core06:ロストチルドレンⅡ
>読みやすくしました。
「いけます。ルート表示再開してください」
訓練用のオペレーターにお願いをする。
「-これより、シミュレーター訓練を行います、相性は70%固定です-」
仮想空間とはいえ深呼吸できた。体のゆれと視界が一致する。躊躇い無く右足から一気に踏み出した。
エンジンが爆発する。音と共に加速すると視界がぐんぐん高くなり、200mはジャンプしただろうかまるで鳥。いや飛行機のようだった。
訓練メニューが表示され続けてアナウンスが流れる。
「-高速飛行訓練を開始します、アフターバーナーを使用してください-」
いわれるがままにアフターバーナーを使用した。衝撃波を背中に感じたとたん目の前の風景が線となり爆音を後ろに置いてきた。なんてスピードだ。しかしバランスを崩してしまい失速してしまう。
何とか着地できたが地面に衝突したら一発で大破だな。気持ちを取り直して空を見上げると自分が通ってきたルートラインが赤で表示されている。
すごいな・・・・・・。あんな遠くからジャンプしてきたのか。アフターバーナーを使用したルートが赤い二重線で表示されており、赤いラインがぐにゃぐにゃに曲がっていた。バランスを崩すと一発で制御不能か
・・・・・・。
「すごい加速でしょ。アフターバーナーを使用する状況は緊急離脱か飛行型と遭遇した時に敵を逃がさないようにする為ね。必ず習得して」
リナさんいわく、第四世代はアフターバーナーが無い。それは敵レーザーの回避能力を大幅に上げて小回りが利くように設計され接近で戦えるようにするためだと。しかし紅音の場合は高速飛行で誰よ
りも早く敵に接近してコアを撃破する。さらに敵の注意を引く敵を引き寄せるそうだ。ちょっとそれは恐ろしいな。
敵を倒すとメインコアから小さなコア結晶が出てくるそうだ、それを回収できるのは倒した機体の会社だけ。コア結晶は加工してコアエンジンや対コア弾丸などの兵器、レーザー防壁など様々な用途に
使用出来る。それは全て奴らと戦う為だと言うけど。
そんな貴重な存在なので中には兵器だけを戦場で貸し出し撃破したら数%コア結晶をもらう会社もあるようだ。そう敵の奪い合いだ。
暫くすると慣れてきてアフターバーナーでの高速飛行訓練を続けそして射撃訓練を開始した。射撃時の紅音の癖になれない。高めに銃を構える癖だ。10m先のサッカーボールほどの的にすら当たら
ない。
使用するのはスマートパルスライフル。それは紅音の身長よりも大きい。カートリッジタイプのバッテリーから電力を供給して、長さ12cm程のコアを加工した超高密度質量弾をレールガン方式で打ち出
す恐ろしい兵器だ。有効射程距離が100mととても短いが、敵メインコアに当たれば必ず倒せる。
通常の弾丸などでは敵のメインコアを直撃しても完全に破壊しないと再生してしまうらしい。この超高密度質量弾は再生されないのでとても高価な弾丸との事だ。
だけど4発しか携帯できないのか。銃自身が高速飛行時のバランスを保ってくれるのでありがたいが・・・・・・。それにしても何度も何度も狙って撃つが当たらない。
いくらレールガン方式で反動が無く高速飛行時でも射撃出来るとはいえ、これはかなり癖があるぞ。シミュレーションだから撃ちまくれるがあたらず。実際の戦闘を思うとぞっとした・・・・・・。
「E.B.R.Sを使用できますか?」
思い出したかのようにトレーニングルームの天井に向かって叫ぶ。確か紅音が絶対的な信頼をおくシステムだったようだが。使えなければだめなんだろうな。
装甲車の中にいるオペレーター、アイヴィーミドルではなくこの訓練用アナウンスからの返事を待つ。
「E.B.R.Sを使用可能にしました。開始後、約5秒維持できます。連続使用はできません。次に使用できるまでの時間、ディレイタイムが約30秒です」
一度使用すると30秒待つのか、10分の戦闘で何度も使えいな・・・・・・。とりあえずE.B.R.Sを実行しよう、百聞はなんたらだ。
「E.B.R.S!!」
思いっきり叫んだ。格闘ゲームのキャラクターの必殺技の台詞のように。すると一瞬息が止まり心臓の鼓動がこだまするドクン。これきっついぞ。脳内で白目をむいたのがわかる。FLDの残弾表示等のす
べての表示がなくなってしまった。
自分を中心にオレンジ色の球体が出現し、目を凝らしてみると小さな文字で『30m』これはこのオレンジ色の球体の半径のようだ、ビビと電子音がなる。
サッカーボール程の的が飛んできた。当てなくてはと思ったら勝手に銃口が向きロックオンし続ける。引き金を引くと的を打ち抜いた。殆ど狙って構える必要がない。ヴィヴィと警告のデジタル音がなるとE.
