core15:運命は暁の前に
エタニティドール騒ぎは直ぐに収まった。僕は説明の為に軍に呼び出されたが、VRチャットでの少女との出来事は全て話さなかった。リナさんは軍と艦長に呼び出されて相当怒られたようで、次は無いと宣告された。
夜になり外に出る。小さな広場がありベンチにリナさんと紅音がいた。紅音はドレスのままで、その色は街灯よりも明るく吸い寄せられてしまった。
近付くと、紅音の表情は覚悟が決まった顔をしていた。
いつか来ると思っていた瞬間が訪れる。
「雪人・・・・・・、私にはあんたしか居ない。死から生まれたこの命、けして戦う為に生きてきたんじゃない。それを証明してよ。生きる理由なんていくらでもある。でも死ねない理由は一つしかないんだから!」
大きくて真っ直ぐな瞳、そして精一杯の言葉。涙が止まらず、全て僕に向けた気持ちで全て受け取る涙だ。
「紅音・・・・・・。僕は」
何故、君を好きになったんだろう。自然な事なのか。フランスで繋がり、ドイツで初めて手を繋いだ。離れてもまた直ぐに会えると当然のように思えた。紅音の中に僕がいると、僕の中に紅音がいると、お互いがそう思っている筈だと信じていた。
「紅音の存在を僕だけが証明してみせる、だから、ずっと、ずっと僕の中で輝いて」
小さな体と重なる。こんなにも強く、長く、繋がりを永遠に感じ、思い出が涙のようにあふれていく。
「弱いくせに、なによ、勝手な事言って、どうせ死んでも、生まれ変わっても、また私に出会うんだから、何度でも。この運命は変えられない!でも今は、今だけは私と一緒に生きてよ!」
「紅音、ずっと一緒に生きていこう」
海の音、風の音、少しずつ消えていく。夜空も見えず、心は流れ星のように何度も紅音の中に落ちていく。唇はそっと重なり、なにも考えず、なにもいらない。夢のように永遠に続く二人の物語が見えた。
気付いたらリナさんは居なかった、メッセージも入って無く気を使ってくれたんだだろう。手を繋いだままベンチに座り肩を寄せ合い何度も確かめ合う。
「リナが言っていた、ブラジルに上陸したら最後、デスウォーカーを倒し、超大型を倒さなければいけない。今回の戦いで殆どが死ぬと。私達が死んでも戦いは続く、最後の一人まで」
紅音は夜空を見たまま、流れ星を数えている。手を上げて掴もうと、一つ、また一つと。
「僕達が死んだら誰も倒せないよ、誰かがやるんじゃない。僕達がやるんだ」
「当然よ、私、もう、最強だから、誰にも負けない、雪人のお陰で不安がどうでもよくなって消えていくから」
紅音の手が握り拳に変わる。自信に満ち溢れた顔だった。
「紅音、昔の人は流れ星に願い事するんだって、そうすると願いが叶うって」
「なによそれ、こんなに雨のように降る流れ星に願いなんて、いくらでも叶っちゃうんじゃない?」
不思議そうに僕を見つめる。
「今は殆どが戦争のゴミだけど、本当の流れ星は隕石みたいだよ」
「へぇ、星の欠片が落ちてくるの?なにそれロマンチックじゃない」
髪をさわる仕草がこんなにも可愛く、いつもと違う髪型は魅力的で美しいから、また目が離せなくなってしまう。
「日本の資料館にあるみたいだよ」
「ふーん、じゃあ行くわよ、約束だから」
「勿論だよ、一番簡単な願い事だね」
「そうね」
紅音は再び流れ星を指で追う。握った手にそっと力を入れると、当たり前のように握り返してくれた。
流れ星のように消えていく命と、終えた命、その間で生きる人達がいる。この世界の終焉はすぐそこにあり、最後まで諦めない人達はどんな終わり方をするんだろう。
最後の最後まであがいてやる。何故なら僕は死ねないから。




