「俺は俺のために殺す」
先々週言ったばかりで、自分でもどうかと思うのですが、しばらく週一投稿は無理そうです。すみません。
「水よ」
俺がそう唱えた瞬間、奴らの目の前に水の膜で出来たドームが現れた。それはリームが放った光の矢のようなものを遮ると、途端に消え去る。
「ひいぃぃ~!」
「ばっ、化物!!」
なんとか間に合った。あと数瞬でも遅れていたら、リームは奴らを殺していた。でも、それは困るんだ。
「リーム。待て、待ってくれ。そいつらを殺さないでくれ」
「ルキウス君。邪魔するの」
「頼むから待ってくれ。そいつらには、俺も用があるかもしれないんだ。俺の“獲物”でもあるかもしれないんだ」
「かもしれ……ない?」
「ああ、そうだ。それに、その場の一瞬の思いで殺しても、後悔しないか?」
「後悔なんてしないよ。だって、私は殺されたシスターの無念を晴らすために殺すんだから」
「違うな違うな。お前は絶対に後悔する。俺は断言する。お前は後になって絶対後悔する。どうしてこんなことになったのかと」
「そんな、こと……」
リームが、静かに呟く。力なく。どこか認めているかのように。
その間に俺は確認する。奴らが、俺の獲物なのか。俺の殺したい相手なのか。
「なあ、この旗印に見覚えはあるか?」
奴らに、一つのボロボロになった旗を見せて確認する。
「あ?それは、俺らの旗印じゃねーか」
「そうか」
やっと見つけた。この3ヶ月、探し続けた奴らを。
「ルキウス君」
リームが、声をかけてくる。
「後悔ってどういうこと?」
「その復讐は、誰にも望まれてないってことだ」
「望まれて、ない」
「そう、誰一人望んでいない。いや、むしろ悲しむんじゃないか?お前が誰かを殺せば。それがどんな理由であれ」
「…………」
「さっき、隣の部屋で殺されていたシスターさん。あの人だって、お前が誰かを殺したら悲しむだろう?しかも、その理由が自分自身だったら」
「ルキウス君は、シスターを知らないでしょう!!」
「ああ、そうだな。俺はその人を知らない。でも、お前がさっき話してくれたたくさんの話から、シスターさんがどんな人かは分かる。お前をみたら一目瞭然だしな」
「っ……でも、ルキウス君も殺すんでしょう?!」
「ああ、殺すよ。でも俺は誰かのために殺すんじゃない。というより、俺が殺せばあの人たちが悲しむのは分かってる。だから、俺だって考えた。殺す以外に道はないのか。でも、なかった。俺は殺さないと、一生憎み続けて生きるしかないって分かったから。けじめをつけるために、俺は俺のために殺す」
これが、俺の決意だった。
「なぁ~に、ごちゃごちゃ言ってんだ?」
うるさいな。つか、さっきまでビビってたくせに。喉元過ぎ去ればなんとやらってか。
「まあ、そういうことだリーム。こいつは俺が殺す」
決意を告げる。リームに伝えるためというのもあったけど、それ以上に俺自身が揺らがないためというのもあった。俺は、あの時のことを後悔している。だから、(まあそんなはずはないけど)もしかしたら人殺しという行為を、躊躇ってしまうかもしれない。そのための予防策という意味合いもあった。
「誰が誰を殺すって?ああん?」
「はあ……俺がお前を殺すってんだよ。うるせえ奴」
「ああ?つか、何で殺すんだよ」
「心当たりならあるんじゃねーか?」
「ありすぎて分っかんねーんだよ」
ニタァと、凄惨に笑うその顔は、確かな人殺しの気配を感じた。確信した。ああ、こいつを殺しても、俺は後悔しない。と。
「じゃあ、教えてやるよ。」
俺は話し始めた。この、3ヶ月にわたる俺の旅の理由を。
「今から3ヶ月前、俺が住んでいた村を山賊が襲った。そいつらの名前は『山の野良』今、この国内で『野良』の名前を名乗ることを許されてるのは、お前ら『悪の野良』の配下だけだ。だから、俺はお前らを探していた。一番のトップを。……俺はあのとき、全てをなくした。住む場所も、一緒に居る仲間も、守りたかった家族も。全部全部。壊された。これじゃあ、恨んでもいいよなあ?」
「ルキウス……君?」
リームが、怖がるように俺の名前を呼ぶ。今の俺、そんな怖いかなあ?
