core08:明日の向こうの花Ⅱ
>読みやすくしました。
レストラン街といってもお店は3件ほどしかなく一軒目はタブレットやシリアルそして缶詰のお店。二軒目はカフェのようで食事らしい事はみんなしておらず、端末を持って仕事をしているようにしか見えなかった。ローマンが三軒目で止まり笑顔で振り返った。またドキッとしてしまった。このお店はクレープ屋だ。数人並んでおり一緒に並んだ。
「食べてみたかったんです、この体は食べ物を消化はできませんが、味はわかるんですよ、でも残してしまうので・・・・・・その・・・・・・」
胸元に手をあてて、そしてちょっと上目遣いでとても可愛かった。何かを僕に頼んでいるのか。あ、食べればいいんだな。だんだんローマンの事が分かってきたような気がする。
メニューを見るとデザートやアイスなど種類が豊富で量もある。リナさんからもらったお小遣いのカードのシリアルを端末に読み込ませると10万円も入っていた。僕の生活費と同じじゃないか。ここは気前よく奢ろうと思ったが、このお金はローマンと一緒に戦ったお金だった。あんまりかっこよくないので自分が元から持っていたカードで支払う事にした。
「僕が奢ります、何食べますか?クレープは初めて食べるので、楽しみだな」
ローマンがメニューを見ていた。迷っているようだった。隣に並んでいた人がこちらを見てくる。おそらくアンドロイドがメニューを見ている事が可笑しいのだろうか、ローマンは人だけど外見は完全にアンドロイドだ。今まで自分が一緒に行動するなんて想像もしてなかったけどバスで会った男性の気持ちが少しわかるような気がした。ローマンがメニューを閉じた。
「決まりました、ストロベリーミックスを食べてみたいです。雪人さんはさっきからメニューを開いたり閉じたりしていましが、もう決まってましたか?」
僕の顔を覗き込むように笑顔でささやいてきた。当然決まってないのですぐ隣のフルーツアイス盛りを選んだ。僕達の順番が来たのでロボットの定員に注文した。
出来上がるまで少し時間が掛かるとの事で、ローマンにはパラソルの下のテーブル席で待ってもらった。お店によってはアンドロイド専用席やアンドロイド入店禁止などがある。今までまったく気にしてなかった。ここは対コア防御の実験都市の為か辺りにはそういったものは一切無かった。
クレープを受け取りローマンの前の席に座る。手渡しするとそっと指に触れた。温かい。
「美味しいですね、ベリーってたくさんの種類があって個々でも主役になれる、すばらしい果実だと思います」
確かに美味しい、フルーツミックスアイス盛りをがつがつ食べた。あ、ローマンにも食べてもらいたいと思ったときには先っぽだけになっていた。
「ごめん、こっちも食べたかった?あまりにも美味しくて全部食べてしまった。最近甘いもの食べてなかったから」
リナさんの料理を思い出した、最近誰かと食事することが多くなった。リナさんに会うまではずっと一人だったのに。
「すみませんが、私の分食べて頂けませんか?もしかして、もうおなかいっぱいですか?」
「た、食べるよ!まだお腹すいているし!」
ローマンが少しかじったというか、一つ一つの果実に口をつけただけの跡がある。これって間接キスになるのかと変なことを考えながら受け取った。さすがに2個は結構おなかに重く感じたがローマンが僕をじっと見ているので急いで食べてしまった。
「次のルートはショッピング街を抜けてランスポーツ会場へと向かいます、予定の時間通りですのでゆっくり向かいましょうあわてて食べなくても大丈夫ですよ」
「こうやって食べると、本当に美味しいね」
「ふふ、そうですね。綺麗な町並みと綺麗な空気。本当に素晴らしいですね」
背伸びをして大きく息を吸う。冷やされた唇に当たった強い日差しが反射する。ローマンの優しさにテレながらもショッピング街に向かう。ショーウィンドウには女性向けの服があるがローマンは一瞬目をやるだけですべて素通りしていった。
しばらく歩くと風景は一変して規則正しい道路や建物のデザインだった。いかにも実験都市であった。ローマンが上空を見上げてルートをサーチしているようだ。ランスポーツとは世界中で行われているアギルギアによる障害物レースの事だ。たまに端末のニュースで見かけるけどあんまり興味は無かった。一般見物も出来ずここら一体は立ち入り禁止になる。
ローマンの話によると各社の機体や操作技術を競い、優勝したり注目を浴びると賞金の他に最前線にいけるようだ。正直最前線に行きたいとは思わない。後ろについていく。この殺風景な景色の中に太陽によって照らされた金色の髪はおそらく遠くからみても目立つだろう、それはとても美しかった。さっきから見とれている場合じゃないと自分につっこむ。
