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core14:エタニティドール

 緊急メッセージを皆へ送る、けして離れないように、そして戦わないようにと。この状況ではライオットアーマーが適しているから軍に任せるのがいい。


 通路では警報が小さく鳴っており、赤いランプが点滅していた。見えない相手は危険だ。何故僕のデフォルト・アイでは見えるのだろうか、今はそんな事を考えている暇はなく、一番近いシュツカートとファウストの所に向かうことにした。


 なるべく周りを見渡して少しでも多く人物を視界に入るようにする。シュツカートとファウストの部屋に到着した。扉を恐る恐る開ける。すると後ろに居たアイヴィーが僕の肩を掴んだ。


「雪人さん、待ってください」


「え?」


 扉を開けてしまった。足元を見ると水浸し。それどころか部屋中水で濡れている。


「え?ユッキー?」


 声はシュツカートだった。何故か裸でびしょびしょに濡れている。ファウストも同じだった。思考が止まる・・・・・・。二人の側にはエタニティドールが倒れている、既に倒してたんだ・・・・・・。


 しかし場が凍る。シュツカートとファウストの顔が引きつり、僕は死を覚悟した。エタニティドールはうつ伏せになっており、背中が焦げている。恐らく水で電子プリント基盤が発火したんだろう。


「ユッキー!いつまで見てるの!ユッキーのエッチ!」


 スチール製の重いマグカップが僕の頭に直撃し、逃げるように急いで部屋を出た。扉の向こうへメッセージを飛ばす。


『ごめん!わざとじゃないんだ!』


 返事は無く、後からアイヴィーが部屋から出てきて説明してくれた。どうやら、地面に水を撒く事で、見えなくとも足跡が出来る。水を掛けて戦ったが逃げ回るし、電子プリント基盤がどこにあるのか分からないので大量の水を使用したそうだ。


「雪人さん、もうここは大丈夫ですから、ローマンさんを探しましょう、一人になってしまったようです、三姉妹はすでに部屋で合流したので大丈夫だと」


「よかった。紅音達は合流出来たんだ。ローマンの位置は分かるの?」


「さらに下の階に居るようです、リナさんが探しに行ってます」


「分かった、急ごう」


「私が先導します、狭い上に足場が悪いので気をつけてください」


 赤い警報ランプで視界が悪く、デフォルト・アイで色を調整しても見づらかった。アイヴィーに先導されて走っていると、艦内は異様な雰囲気が漂っていた。警備ロボや監視カメラに映らないという、殺人アンドロイドが隠れているからだ。軍人さんの中には子供をかばうよう固まっている人も居た。疑心暗鬼の目は皆を不安にさせる。


「ここです」


 アイヴィーが止まり、用具入れのような扉がある。こんな所に一人で居たのか・・・・・・。怖かっただろう。


「ローマン、僕だよ、開けるよ」


 すると先に扉が開いた。中は真っ暗でローマンの赤い瞳だけが小さく光っていた。しゃがみ込んだままのローマンは悲しい表情だった。


「雪人さんここは危険です、さっきリナさんから敵が近くに居ると言われました」


 思い出した。ローマンは敵が怖いんじゃない、暗くて狭い場所が嫌いなんだ。日本に一緒に居たとき教えてくれた。あの時はレーザー防壁のマンション、光の届かない真っ暗なベランダ、そこで同じ目をしていた。


「ごめんね、敵は撲達がなんとかするから」


 しゃがみ込んだままのローマンを抱きしめて、一緒に立ち上がった。赤く光る瞳は暗闇を照らす為にあるんじゃない。今は見えない輝かせたい景色を照らす為にあるんだ。だからこんなところに居ては駄目だ。


「雪人さん、また安心してしまいました、日本で感じた事、昔では無いのに、なんだか懐かしく感じてしまいました」


 突然、アイヴィーの表情が変わる。なんだ?なにが起こったんだ!?


「何か近くに居ます!見えないですが!」


「何も居ないよ!どこだ!」


 天井や人が入れそうな隙間を視界にいれる。しかしなにも居ない。端末の音センサーを起動すると、艦内の機械音に混じって他の機械音がする。すると遠くから人が走ってくる音を検知した。これはヒールの音?リナさんだ!そしてリナさんが叫ぶ!


「アイヴィー、放電!ローマンは感電しないように!後は耐えて!」


「承知いたしました!スパークします!」


「え?後?僕!?」


 今度はアイヴィーが男性の声で叫ぶ、僕はとっさにローマンをかばった。


「危険です離れて下さい、危険です離れて下さい、スリー、ツー、ワン」


「スパーク!!」


 アイヴィーの全身からバチバチと音を立てて放電された、強烈な光で目が真っ白に焼き付いてしまう。それに全身がしびれてる・・・・・・。びっくりした様子で心配そうにローマンが叫んだ。


「雪人さん!しっかりして下さい、私はなんともありませんから・・・・・・。あ!!」


 今度はローマンの驚く目線の先に残像の用に見える少女が居た。これは映像じゃない!実際にそこに居るぞ!それも僕とアイヴィーの間に。こんなに近くに!アイヴィーが右手を大きく上げて勢いよく振り下ろす!


