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天の川に花束を ~Lost Love Song~  作者: RUIDO
第一次空襲警報 未確認飛行物体
16/82

第九話 恋の行方 後編

 桐野柚葉きりのゆずはは学校を休んだ。

 彼女は孤独だった。本当は叫びたいほどの悩みと秘密を抱えていた。

 空に雷が寝転がった日。それは現れた。

 黒いスーツを着た人々は、奇妙な言葉を話していた。そして、目の前で起こっている衝撃的な非現実を当たり前のように見ていた。

 宇宙人みたいな言語、突然突きつけられた麻酔銃。そして、宇宙人と名乗った男の不敵な笑み。

 もし、桐野がそれを目撃していなければ、今日の停電に怯えることはなかっただろう。

 どこかのSF小説で読んだことがあるのだ。

 宇宙人は地球を侵略する時に、まず通信障害を起こし、連絡体制を崩すのだ。そして、少しずつその尻尾をちらつかせ、人々に恐怖を植え付ける。その恐怖の種に十分に水を与え、恐怖が芽吹く頃、電気をシャットアウトする。

 日常生活を破壊するように、今度は水道をダメにする。その小説では水道をひねると緑色のどろどろした液体がこぼれたと描写されていた。 

 最後はとどめとばかりに一斉攻撃を仕掛けるのだ。空からUFOが飛来し、人々をさらい、さらわれた人々はその日のエイリアンのごちそうとして並ぶ。

 最終的にアメリカが宇宙人のUFOを乗っ取って、敵の母艦を破壊して宇宙人を撃退する。だが、今はヒーローだったアメリカは敵であり、宇宙人の船みたいな魚が頭上から見下ろしている。

 通信が使えなくなった時点で宇宙人による地球侵略は始まっていたのだ。

 その事実にも気づかずに携帯電話を放棄し、頭上にUFOがチラつく生活を当たり前のように過ごしていたのだ。

 おそらくロシア人はすでに宇宙人に食べられている違いない。次は日本なのだ。

 その事実を知るのは、桐野だけで。桐野が家を出れば魚が空から降ってきて、光の柱に包まれてUFOの中で裸にひんむかれた挙句に最後にはブロッコリーと一緒に皿に並べられるのだ。

 そんな想像が桐野の頭を支配していた。

 放課後の時間になっても布団から出ることは出来なかった。それどころがいまだにカーテンも開けていない。

 両親はデリケートな思春期という病名を告げ、二人は何事もなく仕事へと向かった。

 共働きの桐野家は今、桐野を除いた無人となっている。頼りない籠城作戦をあざ笑うかのように玄関の扉をたたく音がした。

 びくりとして布団の下から顔を出す。

 宇宙人が扉をノックしていると思った。だが、そんなマヌケなことはないのだ。

 宇宙人にマナーなどないし、ハリウッド映画などを見ると彼らはずけずけと壁をすり抜けてくるのだ。

 ノックして在宅確認をする宇宙人などいないだろう。

 桐野は恐る恐る部屋を出た。真っ昼間の太陽に照らされた廊下は、暗闇に慣れた桐野の目に突き刺さってきた。

 思わず目を細めて廊下を進む。階段を下り、今もなおドンドンと音を立てる玄関へと足を向けた。 

「はーい」

 返事をしてからハッとした。どこぞの映画では宇宙人は地球人に成りすますのだ。もしかしたら扉の向こうで灰色の肌のでかい頭とでかい目が、桐野が出迎えるのを今か今かと待ち構えているのではないか。

 ホラー映画ではありがちなシーンだ。扉を開けたら一瞬だけ宇宙人の頭が画面に映り、直後には桐野の悲鳴を残して画面がブラックアウトする。

「桐野ー、開けてー」

 そんな幻想をぶち壊したのは三国直子みくになおこの声だった。見知った声に安堵して、桐野は渋々扉を開けた。

 大方、かつて金魚の糞のようにくっついていた桐野を心配してくれたのだろう。学校も違い、家も近くはない。電話も通じない現状で横綱は大根よりも逞しい足を振り回してやってきたのだ。だが、桐野は油断していた。

