「いってきます」
かなりの間、更新がご無沙汰になってしまい、すみません。
私とルキウス君のけじめで、奴は死んだ。結局名前も知らないままだったな。まあ、その方が良かったのかもしれない。今は平気だけど、後からしんどくなるかもしれないから。名前を知らないまんまの方が人を殺したっていう重みが減るかもしれないし。
……私って、ずるいなあ。
「リーム。大丈夫か?」
「うん……」
ルキウス君が、心配して言ってくれた。「あはは」と力なく笑ったけど、逆に心配させちゃったかな。
「人殺し!」
誰かが声を上げた。
「でてけ!ひとごろし!」
「人殺しの化物!」
「私たちのお家からでてけー! 」
そこからは誰かれ構わず私を責めた。
覚悟してるつもりだったけど、辛いな。やっぱり。
(こういうとき、子供は残酷だな。たぶん、二度目の目の前で起きた人殺しという行為。一度目は山賊という悪の代名詞がやったことだ。けど、今回は違う。今回は、本来自分たちの側にいるはずの人間が、リームがやった。大事な人が死んで麻痺していた感覚が、二度目の人殺しで覚醒したってところか。一度目のときにできなかったことを二度目にやってるってことか。まあ、あの変な力も関係してるか。いきなり家族が、あんなおかしな力を使いだしたら当然怖い。その恐怖と、大事な人が殺された怒りの矛先が、リームに向いちまったってとこか。せめて、俺に向いてくれればよかったものの……)
「あなたたち、なに言ってんの!!」
「いいよ、レナ。覚悟はしてたから。大丈夫」
「嘘よ。長年の親友を騙せると思ってるの」
「え……?」
「今、すごく辛そうな顔してる」
本当に、レナには敵わないなあ。
「あなたたち。リームがいなかったらあたしたちはみんな死んでたんだよ。ううん、死ぬくらいはまだましかもしれない、奴隷として売られる可能性が一番高かった」
「「「っ……!!」」」
みんな、奴隷がどれだけ辛いかは知っている。この中には元奴隷の子も居るから。
「だからね、リーム……ありがとう。あたしたちを守ってくれて。例えあれがあなたの復讐だとしても、あなたがあたしたちを守ってくれたっていう事実は変わらないから。そして、これからもずっとあなたは、あたしの大事な親友だから」
「レナ」
頬を、何か熱いものが伝った。
「あ、れ?なんで私、泣いてるんだろ」
「嬉しいから……だろ?」
ルキウス君が答える。
「嬉……しい?」
「そう」
そっか……私、今嬉しいんだ。
そう思ったら次の瞬間から、次々と目から涙が溢れてきた。ありがとう、レナ。私の親友でいてくれて、ありがとう。
「いい友達がいてよかったな」
「うん!」
未だに止めどなく溢れる涙を手で拭いながら、私はルキウス君の言葉に大きくうなずいた。
レナ、何があろうと私たちはずっと親友でいようね。
「えっと、あなた……」
レナがルキウス君に声をかける。けど、名前が分からないみたい。
「ルキウス……ルキウス・アイシャーンだ」
と思ったら、ルキウス君が気づいたのか自己紹介した。やっぱり、ルキウス君って人のことをよく見てるな。
「ルキウス君ね。あなた、今晩の宿とかは決まっているの?」
「いや、特には。今日もこのまま野宿の予定だったし」
ああ、レナが何を言いたいのか分かった。
「それじゃあ、今日はここに泊まらない?」
「い、いや、でも、迷惑……じゃ」
ルキウス君が遠慮するように、どもりながら言う。
「全然。というか、むしろお願いって感じかな」
「は?なんで」
尋ねるルキウス君の顔は、ちょっと間抜けな感じがした。けど、それがさっきまでの落ち着いた感じと違って年相応に見えて、なんだか可愛く感じた。
「お礼をしたいから」
レナが笑顔ではっきりと告げる。
「お礼って……」
「リームが私たちを助けてくれた。けど、それはあなたの力があってだと思うの。だから、お礼……ね。…………イヤだって言ってもするから覚悟してね」
「お、おう」
ルキウス君、レナのペースにおもいっきり巻き込まれてる。やっぱり、レナはさすがって感じ。
そのあとルキウス君を空き部屋に案内して、葬儀を執り行った。葬儀の間中、みんなの泣き声がずっと響いていた。みんなみんな、涙を流し続けた。
あの後園の中を見て回ると、シスター・クレアだけじゃなく他のシスターたちも殺されているのを見つけた。どれもこれも、子どもたちには見せられないような凄惨なものばかりだった。
