core09:ただ、ひとつの愛
私がパイロットになるとは考えてもなかった。自分の足で地面を踏み込まず、エンジンを動かせない不安。しかもロストチルドレン同士だから攻撃は出来ない。あくまでも移動だけ。
この暗いコクピットの中、雪人はいつもこんな場所で私を待っている。視界に入るよけいな情報を消して目を閉じる。雪人とつながる時と一緒だ、徐々に重なっていく感覚。この子は目を閉じて私を待っていた。
「あなたの、エルザって名前、素敵だと思うわ」
私達にとって、もっとも大切なのは名前。誰かがつけてくれたから。パイロットと共有するFLDには名前が表示されるけど、この機械の体で相手を見ると、映し出されるのは記号と数字だけ。名前は書かれていない。
繋がった目をゆっくりと開ける。信じてくれているからこそ、全身の力抜いて待っていてくれた。
「ー私とレベッタの名前、アリエッタがつけてくれたんです。ありがとう紅音さん。こんな状況ですが私の左足はもう有りません、それに左の補助エンジンも壊れてますー」
FLDを見れば分かる事だし、繋がっているから知っていたけど、直接伝えてくれた。
「気にしないで。私、足が無くったって、動けるから。それにレベッタも右足が殆ど動かないわね、それでもここから脱出するわよ」
すると、お姉さまから通信があった。雪人も、お姉さまも隣のコクピットに居るのに。通信のせいでお互いが離れて寂しいような気持ちになってしまう。
「ー紅音、アリエッタと雪人さんの高速移動について行くには、私達が協力しなくてはなりません、翼を完全に預け、回避と移動に集中しなさい。エンジンコントロールは二人を信用しなさいー」
「分かってる、アリエッタと雪人が全力で道を切り開く。私達はそれを信じて突っ切るのみ」
エルザとレベッタの左腕のアンカー同士を繋ぐ。この一本の鋼鉄のワイヤーでお互いを繋ぎ引っ張り合う事で、自由自在に軌道を変える事が出来る。教科書通りの回避方法だけど、時間内に到達するにはこれしか無かった。すると待っていたマーガレットから通信がきた。
「ー皆様、準備はよろしかったでしょうか、デスウォーカーが通り過ぎるのを待っていたら間に合いません。そしてここで待機していたら、黒い翼と再び接触します。現在の作戦ルートには、デスウォーカーとの接触時間は約50秒です。FLDにレーザー射程を表示させますので注意して下さい。ランダムレーザーの射程は約100メートル、20発のレーザーを秒間2度撃ってきます。けして射程内に入らないようにして下さいー」
「「「了解!」」」
マーガレットの微かな緊張が私を通してエルザに伝わった。私じゃなきゃ気づかない言葉の震え。エルザが未知の恐怖に動揺した。
それも無理は無い。マーガレットは、全てのアギルギアとコアの情報を共有する司令塔のような役目、それに太陽レールガンの座標補正を行う重要な任務もある、言わば全てを知り尽くした超ベテランだからだ。そのマーガレットが隠しきれない恐怖を抱えていた。
単純な恐怖。私はいつもどうしていたのだろう。どんな時でも乗り越えてきた。そういえばなにも考えてなかった。自分を人間と信じて自由の体を手に入れる。そして自由に生きるんだと、天井も道も無い世界で一人で突っ走ってきた。失う物なんてなにも無かった。だから怖くなかった。
だけど今は違う。皆と、雪人と一緒に生きていきたい、もっと慎重に、一人じゃない未来の自分が見えたから、それを失いたく無い、悲しませたくもない、だから怖い。
そう、大切な人を失う覚悟なんて誰にも出来ない。初めて自分の命に意味があったと思える。だからエルザにも知って欲しい。人の心の中にある命と共に生きる強さを。
「エルザ、あなたの為に死なないで。逃げてしまいたい時は私の中に来て。必ず受け止めるから。気持ちは後ろに下がってもいい、でも足だけは前に進むの。大切な人の為、大切にしてくれる人の為、だって、エルザは一人じゃないから」
「ー紅音さん・・・・・・、紅音さんの心の中にもう一つの命がある。とっても暖かくて理性が溶けてしまいそう。私にも伝わってくる・・・・・・。この気持ちを知った今、心が求めてる、だから必ず生きて帰りたい。一緒にー」
「分かったわ、ずっと手を握っててあげる。最後まで離さないから。だから思いっきり足を前に出して。翼も思いも願いも全て抱いてあげるわ」
「ー今まで理解出来なかった気持ちが、パズルのように合わさっていく、私はもう、怯まない、だって、あなたがいるから!ー」
エルザが元気をとりもどし、レベッタからも力強いエンジン音が聞こえてきた。お姉さまと繋がるなんて、私でもしたことないのに。きっと勇気を貰えたんだろう。そう思ってたら、レベッタ越しにお姉さまと目が合う。
「ー紅音、エルザの気持ちがレベッタにも伝わり強い翼が再び開きました。紅音が愛を持つことによって、その心が皆に力を与えます。この光の届かない世界で、ただ、ひとつの愛で命を照らすのが、ナイトの役目、やっと果たせましたねー」
「わ、私が愛を!?・・・・・・。私、そうなんだ・・・・・・この気持ち、心のそこから満たされていく・・・・・・。って!べ、別に、バ、ババ、バカ人なんぞ!愛してないし!バカ人!勘違いするなってーの!これは、お姉さまと皆を思う気持ちなんだっつーの!!!!」
「ー本当、可愛い妹よ、雪人さんが待ってますよー」
「待っているのは、私達なんだから!バカ人!さっさと走れ!準備万端だってーーーーーの!!!」