「クハハ。お前も十分、狂ってんなあ。その目、その顔。まあ、俺らみたいなのに日常を壊された奴らは大抵そんなだけどな」
「じゃあ、まあ始めるぞ。俺の復讐を。……安心しろよ俺が殺すのはそこのあんたらのリーダーだけだ。他の奴らは二度と歩けなくするぐらいで許してやんよ」
「はっ。お前みてえなガキにそれが出来るかァ?」
「その余裕、俺がソッコーで打ち砕いてやんよ」
「お前ら、やれ!!」
その場にいた山賊達総勢十名が、俺に向かって襲いかかってきた。型もなんもねえ、無秩序な動きだ。かわすのは容易だった。
「おらあっ!……?」
「やっ!……?!」
次々と、襲いかかっては俺に骨を折られる。
一人目は転がしてから、右足を折る。 バキッ
次は、まず鳩尾に一発肘鉄を食らわせて、左足を逆方向に。 ガキン
三人目と四人目は同時に右と左から襲い掛かってきた。けど、ぎりぎりで俺がしゃがんだから、お互いが相手の顔に拳をめり込ませていた。 バコッ
そのまま二人揃って気絶したけど、念のために足は折っておく。目が覚めた後に、リームや子どもたちに襲いかかったら危ねーからな。 バキンッ
襲いかかってきた全員の骨を折り終えた俺は、奴らのリーダー格のところへ行く。
「お前、やるじゃねぇか。そいつらも、俺ほどとは言えなくても、それなりに腕の立つ奴らだったのによお。ダメもとで聞くけど、俺の下で働かねーか?給料は良くしてやるぜ」
「はっ。誰が。つか、俺ほどじゃないってことはお前はさっきの奴らより強えーのか?」
「ああ、まあ確実にな」
「そうかっ!!」
返事と共に蹴りをいれる。簡単にかわされた。強いと言うのは嘘じゃないらしい。
ガンッ
ガツンッ
バコッ
殴り合い、蹴り合いが続いた。それなりに長く続いたけど、優位なのは奴の方だった。まずそもそも、奴と俺とじゃガタイが違う。身長だって、奴が190ちょい俺が170位だから、頭一つ分以上の差がある。それだけ身長に差があると、リーチにも差が出た。
出来る大体のことは試した。死角からの拳。それを避けられたところでの足払い。目潰しや、急所だって狙った。普通の拳や蹴りなんかが入ることはあっても、決定的なものは一つも決まらなかった。
俺の拳はそんなに重くないから、いいのが入らないと実はあんまり勝てない。俺とは逆に、奴の拳は速くないが、一撃一撃が重い。一発入るだけでかなりのダメージになる。
あの力を使おうか、あの水の力を。多分、リームみたいに矢にして飛ばしたら、勝負は簡単に終わる。でも、きっと駄目だ。身を守るためならまだしも、あの力はこんな私怨だらけの戦いに、殺すための戦いに使っちゃいけない気がする。
ここまで来たんだ。あんなよくわかんねー力じゃなくて、自分の力で終わらせる。まあ、とどめを刺すときくらいは使うかもしんねーけど。
「お前の怒りって、その日常を壊されたからってだけじゃねーだろ?他にもなんかあるんじゃねーの?」
「ああ、あるな」
「俺、お前になんかしたっけ?」
「俺にはなんもしてねーよ。……けど、リームのシスターを侮辱した。リームのシスターは、きっと最後まで自らの誇りを失わず、けどここの子供達のために尽くした。そんな人だったんだと思う。それなのに、お前らはそんな人を殺し、その人の言葉を嗤った。それは、許されざる罪だと俺は思う」
ああ、そうか。言葉に出してあらためて分かった。俺はリームを傷つけられて起こっているんだ。リームのシスターを侮辱したことを怒ってないと言えば嘘になるけど、俺が今一番怒っているのは、リームを傷つけられたからだ。そう分かった瞬間、俺は何倍も強くなったような気がした。
バンッ
奴を床に叩きつけた。
「ぐわあっ」
情けない悲鳴をあげる。そんなことを全く意に介さず、まずはやつの足の骨を折る。ゆっくりと、痛みをより感じられるように。我ながら、悪趣味だな。
そして、俺は止めを刺そうとした。
「待って。ルキウス君」
「リーム?」
「私考えたの。私はどうしてそいつらを殺したいのか。考えたら分かった。私がそいつらを殺したいのは、私の大切な日常を壊したからだって。シスターの恨みを晴らしたいからとかじゃない。ただ、私がそいつらを憎んでいるから。ただ、それだけなんだって」
「……それで?」
「だから私も、そいつを殺していい?」
……
「リーム?」
「お願い。私に、復讐の機会をちょうだい」
「どうなるか、わかってんだよな」
「うん」
頷いたリームの目は、さっきまでの勢いだけで殺そうとしてたリームじゃない。ちゃんと、自分が何をしようとしててそれをしたらどうなるのか分かってる顔だった。
「どうやって殺すの?ルキウス君、武器とかは持ってないし」
「さっき使った力、覚えてるか?」
「あの光だよね」
「そうだ。さっき使うときに唱えてた言葉を唱えながら、イメージするんだ。こいつを殺すための武器を」
「分かった。……光よ」
「水よ」
俺とリームの手に、それぞれの武器が現れた。俺は水で出来た短剣。 リームは光で出来た剣。
「たっ、助け……て」
「お前は今まで、お前にそう言って命乞いしてきた奴を何人殺した」
「ひいっ」
「死んで……」
リームは憎しみを声に出しながら、俺は心の内で溜め込んできたものを無言で吐き出しながら、殺した。