子どもしかいない今のここでは、簡単なものしかできなかったけど、ルキウス君が色々手伝ってくれたお陰で私たちだけでも簡単なものとはいえ弔いが出来た。ルキウス君には感謝してもしきれない。
ルキウス君がいなかったら埋めてあげることすらできなかったかもしれないから。ルキウス君が色々指示を出してくれたから、子供だけという厳しい状況でもお墓を作ることが出来たんだ。
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「リームとレナは、遺体を埋めるための穴を子どもたちと人数分掘っておいてくれ。掘り終わったら、子ども達は教会の中に。その間に俺は教会の中の血を掃除するから。終わったら呼んでくれ。俺が一人ずつ運んでくるから」
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あの言葉は、私たちを慮ってのものだった。大好きな人達の酷い姿を見せないようにという、ルキウス君の優しさだった。
実際、ルキウス君の手際はすごく良かった。奴らと戦っているときにルキウス君が言っていた、「俺はあのとき、全てをなくした。住む場所も、一緒に居る仲間も、守りたかった家族も。全部全部。壊された」っていうのに関係してるのかな。その時、ルキウス君は一人で遺体を弔ったっていうことなのかな。大好きで大切な人達をたった一人で埋め続けて。そのせいで手際がいいんだとしたら…………それはすごく辛いことだよね。
……ありがとう。本当に優しいね。どんどん好きになっちゃう。
その日の夜、月が高くなってから私はルキウス君の部屋を訪れた。
コンコン
「リームです。ルキウス君起きてる?」
「ああ、起きてるよ。ちょっと待ってろ、今ドアを開けるから」
そう言って、ルキウス君は言葉通りすぐにドアを開けて、顔を見せた。貸した寝巻き着ていた。それは、今はもういないけど二年前までいた私たちより一つ歳上の兄さんのものだった。残ってたはずと、レナが持ってきた。
「ごめんね。もう寝るところだったみたいだね」
「いや、いいよ。もうしばらくは起きてるつもりだったから。……で、どうしたんだ?」
「あの、ね……私も、ここで寝かさせてもらっていいかな?」
これは予想してなかったみたいで、呆気にとられた顔をしていた。
「いや、別に構わねーけど。……つかなんで?」
「子どもたちが、私を怖がっちゃって。まあ、人を殺したわけだし、子どもたちを怖がらせてまで一緒に寝るのもね。それで、今他に寝れる部屋っていったらここしかなくて」
あはは、と誤魔化すように笑いながら理由を伝える。
「……そっか。まあ、ベッドはそれなりにあるし、お前が気にならないんだったら俺は別に問題ねーよ」
ここで何も言わないところが、ルキウス君の優しさだよね。多分、今慰めるような言葉をかけられても、私は素直に受け取れない。きっとその言葉を拒絶する。そして、自己嫌悪に陥る。
ほんとに、優しすぎるよルキウス君。好きな気持ちを隠せなくなる。
「……あのね、ちょっと今から愚痴リームさんになるから」
「……は?」
私の突然の宣言に間抜けな声をあげるルキウス君。
「珍しいんだよ、こんなの。ほんとは、現れない予定だったんだけどね。でも、聞いて欲しいんだ。愚痴リームさんのお話」
愚痴リームさんを今までに見せたことがあるのは、レナだけだった。
私は愚痴リームさんな自分が嫌いだ。だってこんなの迷惑になるだけだから。私はいつだって、自分の理想とする自分でいたいのに。
ずっとそんな自分でいることが無理なのは分かってる。そんな風に我慢し続けたらいつか壊れてしまうことも知っている。まあだからといって、愚痴リームさんになる相手をルキウス君に選ぶのは、自分でもどうかと思う。でも、ルキウス君の優しさに負けちゃったんだよね。話を聞いてほしくなっちゃった。
……優しさのせいにする自分はもっとやだなあ。頭のなかで考えてちゃ、こんなやなことばっかりになっちゃう。だから、もう話そう。
そう、自分のなかで葛藤している間も、ルキウス君は静かに待っていてくれた。静かにじっと。でもその居住まいは、私に話さないという逃げの道も残されているように見えた。でも、ここで逃げたらもっと嫌な私になるから。
「私ね思わなかったんだ。嫌がられること、嫌われること、それは分かってたし覚悟もしてた。でもね……」
