core07:明日の向こうの花Ⅰ
>改稿内容 旧イラストを削除
>読みやすくしました。
朝食はシリアルだった。テーブルの上の手紙には『食べたらマイクに会いに行きなさい。訓練なし。』と可愛いウサギのイラストが描いてあった。
ウサギがすきなのか。『お小遣い』とメモがありマネーカードその下にはあった。シリアルコードを読み込ませるのが面倒なので後にしよう。いつもの服に着替えてマンションを出ると、まだ慣れない装甲車に入りこんだ。アイヴィーが運転席に居てマイクさんの所まで連れて行ってくれるとの事だった。
装甲車が走り出す。僕はコクピットにもたれ掛かり地べたに座る。アイヴィーを見ても何を話したらいいのか分からないので暫く前を見ていた。アンドロイドって何を考えているか分からないけど、実際にあって話すと人間らしいと思う。ご機嫌や顔色を伺う必要は無いと思ったけど表情が豊かだった。
しばらく車を走らせると見慣れなれない場所で車を降りた。辺りはレーザー防壁に囲まれた住宅街。駅の側の路地裏で太陽光は遮られ涼しくちょうどよかった。
軽くアイヴィーは奥を指差す。視線の先へと進むと青い機体が地面に横たわっている。これはローマンだろうか、おもわず目を疑ってしまった。フランスで一緒に戦い空を飛んだ人が無造作に横たわっているなんて。動かずともその美しい髪や顔は何故か洗剤で泡まみれ。赤い目は光っていなかった。マイクさんが隣に居た。
「見ての通りローマンの自身はここには居ない。見た目はローマンにしか見えないけどこれは戦闘用の機体でアギルギアだからな。汚れを洗剤とブラシで洗ってくれ」
と言いながらホースで水をバシャバシャ当てデッキブラシでゴシゴシ洗うのを繰り返す。ローマンは見事に泡まみれになった。雑すぎる。
こうやるんだと言わんばかりのドヤ顔で僕にブラシを渡しマイクさんは去って行った。横たわっているローマン。ホースの水で泡を流し全体を見ると傷だらけで落ちなさそうな汚れもある。
そういえばクモに襲われた時の傷がないぞ、その部分だけ新しいパーツだろうか。流石にデッキブラシでは気が引けるので雑巾と洗剤で洗うも落ちない、30分程洗っても落ちない部分があり仕方なくデッキブラシでゴシゴシ。念入りにゴシゴシ。
ローマンの頭がグラグラして地面にゴツゴツぶつける。可哀想だなと思い雑巾を枕替わりにしてみたがこれはこれで酷いな・・・・・・。
デッキブラシの音が裏路地で反響する。
「まるで洗車のようですね」
聞き覚えのある美しい声がする。振り返ると装甲車の影から金色の髪に白いノースリーブのワンピース姿の女性がいる。こんな薄暗く黒いレーザー防壁に囲まれた路地裏で白い肌は混じりの無い光を反射させる。そして涼しい風になびく金色の髪がとても眩しく、吸い込まれるような赤く光る瞳は天使かと思った。
そして綺麗で透き通るような美しい声。ローマンだ。思わず固まってしまった。そう、なにを話そうかまだ決めてなかった。
「あ、あのはじめまして、雪人です」
いったい僕は何を言ってんだ。確かに初めて会うが指を触れて同じ視界を見て一緒に戦った人なのに、急に恥ずかしくなってしまった。
「はじめまして、ですかね、ローマンですよ。そしてあの時私を受け入れてくれてありがとうございます」
そして笑顔。思わず僕も笑顔になってしまった。
「こ、こちらこそありごとう、あっ、ありがとう」
ありごとう。何を緊張しているんだ。そこにニヤニヤしたマイクさんがやってきた。装甲車のエンジン音がなっていたのに今気づいた。もう出かけるのかな。
「おいおい、はじめましてじゃないだろう。あっははは、これからローマンと一緒にランスポーツの会場を見てきて欲しいんだ。ローマンは初めてだから会場の地形データをサーチしてきてくれ」
また、むちゃくちゃな。いったい僕は何をすればいいんだ。ローマンを見ると目が合う、にこっと笑ってくれた。
「私が会場まで案内します、ルートを貰いましたから、行きましょう」
「あ、うん」
くるっとターンして歩いていってしまった。あわててデッキブラシをおく。あっちのローマンは泡まみれで洗い途中なんだけど・・・・・・。マイクさんにお願いしますと言って後を付いていった。
こっちのローマンはアンドロイドの身体。アンドロイドは法律で手足や肩を隠してはいけない。皆同じような袖なしノースリーブのワンピース。靴は履いておらず特有の足と靴が一体型の様な形。ネットで見たアンドロイドとはなにか雰囲気が違うな。特別仕様なんだろうかすぐに追いついて隣に並んだ。
「私の顔に何か付いてますか?それとも変でしょうか、この体は市販品のカスタマイズです、紅音さんのようにオーダーメイドじゃありません」
「っえ?紅音に会ったことあるんですか?最近シミュレーターで・・・・・・」
余計なことを言ってしまった。ローマンは何も言わずにバスに乗る。追いかけるようについていく。相変わらずバスには誰も乗っていない。自動だから運転手もいないので二人きりだ。でもローマンは座らなかった。バスの中にはアンドロイド専用のラインが引いてあり、その上に立たなければならないからだ。一緒に立つ。ローマンはアンドロイドではなくロストチルドレン。そう、歴とした人なんだから。
途中のバス停で男性と少女型のアンドロイドが乗ってきた。アンドロイドは目が光っているので一目でわかる。すると男性が話しかけてきた。
「すげえ、それ何処でカスタマイズしたんですか?初めて赤目を見た。私のは3体カスタムしたんですが何故か目のカスタマイズで赤はだめなんですよね」
男性の自己満足に対する質問に腹がたってしまったが、僕自身も少女型をじろじろ見てしまったせいかもしれない。だがローマンはロボットじゃない。
「特別仕様ですから、それに軍用ではありませんし、人です」
とついカッとなって意味不明な事をいってしまった。ローマンの気持ちも考えずに。
男性は何かしゃべりたそうだったが、どう見ても同類の目で僕をみていた。あんたとは違うよ。と睨んだが男性はバスの奥に座り少女型を遠目から見て楽しんでいるようだった。
「次降りますよ、目的地周辺です」
ローマンがやさしく落ち着いた声で教えてくれた。他には何も語らずに心をやさしく包んでくれた。『ごめん』と声を殺してローマンに伝えた。届いただのだろうかローマンは一瞬振り返ってくれた。
バスを降りる。ここは対コア防御の実験都市じゃないか。そういえばあったなこんな所。ランスポーツ会場と書かれた電子看板があるがローマンは反対のレストラン街を指差した。
「私、行ってみたいんです。地形データのサーチ以外は禁止されてませんし。雪人さんの休憩も必要でしょう」
「そうだね。僕はここ初めてだし広そうだから、先ずは休憩しようよ」
なんだかデートみたいになってきたぞ。この都市は研究者らしき人達が生活しているようで子供がいなく静かだった。木々が規則正しく植えてあり建物の殆どが黒いレーザー防壁で囲ってあった。