表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/79

core16:真実はとても美しく


 久しぶりによく寝れたと思う、僕の部屋はプレハブ小屋のままで、小窓は開けることが出来ず小さな日差しが入る。いつもと違うのはバタバタと音を立てて起きることはなく、そっと起き上がった。そう、隣に紅音が寝ているからだ。


 美しい顔に当たる太陽、目は閉じたまま。唇は朝露のように潤っていて、思わず指で触れてしまいそうになる。体のラインがハッキリと分かるスケスケの肌着、じっと見つめていると、だんだん眉間にシワがよってくるぞ・・・・・・。


紅音のたった一言。


「視界」


 あ、皆に僕の視界を共有していた。昨日の夜、デフォルトアイの共有をオフにしてたのに、寝るとオンに設定が戻るようだ・・・・・・。すると、シュミットから通信が来る。


「ーお、おまえ!やっぱりその貧乳の方がいいのか!ー」


「え!?シュミット?」


 紅音は突然起き上がり、凄い形相で今にも爆発しそうだ。すごく怖い。


「ーブラジル上陸作戦は、私たちもマーベリックから援護するからな、ここは暗くて静かなんだが、まさかモーニングコールがおまえのライブ映像とは、流石スケベだな。ドーラもびっくりして起きたぞー」


 えぇ・・・・・・。なんでそんな広範囲に共有されているの?次はシュツカートからだった。


「ーユ、ユッキー!もう、全員まとめてラブラブになって責任とるしかないよ!ー」


 そんな事聞いてないよ!でも紅音はくるりと背を向け、僕を殴ることなく着替え始める。下ろした髪は長くストレートで、後ろ姿はブレアそっくりだった。見とれていると、マーガレットが説明してくれた。


「ーう、えーと、あのー、ブラジル上陸作戦のルート周辺にはアンドロイドの闇市があります、エタニティドールの件のように視界に映らないように細工した敵が居るかもしれません。念の為、雪人さんのデフォルトアイの共有範囲を広げたそうです。相当高級な目ですので、リナさんからフル稼動するようにと、私が設定変更を頼まれまして、実は昨日の夜から・・・・・・ー」


 突然、紅音様が首を180度捻りこちらを睨みつける。頭が回転してるよ!


「はぁ!?よ、夜?」


「ーお、お姉様!ち、違います!昨日の夜は共有してません!私は断ったのです!だって!お姉様のあんな事やあんな・・・・・・。っは!何も見てませんから!ー」


 また、皆で同時にしゃべりだし混線する、ブレアの一言で終息したが、マーガレットは後で紅音に怒られそうだ。


 朝食の為に支度していると、紅音は先に外に出ていた。僕は半袖のパーカーに、かなり短い半ズボンにする。機械化された足ではGパンを履くのに時間が掛かるから。


 それにしても短い裾は何だか恥ずかしい。ドアを開けプレハブ小屋から出ると、冷たい海の潮風が当たる、海に溶け込んでしまいそうなくらいに深呼吸が出来た。


 水平線の向こうはアメリカ。周りを見ていると幾つもの戦艦や空母などで、艦隊だらけ。この鉄の塊に白い鳥達がついて来る。とても平和な光景で、船を利用して旅をしているようにも見えた。


 僕達は旅では無く戦い。帰る場所はここではなく約束した場所。大規模な戦いの中心に置かれている実感は無く、不思議と落ち着いていた。


 紅音の元にたどり着くと紅音が振り返ると呆れた様子だった。小さな溜め息。


「手が空いているわ、その手は何の為?」


 手をさしのべると、当たり前のように自然と繋がった。朝食はどうでもよくなり、二人で歩き続ける。生活感あふれるテント達を避けて空母の先端まで辿り着くと、紅音は足を止める。


「私逹はイギリス艦隊に戻る。機体の調整をして、そしてまた空を飛ぶ。どんなに近くに居ても、どんなに離れていても、空は一つだから、ほら、両手を上げるのよ」


 紅音は僕の手を握ったまま、両手を空に向けた。僕も一緒に両手を上げる。紅音は言った。


「朝は太陽、夜は星。でもずっと変わらず、今は見えていないだけ。今、見えている物が全てじゃない。心に残した物を信じれば、きっと同じ気持ちのまま、また会える。空はたった一つだけ、忘れないで、皆も見ているから」


