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絶望だけじゃない

 

 リームと俺の二人旅ももう、一月が過ぎた。いや、正確には二人と一匹の旅だ。


 そのもう一匹とは……


『ぴぎゃう!』


 ドラゴンだ。名前はクルム、俺がつけた。古代語で、奇跡という意味の『ミーラークルム』という言葉からつけた。ドラゴンに会えるなんて、奇跡に近いからな。……名付けが単純? 俺には名前をつける才能なんてない!


 リームが、クルムを最初に見たときはさんざんだったなあ。


 ++++++++++++++++++++

「あっ!そうだリーム。ちょっと、紹介したいやつがいるんだ」

「紹介したいやつ?」

「そうそう」


 ピィーーーーー


 俺が指笛を鳴らすと、バサバサッという音と共に上からクルムがやってきた。


「って、イタイイタイ。つつくなよ」

「……………………」


 俺がつついてくるクルムを、なんとか捕まえて抱きしめてリームの方を見ると、何故か無言で見つめられてた。


「どうした?リ……」

「ルキウス君!!」

「うおあ!なんだよ……」

「その子って、その子って!!」


 食い気味だなオイ。


「ああ、こいつはドラゴンの子ども。旅の途中で拾ったんだ。名前はクルム」

「やっぱりドラゴンなんだ!かわいい〜」

「抱っこしてみるか?」

「いいの!?」


 リームが目をキラキラさせながら聞いてくる。


「ああ。こいつ、結構人懐っこいし」

「わああ」


 リームにクルムを渡すと、顔をほころばせながら、優しく壊れ物を扱うかのように抱っこした。


 クルムが何故かドヤ顔してくる。……別に、羨ましくねーし。


「ありがとう、ルキウス君」


 リームが笑顔を俺に向けてお礼を言う。そのひだまりみたいな笑顔だけで、もう全部許せる。

 ++++++++++++++++++++


 うん……ちょろいな俺。


 ちなみに今、クルムはリームにじゃれてる。超じゃれてる。おかしいな、拾ったのは俺なのに。リームと会う前に拾ったから、俺の方が長くいるのに。俺がリームと会ったときなんて、森の中を自由に飛び回って、俺の方に全然来なかったたくせに。


 なんか、リームとクルムの両方を両方に取られた気分。


 ちくせう。


「クルム〜。ルキウス君がかまってもらえなくて拗ねてるから、ちゃんとかまってあげようね〜」

「な、拗ねてない!」

『ぴぎゃぎゃぎゃ』

「クルムも拗ねてるって、言ってるよ」

「だから、拗ねてない!」

「わかった、わかった。よしよし」

『ぴぎゃぴぎゃ』


 リームとクルム、そろって俺の頭をなでてくる。……拗ねてねーのに。


「そういえば、私達が力を使う時に唱える言葉も、クルムの名前の由来と同じ古代語なんだよね」

「そうそう。リームの『光よ(ルーメン)』は光って意味だし、俺の『水よ(アクア)』は水って意味だからな」

「ルキウス君はよく知ってたよね、古代語なんて」

「別に、俺も全部知ってるわけじゃない。ただ、昔から本とかを読むのは好きだったから、たまたま本に載ってたのを、覚えてただけだって」

「でも、すごいよ」


 笑顔で褒められた。うん、悪い気はしない。というかいい気しかしない。


「お前だって、この一月で俺が教えた古代語はだいたい覚えたろ?すごいじゃねーか」


 リームの頭を「よしよし」となでてやる。


「えへへー。ありがとう」


 目を細めて、心底気持ち良さそうな笑顔を浮かべてる。ご満悦のようだった。


 ……好きだなあ。


 って、俺今なに考えた!? 口に出してないよな!?


「ルキウス君、なに急に百面相してるの? なんだか、変な人みたいだよ」


 うん、変な人嫌だな。気をつけよう。


 けど、ホントに気をつけなきゃな。リームにバレちゃいけないんだから、この恋心は。


 だって俺はリームの恩人だから。恩人である俺から想いを伝えられたとしたら、助けてもらったからという理由で、リームは俺の想いを受け入れるかもしれない。だから、今はまだ(・・・・)伝えられない。ちょっと、男としてどうなんだという感じだけど、こうしてリームと旅をしていたら、助けられることもあるだろう。俺がリームに助けられて、俺がリームを助けた分とリームが俺を助けた分がおんなじになる日まで、この気持ちは胸の中に。


「ルーキーウースーくーん!」

「んあ?」

「やあっと気づいた。全然気付いてくれないんだもん。やっぱり、まだ拗ねてるの?」

「ちょっと、考え事してただけだよ。ていうか、まだも何も、そもそも拗ねてねーってのに」

「えー。ほんとにー?」


 そんな、俺とリームの拗ねてる拗ねてないの言い合いは、しばらく続いた。10分くらい過ぎたところで、クルムが『ぴいぎゃおー』と少し怒ったように鳴いたので、そこで言い合いは終了した。