マイクさんが僕の端末にランスポーツのマップを入れてくれていた事を思い出しポケットから取り出しマップを見ながら辺りを見渡すとあまりにも広く遠く感じた。ここで走り飛ぶのかと。まったく先が見えず振り返る。再生都市のような曲線的なビルは無く、四角くレーザー防壁に囲まれた真っ黒なビルばっかりだった。ここに住んでもつまらないだろう、買い物もさっきのお店しかない。学校も無いので若い人もいない。ぼけっとしているとローマンが振り返った。
「この辺りから、バスに乗りましょう、ルートのサーチは徒歩では無理ですから」
しかしローマンの視線が僕の後ろの歩道を見る。何故かローマンの顔から笑顔ががなくなる。まるで戦闘する目つきかのように、すると僕の背後から足音が聞こえてきた。そっと振り返る。
そこにはとても綺麗な少女が一人立っていた。どこかで見覚えのあるような。髪は綺麗な金髪でショートカット、赤く光る目、青い機体、これは戦闘用のアギルギアだ。ローマンよりも小柄ではあるがよく似ている。
「はじめまして、私はシリアルナンバーVKY010JN1K1、雷に花と書いてライカといいます」
びっくりした。おそらく他社の第四世代だ。しかも戦闘用のアギルギアだし、まさか襲ってこないよな、思わずひき下がってしまった。スッとローマンが僕の前に立ち髪をなびかせながら風と共に緊張を漂わせてきた。
「シリアルナンバーVKY005R、ローマンよ。あなた私より歳下でしょ、私の事をお姉様と呼びなさい」
余りにも唐突過ぎるローマンの言葉に僕が固まってしまった。初めてみた表情だった。しかし年下と言ってもシリアルナンバーが自分の方が先なだけではないか、意外というか相性ってなんだと思った。ローマンの事がわかった気がしたんだが。
すると雷花の動きが固まりキュイーンとファンが回転しているような音。沢山処理をしているような感じになっている。今度は雷花の口が開く。
「ごきげんよう、お姉様」
たった一言だった。あぁもう、僕の目が点になった。自分の目なんて見えないが分かった。さっきの高音とあの間は今のセリフの為に高価な戦闘マシーンが出した結果だっんだ。
ローマンは動かない。棒立ちでものすごく考えている。いやな予感がする、顔を覗き込むと怖い表情がだんだん優しい顔へと変化していく。
「ごきげんよう。雷花さん」
ネットで検索でもしたのか?そんな答えだった。僕のポケットの端末からメッセージの着信音がなるるマイクさんからだった。どうやら雷花もランスポーツに参加するようで用はライバルって事か。機体はロシア製の第四世代だが日本でライセンス製造した小型の格闘機との事だ。相当手ごわいぞと余計なことが書いてある。
思わず身構えてしまった。そうか僕と同じようにパイロットがいるのか。というかマイクさん見ているんだ。突然雷花は右手を上にあげた。
手首のパーツがガシャっと開き小さなカプセルのような物が中に入っていた。空に向かってドン、ドンと右手を爆発させた。
爆音にびっくりして情けない事に僕はしりもちをついてしまった。目線は僕を見ている。これはパイロットが僕を挑発しているんだ。そう感じた。ローマンが僕に手を差し伸べてくれて引き上げてくれる。せっかくのデートだったのに恥ずかしい。
「大丈夫ですか?あればバレルバーストといって、密着させないとコアは破壊できませんが敵を吹き飛ばすときに使います。私も装備出来ますよ。それはさておき、躾がなってないようですね」
ローマンの背中が少し開き機械が見える。ちょっとまってその身体で戦う気?相手は戦闘用だよ、まずいと思い背後からローマンに思いっきり抱きついた。女性型アンドロイドとはいえかなりの力がある。でも止めなくちゃ。戦うのは僕と一緒に。それと相手は彼女らじゃない。
「ちょっとまって、ルートサーチが終わってないよ、ここも監視カメラがたくさんあるだろうし戦ってはだめだよ。今回はランスポーツの下見だよ!」
ローマン越しに雷花が格闘技のような構えが見えた。完全にまずい。目が赤く光っている。本気の目だ。ローマンが僕の両手を掴み、そーっと身体から離す。ローマンの力が抜けるのがわかった。
「大丈夫ですよ、戦いはしません。あのパイロットはおそらく雪人さんの後に決まったんだと思います。まだ戦闘デビューはしてませんね。それと雪人さん。そんなに大胆だったんですね」
あっ、自分の顔が赤くなったのが分かった。結局自分がとった行動は仲裁ではなく、それどころか女性型アンドロイドは身体が柔らかく暖かくそしていい匂いがしたという体験だけだった。そんな感触を思い出していると雷花の構えと戦闘の表情が消える。両足にもエンジンのような機械がついており、小さな振動していたがそれも収まったようだ。
「そして、そこのあなた。今日から私の妹となった雷花を大切にしてください」
ローマンは雷花越しにパイロットに話しかけていた。僕と同じ学生なのだろうか、一度会ってみたい気もするが。ローマンはさあ行きましょうと道路の先を指差した。バスが遠くからやってくるのが見え、雷花が無言で立ち去っていくのがわかった。あの動きは帰還ルートに戻る時のような動きだろう。おそらくパイロットが切断したんだろうか。
僕達は一緒にバスに乗り、この殺風景な町並みをデートした。