B.R.S開始から5秒たったようだ。
オレンジ色球体の空間がはじけFLDの表示が復活する。ふぅっと息をついたのはリナさんだった。
「そのオレンジのドームの中に入ってきた対象をどうするか決めると、アシストしてくれるのがE.B.R.Sよ、レーザーを避けるのもできるし、接近戦を挑むのもいいわ、複数の対象を選べるから順番に処理をし
ていく。第四世代のアシスト系は超反応、E.B.R.Sは一つ一つ考える必要があるの」
リナさんはずっと自分を見てくれているようだ、もうあの話から1時間以上はたっているから疲れているだろうに。ちょっとうれしかった。今まで誰を自分をまってくれる人はいなかったから。
「でもね、ローマンのように相性が上がれば常時アシストし戦闘スタイルに合わせて、攻撃、回避、飛行アシストを変えるわけじゃないから、使用タイミングには君のセンスが必要なの。もたもたしていると紅
音ちゃんに嫌われちゃうかもよ?」
紅音ちゃん・・・・・・。怖くなってきたぞ。訓練を再開する事にした。時間だけが過ぎていくが進んでは下がっての繰り返しだ。だんだん紅音という存在が大きく感じるようになってきた。
這いつくばって、しがみついて、それでも生きようとたくさん練習をしたんだろう・・・・・・。ちゃんと答えられるようにがんばろう。
それにきっととてもまっすぐでまじめな性格なんだろうな・・・・・・。
「今日はここでおしまいね。部屋に戻ってゆっくり休みなさい。明日はやってもらいたいことがあるから、それともまだ続ける?私は部屋に戻るけど晩御飯つくってあげるわよ」
リナさんも疲れているんだろうに、晩御飯というワードにちょっと戸惑いがあったが、訓練は中止することにした。トレーニングルームは見飽きた風景だ。殺風景で自分がどこにいるのかも忘れてしまう。
「わかりました。訓練を中止してください。ちょっとおなかすきました」
「-訓練を中止します。クールダウンしますので、呼吸を整えてください-」
全身にに痺れがやってくる。手の暖かさに足の裏に血液が回りむずむずしてかゆくなってくる。今まで死んでたんじゃないかってぐらいに冷たい体に血液が充満した。心臓がバクバクと動き出す。なんども
深呼吸して落ち着かせた。一気に疲れがやってきてしまった。FLDの表示もなくなり目の前のは真っ暗だ。
ドアがゆっくりと開いていくとここは装甲車の中と再認識する。そして薄暗い空間にオレンジの光がゆらゆらと動いていた。
「お疲れさま。顔がげっそりしているわよ、栄養満点のごはん作ってあげるから待っててね」
リナさんが落ち着いた顔で僕を優しく迎えてくれた。手をとってくれてコクピットからでると、よたよた歩きで着替えを探す。僕の服がたたんであった。リナさんだろうか。
「どうもすみません、服までたたんで頂いて。それと訓練は全然だめでした。もう少しでコツがつかめるような気がしますが。また明日がんばります」
「一度に詰め込みすぎだったけど、思ったより進んでいると思うわ。紅音での出撃はおそらあると思うから必ず習得してね。じゃあ部屋へ戻りましょう」
マイクさんはすでに居なくどうやらランニングしているといっていた。装甲車から外に出ると乾いた涼しい風が新鮮に感じた。必死につかもうとした風がこんなに簡単に流れ込んでくるなんて。大きく息を吸
うと吐き出すのが持った無いくらいだった。
今回はシミュレーターだからだろうか。ローマンとの時はすべてが自然と感じたような気がした。新しいことばかりの体験だった。しかし本当の新しい体験はこの後にまっていたのはいうまでもなかったのだった
。
リナさんの後ろに付いて行きエレベーターに乗る。ほかの住人ともすれ違うことなくセミの声だけが聞こえていた。レーザー防壁の中に入ってしまうとその季節さえも感じることができなくなる。部屋にたどり着
くと朝までは無かったテーブルとイスがあった。
「意外とレンタルオペレーターって役に立つのよね、テーブルとイスをアイヴィーに組み立ててもらったのよ。まさかオペレーター業務以外だからって請求されないわよね・・・・・・。雪人君のお給料も出るけど請
求されたら引くからね、あははっ。とはいっても学生さんのお小遣い程度だけどこの美人と衣食住がそろっているから文句は言わないわよね!」
苦笑いするしかなかった。確かに美人なんだが・・・・・・。その美人さんは台所に立つとまたあの缶詰を開け始めた。ベリ、ベリ、カラン、カラン。料理とは思えない音がなる。新しいイスに座り待っているが
どうも手伝った方がいいのか。後姿を見ているとなんだか悪いような気がしてきた。
フライパンが出てきた。また例の肉を焼き始める。アレは焼く必要があるのだろうか、ご機嫌なリナさんから鼻歌が聞こえてくる。
「ほらほら、その箱から新品のお皿出して並べてね、結構かわいいのよ」
今日到着したと言わんばかりのダンボールから箱を取り出す。中にはウサギのイラストが入った白いシンプルなお皿。とりあえず並べてみる。僕とリナさん二人分。恋人のような感じになってしまった。他に
はフォークもあったので並べる。しかし先ほどから焦げた匂いが強烈に焦げた匂いになってしまった。
「たくさん食べなさい、成長期でしょ・・・・・・。とはいってもこんなんじゃ食べたくないわよね。私ずっとタブレットだったから料理って殆どした事なかったの。ごめんね。また缶詰だけど新しいのを出してあげるわ
」
僕は無言で思いっきり黒い塊にかじりついた。中はやっぱり例の味だったけど、せっかく作ってくれたので全部食べよう。するとリナさんもかじりついた。眉間にしわを寄せて。目があうと笑いながら一緒に全
部食べきった。
楽しい食事の後は一緒に片づけをした。もちろん別々シャワーに入り、またアイヴィーが組み立てたベットに横になり今日という目の前から光を閉ざした。