 桐野は学校をサボり、制服を着ることをサボり、化粧をすることをサボったのだ。

 よって今の桐野はわずかに乱れたパジャマと激しく乱れた髪の毛と化粧の一つもされていないスッピンを太陽の元にさらした。

 そこにはいつものぽっちゃりとした三国の笑顔と少し困惑した見慣れない顔が並んでいた。

 一瞬、フリーズした。桐野の体を制御するコンピュータは演算をやめた。

 思春期の女子にとって、寝起きのままの姿を見知らぬ人間に見られるということは恥じ以外の何物でもない。これが三〇も過ぎていれば逆に開き直ることも出来たのかもしれないが、花も恥じらう乙女なのだ。

 その中に神崎颯太かんざきそうたの顔を認識した途端に、桐野のコンピュータはオーバーヒートした。

 ばたん、と音を立てて扉を閉じ、桐野は一目散に自室へと飛び込んだ。

「桐野ー?入るよー?」

 三国は自分の家の玄関でも開けるように扉を開け、二階へと逃げていく桐野の背中に声をかけた。

「リビングで待ってて!」

 怒鳴るような桐野の言葉に促され、横綱は子分をリビングへと招き入れた。

 藤田由香里ふじたゆかりが花火を提案したのは、三国の提案だった。なんでも一昨日の夜に三国と桐野は甘酸っぱいガールズトークを繰り広げたらしい。

 その中で桐野は颯太に好意を持っていることを図らずして三国に悟られてしまった。そして、気を利かせた三国は合コンメンバーに声をかけ、今日の夜にサプライズとして花火をすることを決意したのだ。

 アラブこと斎藤琢磨さいとうたくまは初めての女子の家に興味津々で家具やらなんやらを観察している。

 吉野圭一よしのけいいちは借りてきた猫のようにメガネを輝かせてもじもじしていた。

 颯太は由香里とソファに深々と腰を下ろし、静かに待っていた。

「学校休んだの?」

 二階の桐野の部屋の前にたどり着いた三国は扉越しに問いかけた。扉の向こうから伝わる緊張感に、何か申し訳ないことをしてしまったような気がした。

「う、うん。ちょっとね。ていうか、なんで神崎君がいるのよ」

 大急ぎで化粧をする。こうなってしまえば何とか形になればいい。髪の毛もセットしようにも洗面所は一階だ。最悪、縛ってまとめてしまえば寝癖もごまかせる。あ、でも、コンタクトは一階だ。あー、それに服はどうしよう。

「な、なんかごめんね」

 ドタバタする桐野の部屋に謝罪の言葉だけ残して三国は階段を下りた。

「お、三国。三浦ちゃんちはここから遠いの?」

 それを聞いて斎藤と吉野は顔を合わせた。

 三浦って誰だっけ。ちょび髭じゃね。あー、なるほど。

「あー、紗枝んちは近いよ。五分くらいでつくんじゃない」

 三国は顔の皮が厚い人間だ。さも当然な顔でテーブルの上のお菓子に手を伸ばした。

 思わず由香里は、おぉ、と心の中で歓声をあげた。食い意地の張った女子であることは知っていたが、まさか家主のいないところで堂々とお菓子に手を伸ばすなど考えていなかった。