「サンダァアアアー!チョップ!!!」


 アイヴィーの手刀がバチバチと音を立てて、少女の頭を直撃し火花が散る。デフォルトアイにはエタニティドールと表示され倒れ込んでいった。これでもう大丈夫だろうか、ほっとため息をついた。


 リナさんが合流しエタニティドールを調べ始める。


「まーた、ずいぶんな骨董品ねこれは。フォトシールド。たぶんこのスケベロボットの所有者は軍人ね。周りの色を取り込んで同化する軍用迷彩よ。だから雪人にも見えなかったのね。ローマンは囮で狙いはやっぱり雪人か・・・・・・」


「これで、3体目ですが本当に終わったのですか?」


「一番最初にハッキングされたのが、エタニティドールじゃないと、これで分かったわ、今、全員のセキュリティコードを更新させているから、もう人型は居ないはずよ。それにもう監視カメラにも映るはずだから逃げられないわ」


「そっか、良かった」


「良くないわよ、軍のマシンを使ってVRチャットに繋ぐとか重罪だし、ウィルスまで貰ってきて、このざまよ。一体どんな罰が待っているか・・・・・・」


「ご、ごめんなさい」


「マイクは今頃、火消しで死にそうよ、バーガードリンクあげたから今日は徹夜ね」


端末にピピピと通信が入った。


「ーすまん、リナ、俺がやってこのざまだ。現役ならこの程度回避出来たんだが・・・・・・。感染源は小型のロボットのようだ。このタイプのセキュリティの脆弱性を付かれたという事は、おそらくネットワークの増幅器としても使用出来る小型ペットだろうなー」


「まあ、いいわ、後で色々やってもらうから、とにかく感染源を破壊、最優先よ」


 やばい、リナさん滅茶苦茶怒っている・・・・・・。今度は僕の端末から着信音がなり、相手はマーガレットだった。


「ー雪人さん、こちらに小型ロボットが進入したようです、おそらく今の会話通りですと、感染源のペット型ロボットかもしれません!ー」


「分かった!今、そっちに向かうよ!」


「ーバカ人こなくていい!私たちでぶっ潰すから!ー」


 紅音が会話に割り込んできた。イライラよりも焦っている様子だった、紅音が焦るなんて危険だ!


「だめだよ!危ないよ!」


「ーいい!こっちくんな!ー」


 僕は紅音を無視して最短ルートを作成して向かった。


 何度も走り息がすぐに切れる、体力がこんなに無いとは、情けなかった。倒したエタニティドールは皆に任せ、上の階へと急いだ。マップを見ると紅音達のいる部屋はVIPルームのようになっており、家具が沢山あるようだ。小型ロボットだと隠れる場所が沢山ありそうだった。


「紅音!みんな!」


 叫びながら部屋に入る。まず先に驚いたのは三人の格好だった。皆、ドイツで見た純白のドレスで紅音はいつもの髪型では無く、上でまとっている初めて見る髪型だった。とても綺麗だ・・・・・・。しかし紅音は目をまん丸にして驚き怒る。


「な、なに勝手に入って来てるんだってーの!それに人のことジロジロ見てんなっつーの!」


「あっ!」


 突然マーガレットが驚く。マーガレットの頭上がらリスのような動物が落ちてきて、ドレス胸元から中に入っていった!


「危ない!マーガレット!」


 僕はとっさに捕まえようと手を伸ばした、エタニティドールをハッキングしたロボットは危険過ぎる!


「きゃー!雪人さん!何するんですか!お姉様達の前で!」


「バカ人!」


 掴んだのは何故かマーガレットの胸だった、捕まえた筈だったのに。紅音に背後からヘッドロックされる。


「だから、来るなって、言ったんだってーの!この変態バカ人!って!?」


 紅音が驚いた目線の先はブレアだった。冷静な顔が引きつっており、今にも叫びそうだった。両手でドレスの上から脚の当たりを押さえている。


「お姉様!」


「捕まえたわ!でも、かなり暴れるてわ・・・・・・」


 紅音のヘッドロックが外れて、その勢いで僕はブレアに突撃してしまい押し倒してしまった。ここはどこだ・・・・・・。白くて綺麗な脚が二本。ここはドレスの中だ・・・・・・。


「雪人さん!」


 ブレアに押し出され、また紅音のヘッドロックが決まる。なんだかよくわからなくなってきたぞ。


「このスケベ!変態!バカ人!ん!?ひゃぁ!?」


 紅音から今までに聞いたことが無い声が漏れた。また解放され、紅音を見ると顔を真っ赤にしている。


「こいつ!今度は私の中に!バカ人!こっちくんなぁー!」


「いた!」


「雪人さんは落ち着いて下さい!」


 マーガレットとブレアが焦り、駆け寄ってくる、しかし運悪く僕につまづき、ぶつかった。ドミノ倒しのように三人で紅音に突撃してしまう。


「危ない!」


 とっさに紅音を抱きしめるが、みんな倒れてしまった。僕の右手がうまい具合にリス型ロボットを捕まえていたけど、顔は紅音の胸に突っ込んでしまってた・・・・・・。死ぬかな?


「バカ人のせいで、こんなめに・・・・・・。」


 三人に怒られた後、リナさんの呼び出しをもらった。なんて日なんだ。


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