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天の川に花束を ~Lost Love Song~  作者: RUIDO
第四次空襲警報 第三次世界大戦
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第一話 ブレイン・ブレイク 後編

 お久しぶりです。昆山(こんざん)にあるとある病院から王・李玲(ワン・リーリン)が生中継でお送りいたします。

 先日放送させていただいた工業都市における謎の兵器についてお話させていただきます。私は先日、あれが地下から顔を出した際に現場に居合わせました。

 その時に私は右腕を失いました。ですが、私には左手があり、マイクを握る力があり、そして、事実を言葉にする舌を持っています。なので、的確に真実をお話します。

 まず、第一に私が声を大にして告げなければならないのは、アレはアメリカのものなどではないということです。数多くの専門家の方々が声を荒げて議論を醸していますが、あれはそう言ったものではありません。

 そもそもあの工場を所有していたのはどこの国でしょうか。

 ゲローイ・スラーヴァ社はロシアが所有する子供向け玩具の生産工場なのです。仮にアメリカが関与していたとしても、そこにはまずロシアという巨大な連邦国家が敵であるということを私は皆さんにお話したいのです。

 我々は愚かです。アメリカという国を嫌い、日本という国を嫌い、本来の敵を見失っていました。ですが、改めてここで敵が誰であるかを認識する必要があるのです。

 それが本来我々と手を組むと声を掛けてきたロシア連邦であるということをここに宣言します。そして、改めて日本とアメリカと中国が手を取り合い、本当の敵と戦う日が訪れたということを皆様に知っていただきたいのです。それこそが私がこのような姿で、皆様の目の前に姿を現した理由になります。

 工業都市では数多くの命が散っていきました。カメラマンもレフ版を持っていた若い青年も、今は名を伏せさせていただきますが、私の大切な友人でした。

 武力を持たない民間人にすら牙を剥く非人道的行為を許してはいけません。

 今もなお工業都市のゲローイ・スラーヴァ社があった場所に鎮座する兵器を即刻ロシアへ送り返すべきなのです。

 あれは全長が四〇メートルほど。私の目には手足のように見えましたが、全体を支えているのは獣じみた手足ではありません。それは数多くの鉤爪のような突起を身に着けてはいますが、あれで歩行することはおそらく難しいでしょう。それよりも危険なのは、あれにはプロペラやジェットエンジンのような機関が取り付けられていることです。

 あれは飛翔するのです。どの程度の移動が可能なのか、どの程度の速度を出すことが出来るのか。私には見当もつきませんが、間違いありません。あれはあのままあそこで息を潜めているつもりなどないということです。また、こちらは私が目視したものではありませんが、つい先日あれは大気圏外に向けて砲撃したという情報があります。何を捕捉し、何に対して攻撃を行ったのかは検討もつきませんが、その砲弾は私が通常知りうる鉛の塊ではありません。

 強力な磁場を発生させ、近隣の建物、果ては生物までも取り込むような強力な引力を巻き起こし、発射されました。速度は推定ですがマッハ一〇以上。また、射程距離は不明です。少なくとも大気圏外へと向けられたことは事実です。

 中国政府はあれは他国へ向けられた威嚇射撃であると推測しています。また、真実を知らない韓国や北朝鮮からは中国政府へ、あの兵器の廃棄を要求する申し入れが来ています。我々が被害者であるということを他国へと公表し、あの兵器を迅速に破壊するために他国から協力を得なければなりません。

 今もなお中国政府は他国との対話を試みている状況です。

 詳しい情報が入り次第、またお会いしましょう。

 以上、昆山のとある病院から、王・李玲がお送りいたしました。 

 

「俺だ」

 暗闇の中だった。街灯も死に絶え、人の気配すらも失われた旭山市の端っこの公園だった。

 今はただ鈴虫たちが静かに歌っている。その中でかすかに聞こえた足音に気付き、真田さなだは声を出した。

「久しぶり、いや、はじめまして、というべきかな?友よ」

 心地よさすら覚える懐かしい声だった。暗闇の中、振り返ると背の高い男が立っているのが見えた。

 顔まで判別は出来なかったが、それがグレゴヴィッチであるということを真田は理解した。

「どちらでもいい。本題に入ろうぜ、友よ」

 にやりと笑みを浮かべると男もまたにやりと意地の悪い笑みを浮かべたのが何となくわかった。

「煙草は吸うか?」

「あぁ、愛煙者なのでね。といっても、私は葉巻が好みでな」

 真田が差し出したタバコをやんわりと拒否すると、グレゴヴィッチは上着のポケットから葉巻のケースを取り出した。

「それにしてもやけににおうな」

 周囲には腐臭にも似た異臭が立ち込めている。公園の入り口には頭を撃ち抜かれた兵士の姿もあった。弔われることもなく、放置された死体は今や珍しいものでもなかった。ただ、それとは違う異臭がやけに気になった。

