core13:オリオンの子
「ーここから先は雪人の記憶となる、俺はこれ以上行けない。記憶を辿りオリオンを見つけるんだ、ハッカーが必ず攻撃を仕掛けてくるから気をつけろ。強制離脱は意識を肉体に戻して左手の端末を操作、分かったかー」
「分かりました、行ってきます、マイクさん、ありがとう」
「ーこんな違法行為を国の機械使って出来るなんて、雪人のお陰だぞ、こっちこそ礼を言わんとな、気をつけろよー」
「はい」
雪景色は変わり、日本の街並みになる。ここは旧新宿都市だ、ボロボロのビル街に強い酸性雨、沢山の人々が居るけど、どれも顔が無く黒い体だった。雨の音だけで行き交う車は無音。よそ見をしてたら、人にぶつかりそうになる。黒い人の鞄に触れた箇所は空気のように感触が無かった。
ここは本当に僕の記憶なのだろうか、行ったことは無いはずなのに。真っ暗な街並みに一つの灯りの道が出来る、街頭や看板、お店のネオンが色付いて、何処かへ誘うようだった。
僕は早歩きでこの不気味な世界へと踏み込んでいく、足音には雨が当たらず、目の前だけが雨に打たれていた。目を凝らして灯りの道の先、ゴールだろうか、一つの店があった。喫茶店?いや違う。ドアを開けて中に入ると、カランカランと音を立てた。
オレンジ色の薄暗い明かりに目が慣れると、ひとりの女性。白いファーのコートに瞳は黄色、髪は銀、よく見ると幼い少女。ウサギのぬいぐるみを抱えていた。
「へぇ、凄いわね、ここに来るなんて」
少女は僕に近づいてきた。とても可愛らしいが、何処か怖い様子もある。
「君は僕の記憶?」
「そんな訳無いじゃない、逆よ逆、あなたの記憶に私が入り込んでいるのよ」
不敵な笑みを浮かべると、部屋の奥へと歩いていった。軽く振り返ると、僕を何処かへ誘っているようだった。後を追う。
「この世界はね酷いものよ、死ぬ為に命を作り、死んでいる者からは死を奪う、私はそれが許せない。例えヤツらからこの星を守っても、もう、何も残らないから」
少女は古びた木の椅子にギシギシと音を立てて座る、小さなマグカップを手袋のまま両手で持っていた。
「コア生命体を全部倒しても駄目なの?」
「はぁ・・・・・・・。全部?無理よ、無理。だって戦う前から負けているから、ヤツらには。もう人類はこの星を捨てるしか無いのよ、あなたって本当に何も知らないのね」
「僕は何も分からないよ、戦うのは皆を守りたいから、ただ、それだけで今こうして生きている」
少女は立ち上がった、胸の中心から黒いキューブを出した。怪しく光り、周りのオレンジ色の光を吸い込んでいく。
「これが、オリオン。あなたは必ず会うわ。どうやら本当に記憶には無いようね、オリオンの子なのに」
敵意は無さそうだけど、この子はマイクさんが言っていたハッカーなのかな?ウサギの人形持っているし・・・・・・。
「何故、僕がオリオンの子なの?」
「だってアナタは・・・・・・。ふう・・・・・・。まあいずれ分かるわよ、その時は選択をけして誤らないでね。アナタの記憶、ここにはオリオンは居なかったわ。それと、お土産届くといいわ、素敵だから。私、得意なの、うふふ」
突然、少女は部屋の中で雪嵐になり消えて行った。僕の記憶にはオリオンが居ない?少女はオリオンを探しに来たのかな。それにお土産ってなんだろう。
「ー雪人、戻ってこい!ー」
マイクさんの声が遠くから聞こえて来る、強制離脱を操作しようとした瞬間。
「逃がさない」
さっきの少女の声だ、両手ががっちりと押さえ込まれ動けない。なんだこの力は、外から肉体を押さえられているのか?それともこの世界で!?
「ー雪人、戻ってこい!ー」
またマイクさんの声が聞こえるけど、今度は近い。精神統一する。デフォルト・アイに集中して右目だけ開くと、目の前には少女型のアンドロイド!?足で両手を押さえ込まれている。まずい首を締められている・・・・・・。だんだん意識が遠のく。
「雪人さん、今度はロリータ型アンドロイドですか?こういった趣向は困りますね」
少女の背後に誰か居る。この声はアイヴィー!?
「えい!!」
アイヴィーだった。メイドとは思えない手つきで、手刀の一撃で少女型アンドロイドを倒した。両手が自由になり、とっさに僕は左手の端末を操作してVRチャットから離脱した。
「雪人さん、勘違いしないでください。私はメイドではありません、オペレーターです。マーガレットさんに言われてずっとそばで監視してましたが、まさか私の視界から消えているとは思いませんでした」
「ありがとう、アイヴィー、死ぬところだったよ」
「それはいつもの事だと思いますが、紅音さんが雪人さんのデフォルト・アイの視界を私に共有させて、初めて見えたんですよ。このロリータ型はアンドロイドの視界には入らないようです。かなり危険ですね」
「そっか・・・・・・。危なかった。」
すると、端末から警報が鳴り始めた。赤い文字が点滅する。『侵入者、三体、エタニティドールにカモフラージュ』
「アイヴィーこれって?まさかこの子が?」
アイヴィーがしゃがんで、少女を指で突っつく、一体何をしているんだろうか。
「指から電流を流してます、10万ボルトですよ、危険なのでトドメをささないと。さっきの技はライトニングチョップですが完全に倒し切れませんので。それにこのロリータ型はエタニティドールですね。愛玩具とも言われてます。雪人さんはもう間に合ってるかと思うので刺客としては30点ですね」
「へ?」
アイヴィーは少女をうつ伏せにして、白い服の背中を強引に引き裂いた。
「恐らく、これは難民の持ち物で、ハックされたと推測されます。背中にプリント基板が貼られてます。電流で焼いてしまったので調べられませんが、水で発火するタイプなので簡単に証拠隠滅出来ます。プロのやり方ですね」
「すると、後二体いるのかな?」
「恐らくそうです、しかし困りました。ロストチルドレンのアンドロイドボディでは
、恐らくこのエタニティドールを発見する事は出来ないでしょう」
参ったな、僕は見えるからみんなと合流しないと。武器は無いからどうしようか・・・・・・。
「雪人さん、私の目になってください。私が戦いますから」
「アイヴィー・・・・・・。分かった。でも無理しないでね、まずは皆と合流だ」
「承知いたしました」
アイヴィーの瞳はいつもと少し違う気がした。アイヴィーは銀のロケットを僕に見せてくれた。あれは日本で渡した二人の写真が入っている。




