機を用意した。

 彼らの反応が遅かったわけではない。むしろ、優秀だったと賞賛すべきだった。だが、それすらも上回る速度だった。

 あっという間にロシアの領空を抜け、それは日本へと向かっていった。

 戦闘機のパイロットに帰投命令が下りたのは、彼らが空に飛び立つとほぼ同時だった。

 ミサイルのように、流れ星のように空を切り裂いたそれが何かを彼らは知らない。

 ボリスだけが、それを戦闘機であることを確信した。だが、権力者の誰もが、彼の存在を知らなかった。

 それゆえの情報伝達の遅延。それゆえの判断能力の低下。ロシアは日本に対してミサイルが撃ち込まれたという警告をした。

 未確認飛行物体が到着するよりも前にそれは伝達され、日本の空軍自衛隊は迎撃態勢にて、彼を待ち構える。そして、その警告を日本に通達した者が誰の声だったのかは誰も知らない。

 

 真田さなだは感動していた。

 吉野圭一よしのけいいちの家に拠点を置く真田は吉野の家を探索した。

 食料の位置はもちろん、万が一に備えて逃げ道、武器になるものを確保していた。

 吉野は協力的だったが、警戒心はわずかに残っていた。吉野のリュックの中にある猟銃の存在を真田は知らなかった。

「ここが地下室です」

 トイレの横の扉を開くと地下室へと通じる階段が現れた。扉の中に広がる世界は異質なものだった。

 外観のような一般家屋とは裏腹に、地下に続く壁、天井はすべて鉄で出来ていた。

 吉野家の真上に爆弾が投下されようと、この地下室だけは残り続けるだろう。

 吉野に案内され、地下へと降りる。電球の類はぶら下がっているが、スイッチの類はない。

 それらはすべてトラップであることを吉野は説明してくれた。地下室にある電源スイッチを押すことで、電球が破裂する、という仕組みである。

 今は吉野が手にする蝋燭だけが、二人の足元を照らしていた。

 地下は真田の想像よりも深かった。

 長い階段を下り、目の前に広がったのは秘密基地である。そうとしか例えようがなかった。

「動くのか?」

 戦争を経験し、平和共に寄り添いながら、それでもなお、戦争の痛みを忘れなかった老人がいた。

 偏屈なじじぃと笑われながらも、その信念を貫いた。

 ただ彼はこの日を予想していたわけではない。ただ、自分が死した後でも、家族に生きていてほしいと願っただけ。

 その願いが、真田の窮地を救ってくれた。

「使い方は教えられてないから、なんとも」

 恥ずかしそうに吉野は笑った。

「でかした」

 真田は手のひらを叩きつけるように吉野の頭を撫でた。

 随分と古いが無線機だった。一般人が持っているにしては随分と大きなものだった。

 かつて日本軍で使われていたものと同じ形である。大きさ的には十分すぎるほどだ。

 これほど大きなものであれば、上空を飛んでいるエイワックスにも通信を送ることが出来るだろうと真田は予測した。

 電源を入れる。静かな起動音とちかちかと瞼を閉ざしていたスイッチ達が目を開いた。

 埃をかぶったマイクをひっつかみ、ヘッドホンを耳に押し当てた。

「こちら真田。エイワックス、応答しろ」

 真田は吠えた。だが、鼓膜に響くのは静寂のみ。まるで、まだ微睡まどろみの中にいた。

 目は開いているが、まだ脳が覚醒していない。

 当然だ。長い眠りを無理矢理に起こされたのだ。人間でもすぐに起き上がれる者は少ないだろう。だが、どれだけ呼びかけても無線機は眠ったままだった。

「なんでだ?」

 無線機は生きている。すべて正常に起動している。まるで、目を開いたまま熟睡でもしているようだった。

「たぶん、アンテナ」

「アンテナだ?」

 うん、と吉野は頷いた。

 二人は家の外へと飛び出した。

 旭山市を襲ったタロン(鉤爪)の傷跡は、吉野の家にもしっかりと残されていた。

 一見すると小さな傷だが、真田にとっては致命的だった。

 屋根に残された傷は浅くも深い。おかげで二階の一部屋では雨漏りが激しいという理由で立ち入り禁止になっている。

「あそこにアンテナがあったんです」

 吉野が指さした先には禿げた屋根があるだけ。続いて吉野が指さしたのは庭先に転がった大きな皿だった。

「あれが通信機のパラボラか」

 根元からぽっきりと折れている。だが、そもそもが随分と雑な作りだった。

 ビニールテープで括り付けたような痕跡。パラボラの真ん中に突き刺さっているのは傘の骨のようにも見える。

「手作り感満載だな」

 本当にこれが使えるのか、真田は不安になってきた。ようやっと光明が見えたと思いきや、それが張りぼてだったと知る。

 重たいため息を吐き出して、仰向けに倒れた皿を指先でくるくると回した。

「まぁ、やるだけやってみるしかないか」

 しばらくの逡巡。どう考えてみても、これ以外に現状を打開する策はなかった。

 電気が通じている家は吉野の家だけ。無線機があるのもおそらくここだけだろう。 

 やってみる。

 案外、何とかなるかもしれない。残されている時間はあまりないのだ。

 何とかなるかならないかなど、問題ではない。何とかしなければならないのだ。

 真田は再びため息を吐き出した。

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