「獣なども死んでいるんだろ。食料が入手できない時代だ。そこの草むらなんかでも息絶えた獣が、今もそこに横たわっていたとしても不思議ではないさ」

 グレゴヴィッチは煙を吐き出した。

「エリツィンよ、中国での惨劇は知っているか?」

 真田は静かに首を縦に振った。

「あれはお前たちの仕業ではないのか?」

「肯定であり、否定である。あれを作ったのはロシアであることに間違いはない。だが、アレは現状では我々の命令を聞く代物ではない」

「どういうことだ?」

 グレゴヴィッチは葉巻の煙を吸い込み、ゆっくりと紫煙を吐き出した。薄暗い暗闇の中で、それはゆらゆらと輝いて、やがて音もなく消えていく。

「アレに名前はない。強いて言うならば、チゥドーヴィシシィと称している。本来ならばXXI(クシィ)と呼ばれるはずだったのだが、その名を冠する前にアレは我々の手元を離れてしまった」

「アレはなんだ?戦車には見えんぞ。固定砲台としても、あの位置ではなにも狙えないだろう」

「甘いな、古き友よ。翼を持っていても飛べない鳥はいる。足を持っていても歩けない獣もいる。その逆がいないという発想は人類の盲点であるぞ」

「どういうことだ?」

「翼も足もなくとも動くことも飛ぶことも出来るということだ。それこそが、アレがチゥドーヴィシシィ(怪物)と呼ばれる所以なのだ」

「半重力装置か」

「ご明察。そのほかにもいろいろあるが、あとは私の専門外だ。何よりもお前に伝えておきたいことがある」

「いよいよ本題か」

 グレゴヴィッチは静かに頷いた。

ルゥカヴァディーチリ(指導者)のことだ。彼は、いや、彼らと言うべきか。いや、そもそも彼と称することもはばかられるな。アレとしよう」

 うん、と一人で納得するとため息を一つ吐き出す。まるで、自身の気持ちを落ち着ける儀式のように見えた。

「チゥドーヴィシシィは今は無人だ。だが、ルゥカヴァディーチリ(指導者)はアレの指揮系統を支配している」

「おい、大丈夫か」

「私のことは気にするな、私はすでに死んでいる」

「それはどういう」

「いいから聞け、エリツィン。ルゥカヴァディーチリ(指導者)はすでに地球の九割の衛星を掌握している。それらの電波を使うことでチゥドーヴィシシィを遠隔操作している。各国の衛星電波を排除しろ。クリューブのパイロットなら、それが可能だろう。間違ってもチゥドーヴィシシィを破壊するな。アレはルゥカヴァディーチリ(指導者)に対抗する唯一の手段だ。何としても死守せよ。そして、私の意思を継いでくれ。世界に平和を取り戻してくれ」

