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core05:ハーニートーストは突然に

 朝の目覚めは悪く、全身の感覚が鈍い。僕の端末には『朝食、5分34秒後に集合』と表示され、カウントダウンが始まった。しかも場所が場所で空母の大きな建物の用な所、たぶんあそこは司令塔だろう。それにしてもいつも突然過ぎる!


 急ぐのには理由がある、大抵こういった場合はリナさんから重要な事を言われるから、すぐに着替えて走った。


 今度は僕の目であるデフォルトアイにもカウントダウンが表示されるようになる。これもリナさんの仕業だ、しかも数字が大きすぎて前が見にくいのですが!


 一体いつになったら到着するんだと言わんばかりに階段を駆け上がった。部屋に近づくにつれて、いい香りがするけど走りすぎてお腹が・・・・・・。


 部屋に入ると、食事の為に軍人さんやその家族であふれかえっていた。一方外が見える大きな窓側の丸いテーブルには朝の日差しが入り込み、沢山の花と食べ物が自然の優しい光に包み込まれていた。それはどれも小さな果実ばかりで、ロストチルドレン達の為に用意されたんだとすぐに分かる。


 そして皆集まっていた。ローマンにファウストにシュツカート、マーガレットの隣に居るのは紅音。マーガレットの姉としての硬い表情は一切無くイギリスの空に相応しい仕草だった。こんなに朝が平和で皆に会えるとは思ってもいなかった。


 すると背後から僕の腕に綺麗な手がそっと入り込んでくる、自然と腕を組み一緒に歩く。甘い香りに誘われて隣を見ると同じ人とは思えないほどに美しく、笑顔が眩しいのはブレア・エンフィールド。紅音の姉であり最強の翼。吸い込まれるように目があった。


「おはようございます。よく眠れましたか?それに雪人さんは危険ですので、この手は私がつなぎ止めておきましょう」


「え!?僕、危険人物!?」


「っお!ユッキー、今頃気づいたの?アハハハハ」


 シュツカートはいつも元気でいいなと思う、ファウストもブレアに負けないぐらい綺麗で気品があり、何気ない笑顔も絵になるように美しい。皆に見とれているとローマンが僕にパンを持ってきてくれた。


「雪人さん、このパンはピロシキではありませんが、焼きたてで美味しそうですよ」


 何の変哲もないトーストに蜂蜜がついている。一口かじっただけで、口の中で透き通るように溶けていく程よい甘さ。だけどそれよりもローマンの笑顔がすてきだった。朝の日差しが金色の髪をより目立たせる。


「ありがとう。またローマンのロシア料理が食べたいな、ドイツで食べたお肉が美味しかったし、確か名前は・・・・・・」


「あ!ユッキー!ファウストのドイツ料理も食べたいよね!?そうだよね!?」


「え!?うん!」


 突然シュツカートがファウストを僕の目の前まで押し寄せた。ファウストは突然の出来事に目が点になっている。僕もだけど。


「わ、私は料理した事ないが、この体の標準機能でドイツ料理なら何でも作れる、ようだ・・・・・・」


 ファウストが慌てた様子で色々な表情を見せてくれる。今日は本当にいい日だな。


「それなら皆で一緒に食べられるのがいいかな、小さく切ってね」


「ユッキー!優しい!私もファウストの手料理食べたい!お腹いっぱい食べたい!」


 ふと紅音を見ると大きな窓の外を見ていた。大空はどこまでも続いていて、雲が流れるその先には平和があると信じる事ができると、僕にも皆と繋がって分かったんだ。だから空は見入ってしまう。


 紅音に近づきそっと声を掛ける、紅音は左手に白い花を持っていた。中指と親指で摘まみ、クルクルと回している。


そして指が止まる。


「あ、紅音・・・・・・。僕は君の・・・・・・」


 あれから、今なんて言ったらいいか分からなかった。だけど話したい、今は挨拶だけでもいい。気持ちが焦り、鼓動が他の声に消されることの無く響き渡る。


「雪人・・・・・・」


 こんな明るく楽しい朝だけど、目が合うと紅音も困惑してしまう。強い気持ちを押さえ込もうと、時の流れに任せようとしてしまい、よりいっそう僕たちなら大丈夫だと、過信してしまう。それさえも言わずとも通じてしまう。


 すると突然、僕の端末から大きなアラームがなる。皆を驚かせてしまった。すぐにリナさんからの連絡だと分かったので部屋の外に出た。


『ユッキー!出撃よ!』


「へ?」


 こんなイギリスの海上で!?これはまずい、緊急事態だ!でも空母の警報などはなっていない。すると紅音が僕の腕を掴み、端末に向かって叫ぶ。


「敵はどこだってーの!」


『ブラジルよ!パイロットの応援依頼があったのよ、すぐにコクピットに向かって!稼ぐのよ!』


「僕は誰かと組むのですか」


 急いで走る。ドーラとシュミットもまだブラジルには着いてない筈だし誰だろう。


『イタリアのアリエッタよ』


 するとシュツカートが飛びついてきた。何故か嬉しそうだ。


「ええぇ!?あの皆のアイドル、アリエッタちゃんですか!」


「シュツカート知っているの?」


「それはもう、私達では超有名です。世界一美しいと言ったらブレアさん、世界一かわいいと言ったらアリエッタちゃんですよ!皆のアイドルです、戦場ではライラさんが鎮魂歌や心を落ち着かせてくれる歌を歌ってくれますが、アリエッタちゃんはノリノリのダンスと歌ですよ!」


 シュツカートはオーバーリアクションで一生懸命教えてくれた、よっぽど好きなんだな。


「そうなんだ!ライラの歌は聞いたことあるよ、フランスで確か、シュツカートもファウストも居たよね」


「私達もあの時聞いてたよ!」


 緊急出動なのに、ちょっと心が和んだ。すると紅音が再び腕を強く握り締める。僕の腕、ミシミシ鳴ってますよ、紅音さん・・・・・・。


「アリエッタがなんで雪人なんかと組むんだっつーの!?沢山パイロットいるんだろうってーの!」


 アリエッタの事を知っているのだろうか、紅音様が超不機嫌だ・・・・・・。


『わかるでしょ、黒い翼はかなりヤバイのよ、他のパイロット達はお手上げ状態なの、それにアリエッタの歌、音響通信兵器で作戦を届ける相手がほぼ全滅状態なのよ』


「緊急事態ですね、わかりました。全力で守ります!近くに居る人達も」


『それでこそ私の可愛いユッキー!頼んだわよ!』


 僕は紅音の目を見た。心配しないでほしいと。それは簡単に伝わった。


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