そこで、一瞬息をつく。
「怖がられるとは思ってなかった」
そう、怖がられるなんて考えてもみなかった。そして、それが何よりも辛かった。自分でもびっくりするくらい。
「後悔、してるのか?」
「……うん、そうだね。後悔してるのかもしれない。……でもね、もし奴を殺さなかったら私は一生憎しみにとらわれ続けてたと思う。何であの時殺さなかったのかって、そんな考えばかりしながら生きてたと思う。だから後悔はしてるけど、この後悔は必要なものなんだとも思ってる。それにね、よく言うでしょ『やらずに後悔するよりやって後悔する方がずっと良い』って」
「そうだな。それは、俺もそう思う」
「だから、いいの。これで。私は大丈夫だから」
私は笑顔で言う。自分自身に言い聞かせるように。この言葉は、ルキウス君に伝えるための言葉じゃない。私自身に言い聞かせるための言葉。
「けど、嘘はよくないな」
「っ……!」
「誰かに吐く嘘もよくないけど、自分に吐く嘘はいちばんよくない。そんな風に自分に嘘をつき続けてたら、自分の気持ちもいつかわからなくなるぞ。…………あのさ、今日は愚痴リームさんっていう、珍しいもん見せてくれただろ?じゃあさ、泣き虫ームさんも見せてくれないか?」
「泣き虫ームって、なにそれ。変だよお」
「それにもし見せたくないんだったら、ここがあいてるぜ?」
自らの胸を拳で叩きながら、笑って言うルキウス君。
「そうすりゃあ、俺にも見えねえよ。だから、な?」
その言葉で、私はルキウス君の胸に顔を埋めた。もう、これ以上我慢できなかった。泣きそうになる自分を。
「う、うう。……っく。…………ひっく。…………うう、ああ……」
ああ、もう。何でこんなに優しいかなあ。泣かないって決めてたのに。ルキウス君は私の決意を簡単に壊しちゃう。でも、それは決して悪いものじゃない。むしろ心地良い。だから困る。このまま、いつまでもすがり付いていたくなるから。
温かいなあ。あった……かいなあ…………。
その夜、私は泣き続けた。
どれだけ時間がたっただろう。もう、月も見えなくなっていた。かなり長い間、私は話して泣いていたらしい。
「ごめんね」
「謝ることじゃねーよ。それに、俺としては謝るより言って欲しい言葉があるなあ」
ニコッ、と人懐っこい笑みを浮かべて、私を抱き締めてた腕を少し緩めてルキウス君は言った。
「そうだね。…………ありがとう」
今の私に出来る一番の笑顔でお礼を言った。
そのあとは、もう夜も遅いと言うことでお互い自分のベッドに入った。けど、眼が冴えてしまって眠くはなれない。なんとか寝ようと思いながら眼を閉じていた。そしたら、ルキウス君に声をかけられた。
「リーム、起きてるか?」
「うん。起きてるけど……どうしたの?」
「なんかさ眠れなくて。……それに、お前はこれからどうするのかな~?と思って」
「どうする、か」
私だって、それを考えなかった訳じゃない。でも、その質問に答える前に私もルキウス君に聞きたいことがある。
「質問に質問で返すようだけど、ルキウス君はどうするの?」
「俺?」
「うん、だってルキウス君の目的は果たしたでしょ?……奴らに『復讐』するって目的は」
「ああ、そうだな。確かに俺の目的は果たした。……けどさ、俺はもう帰る場所がないんだ」
「え……?」
「俺がもと居た村は今はもう、ないんだ。俺の居た村が山賊に襲われたとき、奴らは村に火を放った。俺はあの不思議な力に目覚めたからなんとか助かったけど、他は誰も助からなかった」
それは、想像してなかった。大切な人がたくさん亡くなったんだろうとは思っていたけど、住んでいた村が完全に滅んでたなんて。
「だから俺は、旅を続けようと思う。それにさ、この半年旅をしてて気づいたんだけど俺、結構旅とかするの好きなんだ。自分が今まで知らなかったことを見たり聞いたりするのが、スッゲー楽しい」
ルキウス君が今言ってることは、本心だと思う。でも、ルキウス君の思いはきっとそれだけじゃない。住んでた村がもうないこともそうだけど、自分の帰る場所が、ただ自分が居ていい場所、自分の存在が許される場所それがもうなくなってしまった。それは、どんなに辛いことだろう。どんなに苦しいことだろう。どんなに哀しいことだろう。
でも、今の私には何もできないから。今はただ、私が選んだ選択を君に伝えるだけ。
「じゃあさルキウス君、わたしもその旅に付いて行っていいかな?」
