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天の川に花束を ~Lost Love Song~  作者: RUIDO
第四次空襲警報 第三次世界大戦
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第七話 ホラート・シャフィル 前編

 ボリス・ニコエラヴィチ・エリツィンとは偉大な男である。それ故に彼を崇拝する者は多い。だが、その中でも彼の生存を知る者は数少ない。

 ホラート・シャフィル山に訪れた探索部隊を率いる男もまたそのうちの一人だった。

 極秘任務である。

 ボリスから勅命を受け、彼はディアトロフ峠へと向かっていた。数名の探索部隊を引き連れて歩く彼らは第一の疑問を感じた。

 核弾頭が投下された地点から五キロの地点にて放射能の計測を行ったことで生まれた。

 計測器が全く反応しないのだ。核弾頭投下直後の報告によると五キロの地点ですでに高濃度の放射能が満ちていたとされている。また、核弾頭投下直後の爆風の被害によって近隣の家屋や森林には禍々しいほどの傷跡が残されていたと聞かされ彼らは十二分に警戒していた。だが、報告書にあった五キロの地点でも放射線は感知されず、探索部隊の目の前には森林が鬱蒼と生い茂っている。

 男たちは改めて気を引き締める。

 虚偽の報告は何のためだったのか。

 その理由を見つけ出すために、彼らは歩を進める。

 かつて広島に原爆が投下された際には黒い雨が降ったとされているが、それらしい痕跡はない。

 最初の計測から二キロ進んだ地点でも放射能は検知されなかった。

 除染もされていないはずだ。あまりに膨大な放射のため、ウラル山脈は見放されていたのだ。

 自然に放射能が消えたなどとは考えられない。

 なぜだ。

 歩を進める度に疑問は浮かんだ。

 第二の疑問はマンシ族と呼ばれる原住民の集落である。本来なら爆発に巻き込まれ、跡形もなく消し飛んでいるはずだった。だが、まるでそこは居眠りでもしているかのように静かに横たわっていた。

 家屋はそのままだった。損壊した様子はない。彼らはまずそこで捜査を行った。

 家屋には人の姿はない。生活感だけが、そこに人がいたということを物語っている。

 住民が一人残らず姿を消しているのだ。文明社会と呼ばれる時代に突入したにも関わらず彼らは狩猟を生業としていた。

 集落の狩人であれば二、三日戻らないとしても不思議ではないが、全員が狩人であるとは限らない。ましてや住民全てが狩りに出ているなんてありえない。そして、そこで見つけた違和感は探索部隊の彼らを戦慄させた。

 足跡である。まるで逃げ惑うように入り乱れた足跡だ。そのほとんどが裸足だった。よくて靴下を履いている程度だ。

 そこから予想するに、夜襲を受けたと推定する。だが、逃げ惑う足跡はあっても、追う者の足跡はない。

 彼らが何に追われ、どこへ逃げたのか。

 その疑問を彼らは抱いた。だが、それに対する答えはどこにもなかった。

 探索部隊はその集落でキャンプを張ることにした。十分に警戒していた。

 それ故に見つけてしまった。

「隊長」

 静かな声で隊員の一人が男を呼んだ。その声の静けさに溶け込むように男は息を殺した。

 見つけたのは血痕だ。微量のものだ。気にするほどではない。だが、その血液から放射能を検知した。

 家具にこびりついた微量の血痕。赤黒く変色したそれが、なぜ放射線を放っていたのか。

 彼らは頭を抱えた。だが、抱えるだけで仮設の一つも立てることは出来なかった。

 彼らは一抹の不安を抱えながら、一夜を過ごした。

 第三の疑問はマンシ族の死体を発見した時だった。ホラート・シャフィル山のふもとでそれを発見した。

 夏と言えど物が腐るのを促進させるほどの猛暑ではない。まざまざとそれは形を残していた。

 目玉のない窪みが空を見上げている。悲鳴を上げていたのだろう口の中には舌がなかった。

 腐臭を放つ体には外傷らしきものは見当たらない。そして、その死体が纏っていた衣類から検出された放射能。

 マンシ族の死体は何かから逃げていた。そして、逃げ疲れたのか、あるいは逃げられなかったのかはわからないが、ここで立ち止まってしまった。そして、悲鳴を上げる口の中から舌を奪われ、恐怖に染まった双眸をえぐり出された。

 推定される状況を判断する。

 放射能を纏った何者かが死体に馬乗りになり暴行した。

 動物の類ではない。爪痕や噛み傷のようなものは見当たらない。そして、殺人を目的としたものではないと判断する。

 目や舌を切り取るという行為は簡単に出来ることではない。口止めや殺害が目的だとしたならば、心臓を一突きにしてしまえば、それで終わりなのだ。だが、そうはしなかった。

 殺害は結果であり、目的ではない。両目をえぐり出す必要性、舌を切り取る必要性。検知された放射能。

 なぜだ。

 疑問は膨らむ一方だった。やがて、彼らは山の形を失ったホラート・シャフィル山へとたどり着く。

 半分ほどを失った山だ。相変わらず放射能は検知されない。目と鼻の先にある山から放射線が出ていないことを知り、彼らは確信する。

 それは核弾頭によるものではないということを。

 言い知れぬ不安が彼らを駆り立てる。ここにいてはいけないと心臓が高鳴れば高鳴るほど、使命感が増していった。

 ここを放置してはいけない。

 そう思えば思うほどに心は焦燥に駆られた。

 第四の疑問はホラート・シャフィル山を上ったところで見えてきた。

 燃え尽きた山肌を登り切るとクレーターのように窪んだ爆心地へとたどり着いた。

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