core07:君がため
ここブラジルのパトスから回収ポイントのサンタルジアまで約40キロ、目の前の敵と戦いつつ、少しでも移動しなければならない。輸送ポットなどの移動手段が無く、アギルギアで高速移動を何度も続けるとエンジンが焼き付いてしまう、短時間で到達は不可能だ。
「アリエッタ、黒い翼と戦いながら、サンタルジアまで移動するよ、あれ相手に逃げ切ることは出来ないけど、有利になれるチャンスを探すんだ」
「ー了解です!皆もついてきて!エルザ、レベッタ、私たちはまだ飛べる!」
「ーアリエッタ・・・・・・。私たちはあなたが好き。信じているから。どこまでもついて行くわ、今までもそうだった。そしてこれからも。それに新しいパイロットさん、アリエッタを救ってくれてありがとうー」
「よかった。少しでも皆に元気になって貰えるなら、僕は最後まで戦うよ。これから、移動しながらの反撃はとっても危険だけど、僕たちが敵を引きつけるから慎重に距離を稼いでいこう、FLDにルートを表示するよ」
「「ー了解!ー」」
FLDにシンプルなルートを作成し共有する。敢えて開けた場所を通り建物を避ける。建物はレーザーで破壊されるとコンクリート片の弾丸を雨のように撃ち出すからだ。いくら強化されたヴァリアブル装甲でも疲弊しきった体では何度も耐えきれない。
アリエッタの背中からブレダと呼ばれる、通信音響兵器が起動した。銀色の小さな羽が少し見える。機械とは思えない。この羽は生きているんだと僕の背中に伝わってきた。
「ー風が穏やかになった今なら、高精度で敵の位置が分かります。少しだけブレダを使用します!ー」
「高速移動しながら使おう、数秒でいいから!」
「ー任せてください!ー」
サンタルジアを目指して軽いジャンプで建物を越えていく。建物が密集した場所から離れ、開けた通りに出るも、眼では奴の姿は見えない。だけど赤い小さな閃光が視界に入り込んできた。ブレダが起動し敵を捕捉する。しかしこれは・・・・・・。
「ーなぜ!目の前に居るはずなのに見えない!?ー」
ブレダは膨大な情報を収集し分析、共有する兵器だ。敵や味方の位置を正確かつ迅速にFLD上にアイコンで表示する。移動履歴や予測、敵の推定位置までマークする事が出来るはずだが・・・・・・。
しかし今、敵のアイコンが僕達と重なる程に接近しているのに目視で捕捉出来ない。まさか・・・・・・。
「アリエッタ!真上だ!!」
僕達の視界は前から上へ、体は強引にひねり空に向かってコールドガンという左手に持ったハンドガンを2連射する。
だけど敵本体よりも先に視界に入ったのは強烈に光る赤いレーザー。とっさに足を使い軌道をずらす。ギリギリの所でかわすも、既に目の前には大きな黒い翼が太陽を遮り、僕達を支配しようとする。恐怖の重圧でアリエッタの風を押しつぶした。
一瞬退こうとするアリエッタ。僕は足を思いっきり踏みとどめる。そして奴めがけて体を回転させ、紅音の蹴りを繰り出した。蹴りは胴体に当たり反動でお互いの距離が開く、僕達はバランスを崩しても意識を合わせ強引に着地、すぐに高速移動に移った。間合いを開ける。
「「ー凄い、コア生命体を蹴るなんて!ー」」
二人とも僕の戦い方に驚いていた。だけどこれだけじゃないんだ、僕たちの戦い方は。
「コールドガンは二発ともシールドで防がれたけど、お陰でメインコアの位置が分かった。おそらく心臓の位置より下の方にあると思う。それに両手にレーザーコア。スピードは思ったより早くないや。いざとなったら押し切るよ」
「ーたった一回の接触でそこまでわかったのですか!?ー」
「感覚なんだけど。でもアリエッタの特殊兵装ブレダのお陰だよ。一瞬だけど、敵のコアに重く当たる風があったんだ、とにかく移動しよう」
「ーはい!ー」
黒い翼は僕たちに釘付けになった。物凄い速さで大気汚染の灰色の風の中に消えていく。また死角から一気に距離を詰めて攻撃してくるだろう。
大きな通りに出たので、二人は建物の方へ隠れるように移動してもらう。これなら倒すタイミングを掴めると順調だと思った。でも、なんだかこの先いやな気配がする・・・・・・。するとアリエッタが再びブレダを起動させる。
「ーこの先、別の敵の気配がします。ブレダを使用しますー」
「僕も感じた。何だろうこの初めての感じは・・・・・・。やっぱりここで奴を倒そう。二人とも散開して、これ以上先には進まないで」
だが一瞬だった。大きな赤い光が視界を遮る。経験した事の無い距離。黒い翼では無く、かなり遠くから!?これは!?
「エルザ!レベッタ!大きく避けて!前から来る!!!」
「「ーえっ!?ー」」
遅かった。長距離から赤いレーザーが二人を撃ち抜いたように見えた。FLDを確認すると二人とも表示が損傷大に変わる。被弾してしまったんだ。なんて事だ・・・・・・。
損傷が激しい二人を抱えて黒い翼から逃げ続けるのは出来ない。それにあの長距離レーザー。早く助け出さないと。アリエッタの心と繋がる細く繊細な神経から、戦えという電撃が走り出す。
そう、やるしかないんだ。でも怒りで恐怖を抑え込んではいけない。僕を信じて。そっと、アリエッタの翼の鼓動を落ち着かせるように手を重ねる。
「二人ともまだ大丈夫だ。黒い翼は何とかする。アリエッタはあの遠くの敵を探して、アリエッタにしか出来ない事なんだから」
混乱するアリエッタ。再び戸惑いと恐怖の感情が流れ込んでくる。手足が震えブレダが上手く機能しない。それでも無意識のうちに諦めないという強い意思が、少しずつ敵の情報を集めていく。
距離5000メートル、タイタン特殊型、20メートル級、デスウォーカー。
するとシュツカートから通信がくる、みんな心配そうだった。
「ーユッキー!逃げて!デスウォーカーはアメリカを壊滅に追いやった奴だよ!未だに倒し方が分かってない唯一のタイタン型だよ!!!逃げて!!!ー」
なんだって・・・・・・。確か端末でコア生命体一覧で見たことがあるぞ、核兵器でも一歩たりとも足止めすら出来ない、死と破壊の悪魔の巨人だと。でも僕達はここで足を止めるわけには行かない。二人を置いて行けないから、もう押し通るしか選択肢はない。