「あはは。クルムに怒られちゃったね」

『ぴぎゃぎょぎゅー』

「仲良く、って言われちゃったな」


 楽しいな。


 今までは、こんな風に心が安らぐことなんて、一度もなかった。旅の中で、新しく知ったことに対するワクワクや、面白味を感じるなんてことはよくあったけど、その間もずっと、糸が張り詰めたみたいで、一瞬でも気が抜ける時なんてなかった。でも、もうそんな風に気を張る必要もないんだ。復讐が終わったからってだけじゃない。


 今の俺の隣には、リームがいるから。


「ん? どうしたの?」

「いや、なんでもない」


 今度こそ、リームのこの笑顔を守りたい。多分だけど、この旅は平穏無事とはいかないと思う。 それでも、その笑顔が曇らないように、守りたい。


「さてと、こっから先は結構でかい山だ。この山ん中で、3日〜5日、野宿することになると思う」

「準備は万全!いつでも野宿できるよ」


 なぜかリームが、全力笑顔だ。


「楽しそうだなお前」

「だって、山で野宿は初めてだもん」

「まあ、普通はそうだろうさ」


 ていうか、旅するとか、戦争に行ったことがあるとか、特殊な事情もないのに野宿したことはあるなんて奴、やだよ。その場合、なんでしたことあるんだってツッコミたいし。


「ルキウス君は、山で野宿したことあるの?」

「あー、一応あるな。片手で数えれるくらいだけど。基本的には避けてたからな。危ないし」

「えっ!? 危ないの?」

「あ、悪い。言葉が足りなかった。俺が山に登らなきゃならなかったのは、雪が積もってるようなとこだったから。そんなとこで山なんか登ったら、寒さもきつくなるし、視界が悪いのに平野より動物も多いから、危なくて仕方ないからな」

「なあんだ。よかった」


 うん、言葉って大事だ。変に不安がらせちまったな。


 でも……


「心配しすぎは良くないけど、安心しすぎも良くないぞ」

「え?」

「心配のしすぎで体が竦むのもよくないけど、安心して……悪く言えば楽観視して、怪我したりするのは、もっとよくない。だから、常に少し緊張してるくらいが丁度いいんだ」

「へえ〜」


 怪我なんてして欲しくないしな。なにより、町以外のところで大怪我しちまうと適切な処置ができなくて、治るはずのものだったはずが治らなくて、へたすりゃ体の一部がなくなったりするなんていう、悲惨なことが起きたりする場合もあるからな。


「その話には納得した。でもね、ルキウス君」


 リームが真剣な目でそう言う。どうしたって言うんだ?


「普段がただの天然ボケボケさんで、緊張感とか注意力とかを、いったいどこに捨ててきたの? って感じのルキウス君に言われても、全然説得力がないよ?」

「それは、言わないお約束だぜ。リーム」

「えー? だってー。ルキウス君、園にいるときに、何回なにもないとこでこけた?」

「……多分、3ケタ以下」

「ケタがおかしいし、多分なんだ」


 だって、仕方ねーじゃん!こう、日常生活してると色々気がぬけんだから。


「仕方なくないからね」

「!? 俺の心のつぶやきに返事をした……だと?」

「いや、普通に言葉に出してたよ」


 なんだと!


「結構独り言言ってるなあ、って思ってたら、心のつぶやきだったんだ」

「えっ。俺、結構言ってたわけ?」

「うん」


 そんな、邪気のない顔で言わないでくれ。何も言えなくなる。


 こう、穴があったら入りたいっていうか、むしろ掘ってでも入りたいっていうか。


「まあまあ、そんな落ち込まないで。人生生きてたら、いいことあるよ」

「壮大すぎじゃね?」


 まあ、いつまでも落ち込んでても仕方ないな。


「よし!俺復活!!」

「おー!」


 ぱちぱちぱち〜。と、リームが手を叩きながら一緒に盛り上がる。


「じゃあ、気を取り直して出発しようか」

「うん!」


 俺たちは山へと足を踏み出した。この大陸で最も広く、神話に出てくるぐらい古く、どこよりも生命いのちにあふれている山岳地帯。ディーウェス山岳地帯へ。


 この先に何が待っているのかなんて分からない。悲しい戦いかもしれない。苦しい後悔かもしれない。寂しい別れかもしれない。


 それでも、俺たちは知っているんだ。俺達の心に、希望の光がある限り、この先にあるのは、絶望だけじゃないってことを。





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