「そうなんだ」

 颯太は三国が当然のようにお菓子を食べていたので、それに倣うように手を伸ばした。それを見て由香里がぴしゃりと颯太の手を叩いた。

 それを合図にしたように二階から扉が開く音と転げ落ちているのではないかと思うような慌ただしい足音が聞こえてきた。

「お、おまたせ」

 扉が開くと薄化粧のラフな格好をしたメガネの桐野が立っていた。

 男子の目は思わず見開かれる。前に会った時は少し濃いめの化粧だった。

 今の桐野はナチュラルなメイクで縁の太いメガネは似合っている。

 吉野の鼻息が荒くなる。彼は彼女に自分と同じくメガネに対するオシャレの大事さをわかっていることを見抜いた。

 本人としては不本意な姿だったが、それは得てして颯太の目も向けさせた。

 それを横から見ていた三国はにやりと笑みを浮かべ、由香里は不機嫌そうにお菓子に手を伸ばした。

 口に頬張ったお菓子は思ったよりも味気なく、より一層由香里を不機嫌にさせた。

「じゃ、いこっか」

 桐野の準備が出来たのを見ると、三国は立ち上がった。

「え?どこに?」

「紗枝んち」

「ちょ、ちょっと直子。なんでいきなりうちに来たの?」

 横綱は意地悪に笑っただけで、答えなかった。そそくさと玄関を飛び出した三国を追いかけて、それぞれもそれに続いた。

「なんか悪いね」

 戸締りをする桐野に颯太は笑った。その声に猫のように体をびくつかせ、ややあって振り返る。

「う、ううん。大丈夫。あんまり準備出来なかったから。変じゃない?」

 そう言って桐野は髪の毛を撫でた。

 寝癖はないか、と尋ねているつもりだった。

「あ、う、うん。いいと思うよ」

 一瞬、その言葉が桐野の全体を見た上での評価であることに気付けなかった。気づいた瞬間、顔から火が出るかと思った。

「いくよ」

 憮然とした表情の由香里に促された。

「どうした?」

「べ・つ・に!」

 

 こちらウッドペッカー、まもなくコンタクト。

 こちらエイワックス、了解。ウッドペッカー、こちらも確認した。まもなくエンゲージ。カウントを開始。カウント、ファイブ、フォー。

 了解、ステルス起動。テンタクル展開。

 カウント、スリー。レーダーにタロンを確認。

 了解。

 ツー、ワン、カウントアウト。ウッドペッカーコンタクト。初弾命中、敵機撃墜。タロンも迎撃態勢に移行、テンタクルの展開を確認。ウッドペッカー、当たるなよ。

 了解。

 こちらエイワックス、敵機撃墜確認。いい調子だ。

 こちらスワローワン、遅れてすまない。至急ウッドペッカーを援護する。

 こちらエイワックス、了解。無理はするな。こちらエイワックス、ウッドペッカー、スワローがコンタクト、まもなくエンゲージ。誤射はするなよ。

 こちらウッドペッカー、了解。

 こちらスワローワン、コンタクト。敵機撃墜する。

 こちらスワローツー、コンタクト、後ろにつかれた。誰かコイツを追い払ってくれ!

 こちらスワローフォー、スワローツーを援護する。うまいことケツを振れよ!

 こちらスワローツー。助かるぜ、カワムラ。

 こちらスワローファイブ!被弾!被弾!

 こちらエイワックス、スワローファイブ。戦闘宙域を離脱しろ。繰り返す、帰ってこい。

 了解!くそ、制御が、き、きかねぇ。

 こちらエイワックス。スワローファイブ、速度を落とせ、そのままじゃレッドアウトするぞ。

 わかってる、あー、くそ。すげぇGだ。

 こちらエイワックス、まだベイルアウトするなよ。

 バカ野郎!高度八〇〇フィートでそんなこと思いつかねぇよ。

 こちらスワローワン、敵機撃墜。ブライアン、落ち着け。

 こちらスワローファイブ、くそ、目が、レッドアウト!レッドアウト!くそぉ!目から血が出てやがる!

 ブライアン!上昇しろ!

 こちらエイワックス、スワローファイブ、応答しろ。応答しろ、ブライアン!

 くそ、ブライアン。

 こちらスワローフォー!ジョン!後ろだ!避けろ!

 こちらスワローツー!サンキュー、カワムラ。オーバーシュートだぜ、化け物!

 あぁ、くっそ。ジャミングされた!

