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core11:闇を打ち消す者

 自分に目がある事を思い出す。視界に入ったのは右手だった。だが右手が敵を掴んでいる!?左手にはコアだ、敵のシールドコアを直接掴んでいるのか!これはいったい!?ここは、まさかデスウォーカーの上だ!!


 リナさんからの緊急通信を大量に受信していた!声が聞こえ、臭い、温度、次々と身体の感覚が戻り脊髄へ大量の信号が送られてくる!


「ー雪人!アリエッタが暴走している!止めて!コア粒子に完全に飲み込まれている!ー」


 コア粒子?考える暇もなく耳に激痛が!アリエッタが声にならない雄叫びを上げ、素手でコアを破壊していく。しかし疲弊しボロボロの機体は悲鳴のように音を立て装甲が崩れていく。


 アリエッタが泣いているんだ。早く助けなくては。


 一呼吸する。今やるべき事、繋がらなくとも考えは同じだ。


 僕の意識の外からやってくる光、ここだという所で重なる願い。紅音しかいない。そう、それは一瞬、ほんの僅か。敵探知用に射出したアースローミングがデスウォーカーの攻撃の矛先を僕達から逸らさせた。


 たったコンマ一秒、最高のタイミングで隙を作ったんだ。流石、紅音だ。


 時の止まった世界で僕はアリエッタを抱きしめる。神経と神経が交差し通り過ぎていく、もっと深い所まで。胸の中に暖かい光を見つけた。これは・・・・・・。僕だ。アリエッタの中に僕がいる・・・・・・。


「ずっと待っていてくれたんだ、ありがとうアリエッタ。さあ、翼を抱きしめて、一緒に帰ろう」


 だんだんと視界が安定し戻ってくる、右足から強く踏み込み、デスウォーカーから離れる。赤い嵐のど真ん中。FLDで確認する必要は無い。ここは地獄だから。


 通信が不安定だけど、アイヴィーから通信がくる。


「ーランダム・・・・・・レーザー射程内、FLDの危険サークルから脱出して下さい・・・・・・、マーガレットの解析により、ランダムレーザーのパターンを表示させます・・・・・・。現在の相性は20%ですー」


 続いてリナさんからのパイロットのみの緊急通信だ。


『ーユッキー!相性が120%を超えて、あなた達の脳にスパイラルスルー現象が起こったの、今の数値は当てにならないから、暫く繋いだまま、とにかく時間が無いから、強引に道を開くのよ!ー』


 FLDのルートが消えた。目標への矢印のみ。ランダムレーザーのコアアイコンが多すぎてどこから撃っているか分からない、けど両手と胴体上部あたりだと射線から認識できた。


少しずつ通信が戻る。


「ーなんだか長い夢を見ていました。風の中で歌う夢、大きな翼が奏でるの、恋の歌。もっと歌いたい。雪人さん、行きましょう、帰るべき所へー」


 無我夢中だった。エンジンが壊れるのを恐れず、ただ加速する。デスウォーカーの下をくぐり抜け、長距離レーザーをなんどもかわした。


 暫くすると、デスウォーカーの接触ルートを越えて、長距離レーザーの射程外に出た。足は止めずただ前を見て走り続ける。エルザもレベッタも無事だった。初めてブラジルの街並みを認識出来た。ここは人が住んでいた場所、平和だった大地。


「ーもう少しでゴールですね。ですが私の本当のゴールはもっと遠くにいるようです、そして、約束守って下さいね!」


「そうだね、約束、必ず会いに行くよ」


 だんだん視界が良くなり、少しずつ緊張が解れていく、呼吸が落ち着いた。アリエッタ、嬉しそうだ。


「嬉しい!えーと、あのー、と、突然ですが質問です!雪人さんは、どんなお洋服がが好きですか?」


 急にアリエッタの心が明るくなっていき、安堵に包まれた。これで助かるんだ。みんなが。やがて空から救助ポッドが降りてくる。しかし服とは・・・・・・。


「ふ、服?どうしたの?」


何故かリナさんが嬉しそうに返答する。


「ーユッキーはね!バニーちゃんよ!バニーちゃん!ウサギちゃんが好きなの!ー」


「リ、リナさん!確かにウサギの絵のパーカー着てますが、これはリナさんがくれたんじゃないですか」


「ーだって、ウサギいいでしょ、可愛いじゃないー」


「まあ、可愛いと思いますけど・・・・・・」


「ー雪人さん!ウサギちゃんが可愛いのですね!飛びっきりのバニーちゃんで会いに行きます!あ、紅音さんには内緒ですー」


「へ?」


なんだか凄く嫌な予感が・・・・・・。


「ーはぁああああ!?全体通信でなにいってんだっつーの!!バニーとかあり得ないし!そんな格好したら、バカ人が、バカ人が!あー!もう、あったまきた!私だってバニーを着るわ!覚悟しとけってーの!ー」


「え、えぇぇ・・・・・・僕なにもしてないのに・・・・・・」


「ー紅音さん、私のアンドロイドボディはアイドル仕様なんですからね!負けませんからー」


「ーはぁあああああ!?ー」


 紅音様の声が隣のコクピットから直接伝わって来そうだ。すると、シュツカートまでこのどうしようも無い会話に参加してくる。そっか、みんな一緒に戦ってくれてたんだ。


「ーあわわ、大変!ファウストだって負けないよ!そうだよね!?ファウスト!ー」


「ーえ!?わ、私は別に何を着ても構わないが、き、気分転換にバニーちゃんを着ても問題ないぞ、ならば勝負を受けよう!ー」


「え!みんな、勝負してないよ!マーガレットも何か言ってよ!」


「ーお姉様のバニー姿、見てみたいかも・・・・・・、って、じゃない!雪人さんしっかりして下さい!この、浮気者!ー」


 あ、あれぇ・・・・・・。それに紅音様が超ご立腹だ。どうして、こんな事に・・・・・・。すると紅音と繋がっているエルザからも通信が来る。


「ー雪人さん、紅音お姉様は私が暫くお借り致します、だって、ずぅーーと抱きしめてくれるって約束したんですからー」


「ーえ?ー」


 マーガレットが不意打ちをつかれたかのように驚いた。もうめちゃくちゃだ・・・・・・。全体通信でみんなが同時に会話する。途中だった朝食の楽しい風景がよみがえる。そしてそこにはアリエッタとエルザにレベッタの姿もあった気がした。


 輸送ポットがゆっくりと降下する。最後まで気を抜かないように。遠ざかっていく灰色の景色、助かったんだと心から安心した。


『ー雪人さん、心の記憶、そこに私はいますか?-』


『うん、アリエッタの景色は思いと色で溢れそうだった。歌が聞こえてくる、どこまでも、アリエッタの空で』


 アリエッタは笑顔のまま目を閉じた。時間が過ぎていずれ切断される、その時、最後まで両手を繋いだ。


 闇を打ち消し、アリエッタと二人だけの時間はとても美しく色付いた。



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