「えっ、や……はっ?」
「私もさ、分かってるんだ。このままじゃダメなことくらい。こんな状態でいつまでもいられないことくらい。……でも、今すぐにこの状況をどうにかすることはできない。みんなが落ち着くまで、少なくとも半年はかかると思う」
「まあ、そうだろうな。あの子らがお前にきつく当たってるのって、大事な人がいなくなった悲しみを、紛らわすためでもあるんだと思う。そんで、その悲しみを癒すには多くの時間がいる」
私たちはこの悲しみを癒すことは一生できないかもしれない。それでも、せめて落ち着けるまでは待たないといけないから。
「それでいつか落ち着けたとき、辛かったからと言っても誰かに当たったって言う事実は、ずっと後悔し続けることになるから。私自身それはよく知ってる」
私だって昔、家族相手に同じことをして今でも後悔してる。だからせめて、あの子達にはそんな思いをしてほしくない。
「だからね、しばらく距離をおこうと思うの」
あの子達のため、なんて詭弁かな?本当は私が傷つきたくないだけなのに。そりゃあ、確かにあの子達に私と同じ過ちは犯して欲しくないと思う。けど、それ以上に私自身があの子達に言われる言葉に怯えてる。
「それにね、これが何なのかも気になるから」
そう“これ”、私の手に浮かんだ×印の先に四色の丸がついた紋様。いろいろ終わった後ルキウス君に聞いたら、ルキウス君にもあるとのことだった。実際見させてもらったら心臓の辺りだった。色も形も私と全く同じ。違うのは体のどこにあるかだけ。
村が襲われた時、ルキウス君の力は目覚めたらしい。ルキウス君の紋様は場所が場所だから、目覚めた時すぐには気づけなかったみたい。でも、そのあと着替えてる時に目について、気づいたって。
私は知りたいの。私達にこの力が宿った意味を。どうして私達なのかを。
「そう、か。まあ、俺としてはぜんぜんオッケーだな。旅の仲間が増えるわけだし」
「うん、ありがと」
「あのレナって娘にその話はしたのか?」
「ううん、それはまだ。もとより、まだ悩んでるとこだったから」
「すぐに話す必要はないけど、旅立つまでにはちゃんと話しておけよ。とりあえず、一週間くらいはここに置いてもらうことにするから」
「りょーかい」
そう言って、今度こそ私たちは本当に眠りについた。
それから三日たった。
その間に分かったことがある。ルキウス君はあの時とは打って変わって、すごく鈍臭かった。なにもないところで転ぶのなんて、両手足の指でも数えきれないくらい見た。
なんだろう、戦いの時のあの強さは普段の集中力を犠牲にして生まれてるのかな。うん、私は普通でいいや。
レナにはもう、旅に出ることを話した。ルキウス君に話した次の日に。私の考えをちゃんと全部話した。そうしたらレナは、
「そっか、それがリームの決断なら、あたしが反対なんてできない。でも、これだけは忘れないで。ここはいつまでも、あなたの帰ってくる家であることを。あなたの家がここにあることを」
「うん、忘れない。私は絶対また帰ってくる。ここに、私の家に」
そう言って私達は笑いあった。
「リームはリームの道を話してくれたし、あたしもリームにあたしの道を話そうと思う」
「レナの道?」
「うん。……あたしね、決めたの。シスターになろうって。前々から、考えてはいたんだけどね。でも、今回のことで決心がついた。あたしはシスターになりたい……いや、なる。そう決めたんだ」
やっぱり、レナはかっこいいなあ。すっごくキラキラした目で自分の夢を語る。
「だから、新しいシスターにはあまり来て貰わないことにしたの。だいたい週に一回くらいで……あ、教会の方には何人か常駐して貰うつもりだけどね」
「レナ一人でみんなの面倒見るの?大変じゃ…………」
「結構大きい子達もいるから、手伝ってもらえばそこまで大変じゃないよ。それに、そういうもしものために、週に一回来て貰うんだしね」
さすがだな。もうそこまで考えてるなんて。それこそ、反対なんてできない。まあ、するつもりもないけどね。
「頑張ってね、レナ」
「そっちこそ。…………ルキウス君との恋もね?」
……………………
「へっ?……ええぇぇぇぇーー!!」
「声おっきい」
「あ、ごめん。って、なんで?どうして気がついたの?」
「そりゃ、気づくって。何年あなたの親友やってるの思ってるの。あんな目、始めてみたわよ」
あんな、め?