 早口にそう言うとグレゴヴィッチは荒い呼吸のまま膝に手をついた。驚いて支えようと手を伸ばすとグレゴヴィッチはそれを拒んだ。

「奴らの武器はありとあらゆる電波だ。人間の脳波も例外じゃない」

「ま、待て。どういう意味だ」

「奴らは人間の脳波に寄生する。人間の体を操り人形のように操ることが出来る。だから、」

 ぶつんと糸が切れた人形のように、グレゴヴィッチの体が崩れた。頭から地面にぶつかり動かなくなった。

 数秒、彼は動き出した。それは文字通り動き出した。死ぬ直前のゴキブリのように体をぶるぶると震わせたかと思うと、むくりと起き上がった。

「いやはや、もう使えないと踏んで放置していたが、まさか、ここまで動けるとは思わなかったな。グレゴヴィッチ中将、私は君を称賛しよう」

 グレゴヴィッチは独り言のように呟くとまるで今気づいたとでも言うように真田を見た。

「そうか、お前が。・・・そうか、この男から何を聞いた?」

 真田は懐から拳銃を取り出すとグレゴヴィッチの額に銃口を突きつけた。

「グレゴヴィッチをどうした?」

 ソレ(・・)はおかしそうに笑った。

「ここにいるではないか」

「お前は誰だ」

 真田の問いかけにソレ(・・)はため息を吐き出した。

「わかっているんだろう?ロシアではルゥカヴァディーチリ(指導者)と呼ばれている。君たちからはゴーストだったかな?」

 ゴーストは意地の悪い笑みを浮かべた。ゾッとするほど楽しそうな無邪気な笑みに真田は銃口を強く押し当てた。

「グレゴヴィッチを開放しろ、ゴースト」

 真田の強い語気を跳ね返すように、ゴーストは高らかに笑った。

「安心しろ、この男にはもう用はない」

「俺を呼び出したのはお前か?」

「いや、あの時はこの男だ。勝手に動くなと命じたはずだったんだが、彼が地球を愛する気持ちは本物だったよ。愛国心とは恐ろしいものだ。つくづく私は人類が嫌いだよ」

「俺もお前が嫌いだ。脅せば何かしゃべるのか?」

「無駄だな。この男の命に価値はない。それに、」

「そうか」

 真田は銃身を下ろし、グレゴヴィッチの心臓に当てた。押し付けた銃口からは何も響いてこなかった。

 グレゴヴィッチはやれやれとため息を吐き出した。

 タン。

 それを合図にしたように短い発砲音が響いた。真田の手にある銃口からは細々とした煙が立ち上り、グレゴヴィッチの心臓からは液体とは程遠いどろりとしたものが流れ出た。それと同時に先ほどから感じていた異臭が強く鼻孔をくすぐった。

「この男の心臓は随分と前からほとんど動いていない。脳みそだけが私の力によって動いていたに過ぎない」

 そう言いながらグレゴヴィッチは真田の持つ銃を掴んだ。とっさに振り払おうと強引に腕に力を込める。

 ぶちっという嫌な音を立ててグレゴヴィッチの右腕は肘からひきちぎられた。

 ようやっと雲の切れ間から地球の様子を伺おうと月が顔を覗かせた。

 月すらも驚愕する姿が夜空の下に照らされた。

 目玉は白く濁り、頬や鼻の頭から骨が顔を覗かせている。口の中は歯もほとんど抜け落ちている。

 グレーのスーツは薄汚れ、真田が空けた胸の穴からは腐り切った内臓があふれ出ていた。

「ははは、お前を殺してお前の体をもらおう!」

 その姿に慄き、反応が遅れた。グレゴヴィッチは左手を懐の拳銃に伸ばし、それを取り出していた。

「痛いのは一瞬だ。これでお前と、この男の因縁に決着をつけてやろう。感謝しろよ、人間。私がお前たちを導いてやろう。ポグロム(破滅)へと」

 グレゴヴィッチは口の中の歯を吐き出しながら高らかに笑った。

 それを見て、真田は煙草を取り出し、ゆっくりと火を点けた。

「あぁ、感謝する、友よ」

「あ?」

 グレゴヴィッチの手には銃が握られていた。そして、その銃口はゴーストの顎に突きつけられていた。

 腐敗したグレゴヴィッチの顔が驚愕に染まるのが分かった。ゴーストは言葉を失くし、完全にフリーズしていた。そして、代わりにグレゴヴィッチが口を開いた。

「こちらこそ、古き友よ。君と出会えてよかった」

 口だけがまるで別人のように言葉を発した。

「父上に似ている。聡明であり、そして、誇り高い男だ」

「嬉しくはねぇがありがとよ。あんたの意思は俺が継ぐ。必ず、ゴーストから星を守る」

「あぁ、祖国は聞いている。君の声を、君の意思を」

 ダン。

 乾いた銃声と共にグレゴヴィッチの頭から脳漿が飛び散った。顎の下に出来た穴から体液を溢れさせ、グレゴヴィッチと呼ばれた男の体は崩れ落ちた。

 真田は弔うように彼の吸っていた葉巻に火を点け傍に置いた。その煙は誇り高く天へと昇っていく。

 真田はただ一人、それを見送った。生涯を掛けて国を守ろうとした愛国者の魂が還る姿を。

 その身が朽ちようと、傀儡くぐつへと落ちようと、その魂の気高さは失われていなかった。

 本来敵同士である男を友と呼び、その命を守るために散っていった英雄の魂。

 その気高さを、真田はただ一人見送った。その後を追いかけるように真田の口元から白い煙がゆっくりと天を目指して昇っていく。

 やがてそれは星たちの瞬きに交じり消えていく。

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