 こちらエイワックス、落ち着け。ナットを使え。あくまでも我々はプリンセスの援護だ。

 もうやってるよ!くそ、こいつらナットくらいじゃビクともしねぇぜ。

 こちらウッドペッカー、敵機撃墜。

 こちらスワローワン、増援を確認。まもなくエンゲージ!

 こちらエイワックス、チームスワロー、ウッドペッカーに奴らを近づけるな。

 こちらスワローワン、了解。ったく、人使いが荒いぜ。

 こちらスワローツー、了解。オダ!敵機多数!俺らだけじゃ太刀打ちできない!

 こちらウッドペッカー、敵機撃墜。

 こちらスワローフォー!被弾した!すまねぇみんな!ブレイクする!

 くっそ!敵ながら見事なハンマーヘッドだぜ。

 ジョニー!褒めてる場合か!こちらスワローツー!スワロースリーを援護する!

 来るな!ジョン!俺が引きつける!姫様を守ってくれ!

 ・・・こちらスワローツー、了解した。

 こちらウッドペッカー、敵機撃墜。

 こちらエイワックス、ターゲットロストを確認!

 こちらスワローワン!全員ブレイクしろ!

 こちらスワロースリー!悪いな、ミスターオダ。先に行ってくれ。

 ジョニー!旋回しろ!そのまま突っ込めば蜂の巣だ!

 はっは!ファッキンジャップ!アメリカンなハラキリ見せてやるぜ!

 ・・・こちらスワローワン!全員ブレイクしろ!

 でも、オダ!

 侍が腹を斬るんだ。それを邪魔するな。

 こちらスワロースリー。ミスターオダ、お前の握ったスーシはうまかったぜ。

 こちらエイワックス、スワロースリー、ネガティブ、ロスト。

 メーデー!メーデー!こちらスワローツー!被弾した!すぐそばだ!敵が見えない!

 ジョン!落ち着け!上だ!

 こちらウッドペッカー、敵機撃墜。

 こちらスワローツー、ありがとう、ユイ。

 こちらスワローワン、生きて帰るぞ。

 了解!

 こちらエイワックス、追撃来るぞ!回避しろ!帰ってこい!お前らには家族が待ってるんだぞ!お前らの家族に頭下げるなんざごめんだぞ!

 こちらウッドペッカー、敵を殲滅する。

 ユイ!だめだ!お前は絶対帰るんだ!

 大丈夫、ちゃんと帰る。

 くっそ。こちらスワローワン、ウッドペッカーを援護する。みんな俺に続け!

 ダメ!私が止めるから!みんな帰るの!

 俺たちの任務はお前を守ることだ。お前は俺たちにとって唯一の剣なんだ!

 待って!ジョン!

 こちらスワローツー!俺が引きつける!

 こちらスワローワン!帰るぞ!これ以上死ぬな!

 オダッチ!待って!ジョンが!

 ウッドペッカー、これは命令だ。任務は達成した。帰投しろ。

 ・・・こちらウッドペッカー、了解。

 こちらエイワックス、スワローツー、ネガティブ、ロスト。スワローズ、ワン、フォー、ウッドペッカーの戦闘宙域からのブレイクを確認。後続機なし。

 こちらスワローワン、了解。みんな終了だ。警戒は怠るなよ。

 ユイ、どうしたんだ。お前らしくないぞ。

 うん、ジョンは好きな人がいたんだよね。

 あぁ、そうだ。

 アメリカのショーパブにな。綺麗なショーガールさ。

 カワムラ、よせ。

 あ、す、すまない。

 ねぇ、オダッチもカワムラも好きな人はいる?

 あぁ、俺には嫁と子供が二人だ。

 カワムラは?

 いるよ、アメリカにな。

 私もね。

 え?

 好きな人が、好きな人が出来たの。

 だったらなおさら、なんであんな無茶な真似!

 うん。好きな人がいるって気持ちがわかったから。死にたくないってわかったから、死なせたくないって思ったの。


 初めて、死ぬって言葉が怖いって思ったの

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