「ちなみにどんな目だったのでしょうか?」
「『私、あなたに恋してるのっ』っていう目」
「うわあああ!そんなの絶対気づかれた。死ぬ、死んでやる。ルキウス君を殺して私も死ぬ!ついでにレナもー!」
「ちょっと落ち着け!」
「わっ」
恥ずかしさやらなんやらで、エキサイトしてた私にレナがでこぴんした。かなり痛い。
「大丈夫だって。ルキウス君は気づいてないと思う。なんか、そういうとこ鈍そうだし」
あー、それはなんかわかる気がする。でも、
「ほんとに?」
「……多分」
「やっぱり死んでやるー!!」
そのあとはもう、私がエキサイトしちゃって、真面目な話し合いにはならなかったけど、なんだか楽しかった。落ち込んでた気分が楽になった。ストレス発散になったのかな?
まあ、騒ぎを聞き付けたルキウス君がやって来て、私はさらなる混乱状態に陥ったんだけど、それはなかったことにしよう。いやもう、恥ずかしすぎる。
そして、旅立つ日になった。
昨日までの間に、旅に必要なものは全部町で買いそろえてある。準備は完璧。
「結局、見送りは私だけか」
「まあ、仕方ないよ」
あはは、と笑って返すけど、やっぱりどこか寂しいな。
「そうそう、リーム。あなたに渡すものがあるの」
そう言って、レナが持っていた袋から何か取り出した。何を持ってるのか気になってたんだよね。
「はい、これ」
渡されたのは、ピンクの花があしらわれた袖なしのロングコートだった。
「この花って……ジニア?」
「うん、シスターが好きだった花」
「花言葉は確か……」
「別れた友への想い。あたしはいつだって、あなたのことを想ってるからね」
また、頰を熱いものが伝った。
「あなた、ここのところ泣きすぎよ」
「うん、うん……。ありがとう。私もずっとレナのこと想ってる」
「リームちゃん……」
私を呼ぶ幼い声がその場に響いた。その声の持ち主は、扉の奥からそっと出てきた。
「どうしたの?」
「リームちゃんは、どこかに行っちゃうんでしょ?だから、お見送りがしたくて」
「私が怖くないの?」
私も意地が悪いなあ。そんなこと聞く必要なんてないのに。怖くないわけない、怖くても見送りに来てくれたのに。
「怖かったよ。あの時はね。あの時のリームちゃんは、いつものリームちゃんと違うみたいで怖かった。でも今のリームちゃんはいつもの、私たちのお姉ちゃんなリームちゃんでしょ?じゃあ、怖くない」
「………………」
「どうしたの?」
「……ただ、私はバカだなあって。みんなを信じれてないくせに信じて欲しいだなんて、虫がいいにもほどがあるよね」
「?」
「わからなくてもいいよ。ただ、そのままでいてね」
「よくわからないけど、わかった!」
ほんとに、敵わないなあ。この旅で、私も少しは進めるといいな。
「リーム、本当にいいのか?」
ルキウス君が少し心配したように顔を覗いて、聞いてきた。
「うん、気持ちは変わってないから。私は君と、旅に出る」
「お前が納得してるならいい」
「うん、ありがとう」
君との関係性も少しは進めるかな?
「それじゃあリーム……」
「リームちゃん……」
「「いってらしゃい」」
「いってきます」
私たちは、お互いができる最高の笑顔で別れを告げた。でもこれは、永遠の別れじゃない。再会を約束した別れ。だから、溢れる涙は拭う。
さあ、旅に出よう。