「紅音・・・・・・、一つしかない空をみんなで守っていこう」


「そうね、誰の物でもない、願いを叶える星。たった一つの世界、私達で守る空は真実で、とても美しいわ、次の時代へ繋ぐわよ」


 紅音の言葉一生忘れないだろう、頭では無く胸に残った。デフォルトアイが勝手に紅音に焦点をあて記録する。便利な機能だ。すると、恥ずかしい事にお腹が鳴ってしまい、二人で食堂へ向かった。


 やけに今日の食事は豪華で、魚介類が多く貴重な野菜もあった。知っている人はおらず、ここには皆居るのに不思議な気分だ。紅音はブルーベリーを一つ摘み口へ運ぶ。


「皆、準備の為に居ないわよ。私も昼前にはここを出発する」


「そっか・・・・・・」


「寂しいとかいらないから」


 窓の向こうには白い鳥。デフォルトアイがカモメと教えてくれた。自由に羽ばたいている。その姿は紅音と重なった。


「分かってるよ」


 端末から小さくアラームが鳴りリナさんからの呼び出しだった。また急な用のようだ。紅音は大きな窓の前に立ち、外を見ている。優しい日差しに包まれて天使のような笑顔で話し始めた。


「リナの事だから、また面倒な話よ。でも今まであたし達の為に色々してくれた。雪人とあたしを結びつけたのもリナだから。早く行きなさいよ、ヘリポートで待っているわ」


「ありがとう、紅音」


 もう一度だけ手をつなぎリナさんの所へ急いだ。ひとりで歩く船内は寂しく、だんだんと戦いの事が頭に入ってくる。


 指定の部屋にたどり着くと、部屋とは言い難い場所で暗く狭かった。リナさんとマイクさん、それにアイヴィーも居た。


「ユッキー、手短に話すわ。マイク始めて」


「了解!」


 マイクさんがシリコンPCを使い何かにアクセスしているようだった。今まで何をやっているか分からなかったけど、デフォルトアイが補助説明を表示する。


「リナ、OKだ」


 突然真っ暗になった。アイヴィーの緑色の目だけが明るく当たりを照らす。リナさんが近づいてくる。


「今、オフラインで誰にも見られないし、聞かれないから話すわ。後3日でブラジルに超大型が発生する。雪人は父親に会ってローズオブナイト、アギルギアの設計図を貰う、そしてオリオンに会うのよ」


「ローズオブナイト・・・・・・」


「ローズオブナイトはエイブラムスが欲しがっている。誰にも渡しては駄目よ」


「皆で戦うのに必要じゃないのですか」


 暗くリナさんの表情が分からない。


「雪人がデスウォーカーを倒せる見込みがある。そうなればアメリカ奪還は現実となる。コア生命体を倒した後はどうするの?」


「平和・・・・・・?」


小さい溜め息が聞こえた。


「こんな狂った世界は二度と平和にならないわ、ロストチルドレンと呼ばれる倫理を逸脱した人造人間の量産化、そして機械に移植した使い捨て。人工コア生命体アリア、その人工コアを使ったレーザー兵器にシールド、一体誰が止められるの?そして人類の最終兵器アギルギアを手に入れたらどうする?」


「また、戦争が起こるのですか」


「当たり前よ。もう皆、次のこの地球の支配者を狙っているわ、そもそも平和なんてあったのかしら?400年前の第三次世界大戦で60億人が10億人まで減ったのよ。50億人が死んだの」


「50億人が死んだ・・・・・・昔はそんなに人がいたんだ」


リナさんは僕の手を取り言った。


「全てオリオンのせいだと言われているけど誰にも分からない。だからオリオンの子と呼ばれる雪人が会うのよ、コア生命体を倒し次の時代、人類が向かうべき世界とは何かを聞きに」


マイクさんのシリコンPCが光り出す。


「リナ、時間だ」


「ありがとうマイク、アイヴィーは雪人を連れてコクピットに向かって、最終調整するわよ」


「承知いたしました」


 僕はアイヴィーに着いていった。この世界は一体何に向かっているのだろうか。心配事ばかり増えるけど。今は生きること。それだけだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