core08:恋歌の翼
デスウォーカーについて分かっていることは、移動スピードこそは早くは無いけど、複数の長距離レーザーと中型レーザー、左手には大型レーザーを持っている。死角が無く隙の無い無数のコアシールド、特に厄介なのが同時に20連射するランダムレーザーのようだ。それにジャミングワイヤーも散布する凶悪な敵だ。
「アリエッタ、ここで黒い翼を倒す。二人はなるべく姿勢を低くしてて、必ず守から」
「ー分かりました、私の身体はもう雪人さんと一枚の羽で繋がっている。どこまでもついて行きますからー」
「敵の重く黒い翼とは違うのだと見せてやろう!このコールドガンだと弾速が遅く、高速移動中では10メートルも離れると簡単にかわされてしまう、なるべく接近して建物よりも低い位置で戦うよ。アリエッタのエンジンは力強く凄い加速だから一度張り付いたら、ブレーキなしでいくよ!」
「ーはい・・・・・・。私はまた、怖くて心のブレーキをかけてしまうかもしれません。でも、その時は遠慮せずに私の背中をおもいっきり押してください、何度でも何度でも、お願いしますー」
「その必要はないよ、アリエッタはもう強いから」
「ーうれしい、私の指先からつま先まで心地よくて、暖炉のように暖かい人。雪人さんの胸の中、いつまでも重なっていたい。私の翼、なんだか今、光輝けると思う。こんな気持ちは初めて!ー」
「行くよ!」
勇気を持った右足から踏み込む、風が見える。こんな感覚は初めて。これがブレダの性能。いや、これはアリエッタの翼から射し込んでくる光だ。黒い翼の赤い軌道が単調な線に見えてきた。今までは複雑で先の読めない恐怖の線だったのに。
「ーブレダ起動します!ー」
建物の壁に衝突する事も無く、超低空で高速移動する。足を地面に着く度に跳ね返る反動があっても、アリエッタの繊細なエンジン制御によってバランスを崩す事無く、徐々に加速していく。家々はどれも同じに見えて来て、流れる視界の中、黒い翼のレーザーを華麗にかわしていく。
ブレダは再び5キロ離れたデスウォーカーを捕捉する。アリエッタは高速移動とブレダだけに意識を集中させる。少しでも黒い翼に気を取られてはいけない。長距離レーザーが常に狙っているからだ。
「黒い翼が距離を詰めてきた!レーザーでの連続攻撃が始まる!こっちも一気に距離を詰めるよ!」
高速移動はこの傷だらけの機体に相当な負担が掛かる。僕と繋がる前にも何度も闘っていたから、そろそろ限界の筈だ。だけどアリエッタは僕を信じてくれている。あと一歩、一歩でも多く踏み込み加速させようと。これ以上無理出来ない。チャンスは一度だけ・・・・・・。
黒い翼を目で追うのが精一杯だった。コールドガンの弾は直径10ミリぐらい。これを見えないメインコアに当てなければならない。人間が作り出した大気汚染と電子汚染、こんな汚れきった世界でも生き延びたいんだ!
思いが共鳴する。アリエッタの胸の中心から一つの光が螺旋を描くように動き出す。
「ーこんな私でも、一緒に飛んでくれる人がいる!私の知らない心が、歌うかのように飛んでいる、これは造られた命だからじゃない!今!自分の意志で飛ぼうとしている!この大空で歌わせて!一緒に世界を守りたいから!ー」
「アリエッタの翼、感じる!心の歌が聞こえてくる!」
アリエッタと手を繋いだ。力強くそして前へと突き出した。翼が開く。
「「全ての空は繋がっている!届け!恋歌の翼!!!」」
流れる視界が止まる。黒い翼の動きがスローモーションになり、メインコアまでもが見える。僕たちの動きに無理矢理反応するかの用に左腕のシールドを展開する。そうはさせない。シールドと腕の境目を狙い、蹴りでシールドごと腕を弾く。
スローモーションの中、超高速で進む体を回転させ、コールドガンで狙いを定める。左の翼、左肩、左腕を順番に一発ずつ撃ち抜いていき、完全に動きを封じた。レーザーを撃つ隙すら与えない。一瞬だった。たった10ミリの弾丸は人の拳サイズのメインコアの中心を貫いた。
黒かった体は赤く染まると同時に散っていく。いつもは見えない赤い粒子が血のように見えた。倒したんだ・・・・・・。アリエッタのスパイラルシフトは凄い。フレームの加速がとてつもなく早く、そして鋭い。その代償として装甲が所々はがれ落ちてしまった。そういえばスパイラルシフトは使用不可だったはず・・・・・・。
「ーは、初めて、スパイラルシフトが出来ました。雪人さんのお陰です。黒い翼も倒してしまいましたね。しかしブレダが・・・・・・。壊れちゃいました、ごめんなさいー」
ブレダが・・・・・・。すると皆から一斉に通信がくる。そうだった、スパイラルシフト中は通信出来ないんだった。忘れていた。
「ーバカ人!!そうやって何度も何度も無茶するなって、言ってんだってーの!あんたどうせ、デスウォーカー相手に突っ込むんでしょ。バカの一つ覚えなんだから!ー」
「ーまーまー、紅音ちゃん、このリナお姉さまに任せなさい。ユッキー、簡単に説明するから、よーく聞いてなさい。回収ポットのルート変更は不可。他の負傷したアギルギアを何体も乗せているからね。今回無理言ってこの子達を乗せてもらえるのもかなりラッキーなのよ。燃料だってギリギリな上に時間制限もあるわ。まあ悪魔の巨人を倒せとは言わないけど、軽く接触して逃げ切りなさいー」
「ー雪人さん、ローマンです。エルザとレベッタのパイロットも限界です。代わりにブレアさんと紅音さんがパイロットになります。お二人を先導してください、そしてマーガレットさんが近くの通信機を使って、情報収集を行います。準備はもう整ってます、私はお役に立てず、ごめんなさい・・・・・・ー」
「ありがとうローマン、フランスでローマンとのスパイラルシフトから僕は強くなれたんだ。だから声が聞こえるだけでも僕は心強いんだ」
「ーそうやって、いつも言葉だけで優しくしてくれる雪人さんは、なんだかずるいですー」
「あはは・・・・・・。ローマンの声は本当に綺麗で心が落ち着く。もう、僕たちの準備は出来たよ」
アリエッタの心から少し締め付けられるような感覚がある。するとアリエッタから僕にしか届かないメッセージがFLDに送られてくる。
『ー雪人さん、なんだかとっても楽しそう。私の知らない人ばかりで、雪人さんの心の記憶から伝わってくる皆との明るい風景。でも、私はまだそこには居ない。色彩の着いた私も風と歌と共に残して欲しいなー』
『僕の心の記憶か・・・・・・知らなかった。こられからはアリエッタも皆も居るよ、一緒に飛びたいからね』
『ーなぜ、バカ人さんって呼ばれているのかが、分かった気がしますー』
『え!?アリエッタもそれ、言うの!?』
ゆっくりと深呼吸する。巨大な敵に立ち向かう時は心を張り付ける緊張はいらない。少しでも後悔したくないんだ。皆と一緒だから。
「ーバカ人、そして3人とも。私たちは飛ぶだけ為に生まれてきたんじゃないわ。ムカつく奴を全てぶっとばしていく。全力で!ー」
紅音がパイロットになるなんて信じられなかった。だけど紅音の強さは誰もが知っている。繋がっていなくとも、誰かが紅音を信頼しているのを初めて感じる事が出来た。




